表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷子の森  作者: 明日栄作
13/13

おかえりとただいま。

拙い文章ではありますが、このお話もこれが最後でございますので、是非とも読んでみてくださいませ。

左右に等間隔で置かれた蝋燭の灯りを頼りに、石造りの長い通路を歩き始めて、すでに数十分が経過している。


後ろを振り返っても、もうタイランの姿は見えない。


思えばタイランが居なければ、あの時崖から落ちた俺は、そのまま考えなしでハチを探す為にすぐさま森に戻っていたかも知れない。


そう思うと、あの時タイランが力の事やハチを助ける方法を教えてくれなきゃ希望も未来もなかった。


それについさっきだって助けて貰ったばかりで、まだ何もお礼を出来ていないからな、せめてタイランの兄であるアジテーシを止める事で少しで恩返しになるだろうか。


なんて、ここまでの道のりを少々早い気がするが、振り返って思い出しているうちに長い通路は終わり、俺は開けた場所へと辿りついた。


そこは円形に広がった広場を塀が囲んでいるが正面だけが階段になっている。


その階段の上で、偉そうに玉座に腰掛けている俺とそう歳の変わらない青年が、うっすらと笑みを浮かべた腹立たしい表情でこちらを眺めている。


と、青年は不意に口を開いた。


「お前のようなガキが、よくぞワシの所までたどり着いたな? 森を巡回させている黒いガキどもからの報告を聞いて、どうせ毎回のようにすぐ死ぬと思っておったが、よくやった! ワシを楽しませた事、褒めてやろう!」


外見年齢に対して、喋り方がえらく古臭いこの偉そうな青年が、おそらくタイランの兄であり、ルラ村長の『ゲームの相手』であるアジテーシで間違いないだろう。


「やっと会えたな、お前が俺の弟を化け物に変えた男か」


「ガキよ、お前は何か勘違いをしているな? ワシに人間を化け物にする力などありはしない。ワシにあるのは化け物の本能を呼び覚ます力だけだ」


「その化け物を造り出したのは、お前だろ!」


「いや、違うが? ワシの知っている限りで化け物を造り出した者は、ワシの不甲斐ない弟と、お前以外にここに辿り着いた、ただ一人の人間であるあの博士だけだろうな」


アジテーシは全く悪びれる様子もなく、本気で自分がやっている事を正しいと思っている奴の目をして言う。


が、今はそれよりアジテーシが言った最後の言葉に引っかかる。


「ルラ村長がここに来たのか⁉︎」


「村長? 今はそう呼ばれているのか、そうだ。あの男は親の仇だとか騒ぎながらワシの所まで来ると、黒いガキ共に腕をへし折られ這いつくばっても、全く憎しみの衰えぬ目でワシを睨みつけておったわ!」


