折り返し地点
おかしな所、間違っている所があるかも知れませんが、これを読んで少しでも面白いと思ってもらえたら幸いです。
あれから木々の隙間を縫うように走り続けて、巨人の姿が見えなくなった所で、相変わらず止まる気配のないメェー馬(命名弟)から降りる為、俺達はそこらから伸びる木の枝に掴まって、枝にぶら下がった。
そして、そのままの状態で走り去るメェー馬が闇に消えて行くのを見送って下に降りた。
「助かったね、兄ちゃん」
「ああ、まさかまたあの巨人に出会すとはな」
それにあの巨人、俺達に気づいた時『見つけた』と言っていた。
俺達がこの森に来るのは初めてなのに、あの巨人は俺達を探していた? もしくは誰かが探させているのか? それは……食べる為か?それとも別の目的の為か?
まあ、この件に関しては今考えても、確かな事は分からない。
ただ、どちらにしても村長が巨人の存在を知らなかったとは思えない。
だって、あの花までの道を俺に教えてくれたのは村長なんだから、外が危険と分かっていながら巨人の存在を全く知らなかったというのはあり得ないだろう。
昔の村長は巨人が居ると分かっていて、村の子供を一人で森に行かせる決まりなんて作ったのか? 花を確実に取って来て欲しいなら村の全員で向かった方が確実じゃないのか?
村長は一体、俺たちに何を隠しているんだ?
答えの出ない思考の迷路をぐるぐると彷徨っていると、隣りを歩く弟のハチが心配そうな顔をして事に気付いた。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ! さっきのメェー馬が走ってくれたおかげで、例の花が生えてる場所まできっともうすぐだぞ?」
「そんな顔をするな」なんて本当はハチが言いたかった台詞だと思ったけれど、それでも見栄を張った俺が言えたのは安っぽい励ましの言葉だけだった。
「うん、そうだね。僕も怖い思いを沢山したし随分と歩いてちょっと疲れたけれど、これでやっと折り返し地点だと思うと安心してきたよ」
そう言って、笑ってくれる弟の笑顔は作り物だったけれど、俺の言葉のように安っぽさはかけらもなくて、思いやりに溢れている様に感じた。
「……着いた」
あれから数十分歩いた先で、木々の隙間から零れる光を頼りに進んだ俺達の目の前に現れたのは、辺り一面を埋め尽くす様に敷かれた花畑の絨毯。
「ほんとにあったんだね」
「本当にって、お前疑ってたのかよ」
「いや〜兄ちゃんが村の外に出るための作り話だったら、どうしようってさ」
「こいつ〜いくら俺でもそこまで無謀じゃねえだろ〜」
ハチの冗談に、肩にそっと拳をつけてツッコミを入れる。
「あはは、兄ちゃん痛いよ〜」
「今のはハチが悪いだろう」
さっきまでの不安を追い返すように、その後も二人で軽口を叩いては笑い合っていた。
「あー笑った笑った。さっ、そろそろ目的の花を探そうか?」
「あ、そいえばそうだったね。花のためにここまで来たんだったね」
「いや、流石にそれは忘れるなよ……」
それから二人で、村長に言われた花の特徴を頼りに探していると……
その花は、腕を組んで仁王立ちしている小さな男の像の前に一輪だけ咲いている。
「なんだこの像?」
「う〜ん? 分かんないけど、ご利益とかありそうじゃない? こんな場所のちょうど花の前に立ってたしさ」
「そうかあ?」
「そうだよ!僕達の帰りの無事をお願いしとこうよ」
「いや、いいよ。さっき俺は神様とは方向性の違いを感じた所だから」
「あ、そうなんだ?」
「そうそう、だから花を取って休憩したらさっさと行くぞ」
「あ、待って!僕が兄ちゃんの分もお願いしてあげるから!」
ハチが目を瞑って真剣に目の前の像に語りかけ始めたので、とりあえず俺は花を丁寧に引っこ抜いて村長に貰った瓶のような光る筒状の箱に入れた。
ハチの方に目をやると、まだ何かを話している。
どうせ待っているなら、俺もその辺を見て回ろうかな? こんなとこに来れるのは最後かもしないし珍しい物があったら見ておかないと勿体ない。
それから数分の間、辺りを散策していたが一面にほとんど隙間なく花が生えてる事以外には特に何もなく、動物どころか虫の一匹も目にしなかった。
花の事にしても、先ほど採取した花以外は道中に生えていた白い花くらいしか生えていないじゃないか。
少し落胆した表情で元居た場所まで戻って来ると、ハチがちょうどお願い事とやらを伝え終わったのか、立ち上がって振り向いた。
「ん? 今、兄ちゃんなんか言った?」
「いや、俺は何も言ってないぞ?」
ハチが急にこちらを振り向いたので、足音や気配で気づいたのかと思ったけれど、どうやら声が聞こえて振り向いたらしい。
「そっか、じゃあ神様が僕のお願いに返事をしてくれたのかもしれないね」
「おう、そうだといいな〜」
そういえば、ここからの帰り道はあの巨人に見つからないように少し迂回するルートを選ばないと行けないな。
「兄ちゃん、僕の話ちゃんと聞いてないでしょう?」
「? いや、聞いてるよ? 神様がお前の言葉に答えてくれたんだろ?」
「うぅん、聞いてるなら、もうちょっと気持ちを込めて答えてよぉ」
「あ〜ごめんな、少し考え事をしててさ」
それに行きはメェー馬のお陰で時間をだいぶ短縮できたが、帰りは予定通りの時間に加えて、迂回する距離も入れたら大幅に到着までの時間が延びるのを計算して進まないとな。
「大丈夫だよ。あとはもう家に帰るだけなんだから」
こんな時だっていうのに、ハチはいつものように無邪気に笑っている。
「そうだな、もう帰るだけだし早く村に帰って、俺の武勇伝をみんなに聞かせるのが楽しみだぜ!」
その笑顔に応える為、俺も全力の笑顔で返事をする。
そうだ。慎重さは大事だけど考えすぎて臆病な考え方になってしまったら逆効果だよな。
「よし、そろそろ出発するぞ?」
「うん、やっと帰り道だね!」
目の前に見えるのは相変わらずの暗闇だったけれど、歩く速度は落とすどころか自然に早歩きになっていた。
俺達は光の届くこの場所から、もう一度数メートル先ほどしか目の届かない闇の中へと足を踏み入れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回はもっと面白いモノが書けるように頑張ります!