帰路の平穏
今回も書きました。宜しければご覧ください。
初心者なもので、物語を動かすのに苦戦しています。
頑張ります!
もう、どれだけ歩いただろう?
目的も果たして、少し早くなった足取りで、陽の光も届かぬ暗い森の中を兄弟二人で歩き始めて、もう随分と経っている気がする。
しかし、歩いても歩いても目印などがある訳でもない帰り道は、ただひたすらに歩く以外に目的もない道のりで、やる気はあっても次第に疲れが動かす足の速度を緩め始めた。
「ハチ、ここいらで少し休憩にしよう」
「うん、そうだね、僕も少し疲れちゃったから賛成かな」
弟のハチは、少し乱れた息遣いでそう答えた。
俺はその辺の木の根元に腰を下ろして、水筒の水を口いっぱいに含んでから、ハチに水筒を手渡した。
疲れていたのだろう。ハチはゴクゴクと喉を鳴らしてながら水を飲んで、身体が失った水分を補給している。
無理もない。元々この旅は俺一人でする予定だったものに、心配だからとハチがこっそりついて来たのだから、この距離の徒歩での移動はハチには少し辛いだろう。
小一時間の休憩の後、俺はそろそろ歩き出そうと立ち上がった。
「行けそうか?」
「うん、大丈夫だよ」
口ではこう言っているが、浅い呼吸を繰り返しているハチの疲れは、先ほどと変わらないどころか酷くなっているようにすら見える。
だからといって、このままいつあの巨人が現れるかも知れない森の中で、立ち止まっている訳にもいかないだろう。
「……はぁ」
「……ごめん」
「何を謝られてるのか分からんけど、俺がため息をついたのは自分の頼り無さにだよ」
「どういうこと?」
ハチは本気で俺の発言の意図が分からないという表情で聞いてきた。
その声も困惑している。
「大丈夫じゃない時は、大丈夫じゃないでいいんだよ。俺はお前の兄ちゃんなんだぞ? 俺に出来ることなら手を貸すし、出来ないことなら出来ることだけはやってやるに決まってるんだから、頼れることは頼るのが弟であるお前のやることだぞ?」
「ごめん、それにありがとう。じゃあそろそろ行こうよ」
俺の言ったことでやる気を漲られせた目で立ち上がったハチに、それでも俺は首を横に振る。
それから、ハチに背中を向けて、屈んだ姿勢で首だけで振り返る。
「乗ってけよ? 元気になるまでは無償乗車を許可する」
「元気になったら何をとられるんの、それ」
「気遣いと優しさだな」
「確かに、それは僕の分も持ってもらっちゃうかもね」
ハチは言いながら、俺の肩から背負い鞄を取って自分が背負うと、肩から手を回して体重をこちらに預けてもたれてくる。
俺は自分の腰の後ろで両手をガッチリと繋いで立ち上がった。
「ぐっ」
重っ⁉︎
思わず、踏ん張って情けない声が出てしまった。
「兄ちゃん、ほんとに大丈夫?」
「おうよ、任せとけって!」
「そのおかしなテンションが、僕の心配を更に加速させたよ」
「あっはっはっは」
こうなったら、もうとことんやせ我慢で押し通すしか選択肢は残されていない。
「ふふ、でも懐かしいね。昔は歩き疲れて駄々をこねた僕をおんぶしてくれたよね」
「そりゃあ、道のど真ん中で泣きに泣かれたら、しない訳にいかないだろ? お前、そういう時はてこでも動かないし」
「ははは、そうだったね、でも兄ちゃんの背中暖かかったんだもん」
「お前、いつも背負って数分で寝てたけどな」
「ははは」
それから、俺達はお互いに懐かしい温もりを感じながら歩き続けた。
ハチはしばらく喋ってはいなかったけれど、今回は眠ってはいなかった。
「雨?」
背中のハチが言うのと、ほとんど同時に俺の額に水滴が落ちてきた。
ぽた、ぽた、ぽたぽたと、徐々に勢いをつけて落ちてきている。
「まずいな」
このまま濡れ続けると、俺もハチも寒さで更に疲弊してしまう。
その状態で、これ以上進むのは流石にただの無茶なだけで、効率がいいとはとても言えないか。
「とりあえず、雨宿り出来そうな場所を探そう」
「うん、僕も上から探してみるよ」
「上って、頭ひとつ分くらいしか変わらないうえに、この暗さじゃ高かろうが低かろうが遠くは見えないけどな」
「あ!あそこにあるの洞穴じゃない?」
「ん?」
ハチが言葉を聞いて、目を凝らすと雨が地面より高い場所で跳ねているのが見える。
俺は一目散に雨の届かぬ、洞穴の中へと走り出した。
「ふう、とりあえずこれで雨は凌げそうだな」
「よかった。危うく兄ちゃんの雨避けにされる所だったよ」
洞穴に入った所で、とりあえずハチは壁に身体を預けて休んでいる。
「全く、辛いくせに軽口ばっかり言いやがって、そんなことしたって、バレバレなんだから大人しくしとけよ?」
「……はい」
洞穴の中を見渡すと、縦長のスペースには無理しても四人位しか入れないほどの広さしかない。
俺は自分の鞄から、歩きながら拾っておいた木の枝と火打ち石と打ち金を取り出す。
かん、かん、と打ち金を十数回ぶつけた所で、手元のわたに火が移り、火種を枝の中に置くと寒々しい洞穴の中に火が灯った。
「この前、拾った木の実があるから、それを食べて今日は寝よう」
「うん、そうだね、流石に今日はお互い疲れたよね」
十数個の木の実を食べるとハチは、すぐに眠りについた。
俺はそれを見守りながら、ハチが身体を冷やさないように、鞄に入っていた毛布を掛けてやる。
「良い夢見ろよ」
あどけない寝顔で寝ている弟に、声をかけてから辺りの様子を伺い、最後に火を消してから俺も目を閉じた。
意識は、すぐには途切れなかったが、百数え終わるうちには少しずつ途切れていき、やがて夢の世界へと落ちていた。
声がする。弟のハチの声だ。
「兄ちゃん! 兄ちゃん!」
その叫ぶような声は酷く怯えていて、俺に助けを求めているのがわかる。
俺は目を開く、そこに広がっていたのは一面の闇。
暗いというより黒い景色に包まれている様な濁りのない漆黒だ。
手当たり次第に、あちこち腕を回して辺りを確かめるが何にも触れる事はなく気配すらも感じない。
俺は前に進もうと足を前に出す。
しかし、その先にも地面の感触すらもありはしない。
ハチの声はずっと聞こえている。
だけど、どこから聞こえているかも全く判断が出来ない。
まるで、頭に直接流れ込んできている様なそんな感覚だ。
「ハチどこだ⁉︎ どこにいるんだ!」
「がぁぁぁぁ!」
焦燥の中で俺は叫んだ。
その瞬間辺りは突然静寂に包まれた。ハチの声も唸り声の様な絶叫を最後にもう聞こえては来ない。
「ハチ! ハチ⁉︎」
返事はない。
俺の脳裏に最悪の可能性が浮かび上がった。
その時、どこからともなく声がした。
「うひヒひひハははハ」
みィぃツけタ
気がつくといつの間にか、目が覚めていた。
「悪趣味な夢見せやがるな」
今日の目覚めは間違いなく人生で一番、最悪な目覚めとなった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回から少し物語が動き出す……予定です。
次はもっと面白いモノが書けるように頑張ります!