アジテーシは俺の怒りを逆撫ですると知ってか知らずか、とても愉快そうに笑っている。


でも、ルラ村長がここにまで来たことがあったのか。


そうか、でも、だからルラ村長はここの正確な場所を俺に教えることが出来たのか。


ん、でも……


「お前はルラ村長を見逃したのか? それとも残念な頭のせいで逃げられちまったのか?」


「ハハッ!ガキよ、そんな安い挑発でワシは怒ったりはせんぞ? それに博士は見逃したというより退屈しのぎのゲーム相手として帰してやったのだ」


そういえばルラ村長も言っていたな、これはゲームだって。


全くどいつもこいつも他人の命を賭け金に好き勝手やりやがるよな。


この怒りをぶつける相手も、今は目の前のバカしかいないから仕方ない。


「まあ、博士は勝率が低いからのう、もうじじいになってるおるだろうな」


「そろそろ、話はいいよ、俺はお前とゆったりお喋りできるほど気は長くないんでな」


俺はアジテーシが喋るたびに、ムカムカと怒りの温度が上がるのを感じて、さっさとケリをつける為、話を少し強引だが終了して構える。


「ほう? ワシにはお前のようなガキの相手をしている暇などないのだがのう」


「俺の弟を化け物に変えておいて、今更忙しいなんて理由で避けられるような戦いじゃねんだよ!」


「いちいち吠えるな、ならば相手をしてやろうではないか、しかし、コイツを倒せたらだがのう」


アジテーシが目の前に手をかざすと、天井から元々準備していたのであろう。


青黒い肌に不気味な笑みを浮かべた俺の弟ハチだった者が降って来た。


「殴って居場所を吐かせるつもりだったけど、手間が省けたな」


「その余裕がどこまで続くか見ものだぞ? 行け、八魔。そのガキを排除せよ」


ハチはアジテーシの命令に頷くと、ひとっ飛びで、目の前まで飛び出して、いきなり殴りかかってきた。


その拳を寸でのところでかわした俺の顔に、冷や汗が流れる。


今ので分かった。コイツはあの時よりも、強い。


あの時のハチは魔人とハチの精神がお互いに主導権を取ろう争っていたから、動きが鈍っていたのか。


けど、今のハチはもう魔人に完全に支配されている為、俺を殴る事など躊躇しないどころか喜んでやる奴だ。


俺はタイランにゆっくり運んでもらっていた間に回復した負の力を解放して、お返しの一撃を放つ。


が、ハチはそれをいともたやすく手払いで弾かれてしまい、俺はすかさず飛んできた反撃をもろにくらう。


たまらず、のけぞった俺にハチは素早く拳の三連撃を畳み掛けてくる。


それをなす術なくくらって、立っているのがやっとの、俺はこの前で腕をクロスしてガードの構えをを固める。


まずい、これ以上くらうと本気で立ち上がることが出来なくなりそうだ。


「ヒヒっ」


そんな俺を見て、棒立ちのハチはこの状況で余裕の表情で、ただ笑っている。


「格下だと思って、図にのるその油断が命取りだぜ!」


俺は不快な笑顔を歪ませる為、繰り出した二つの拳は、しかし、またもキレイに弾かれて。


その場で回転してハチの裏拳で、ついには壁まで一直線に飛ばされしまった。


壁に叩きつけられて、膝をついた俺を見下ろしながら、ハチはゆっくりと近づいて来る。


そのハチに悟られないように、身体の影に隠れた腕に、力を溜めて機を待つ。


「おいおい、もう終わりか? ワシをもっと楽しませてはくれんのか」


目の前ハチの動きに集中している俺の耳に、アジテーシの退屈そうな声が聞こえてくる。


「うるせえ、元からお前を楽しませようとなんてしてねえよ」


やっと目の前まで、来たハチが振り下ろした拳をかわして、ふところに潜り込んだ。


そして、俺は腹目がけて渾身の一撃を放つ。


それをハチは簡単そうに受け止めて、俺の腕の関節をそのまま外す勢いで、掴んだ俺の拳を回そうとする。


これはまずい、格上のハチを相手に片腕を失うわけにはいかない。


俺は、ハチの手の回転を止める為、肘に膝蹴りを繰り出した。


俺の膝が直撃して、たまらず手を離したハチは逆側に曲がった肘を、当然の事のように再度逆側に曲げて強引に元に戻す。


すると、すぐさま次の攻撃に出ると思ったハチは、その場で構えをとって俺を見定める為かこちらの様子をうかがっている。


まずいな、ハチの方はどうか知らないけれど、こちらの負の力を身体中に巡らせるのには時間制限がある。


だから長期戦だけは、避けなくてはならない。


とは言っても、ハチは実力も上でさっきみたいに攻撃を誘ってカウンターならともかく、真っ向勝負では相手になるかも分からない。


それなら……!


「そっちから来ないならこっちから行くぞ!」


俺は足を一歩前に踏み出すと、思い切り跳躍してハチを跳び越え、そのままアジテーシ目がけて拳を振り絞る。


が、案の定ハチがそれを許さない。


空中の俺の足を掴んで、地面へと叩きつける。


「がはっ!」


叩きつけられた地面はひび割れ、俺の背中からは何かが軋む嫌な音がした。


ハチは倒れた俺の腹を踏みつけて、追撃してくる。


俺はその腹の上の足を必死に掴んで、二撃目の足を止める。


が、足を止められた事で今度は顔に狙いを定めて、右拳を握っている。


「おい、八魔。そろそろそのガキにも飽きてきたから、さっさと終わらせよ」


アジテーシの声にハチは返事をしなかった。


けれど、ハチの力がその声に応えるかの如く、握った拳が二回りは大きく膨張している。


「ハチ、お前、嘘だろ……はは」


その暴力的な見た目に思わず、俺は乾いた笑いがこぼれた。


元々、倒れた俺に追撃をしてくるハチの足を掴んで、拳を使わせてかわそうとしていた俺の目論見は巨大すぎる拳によって、振り出しに戻った。


その巨大な拳を、この距離ではかわすのも、ましてや受け止めるのも不可能だ。


俺の心中がわかったのか、ハチは目の奥に殺意を宿した満面の笑みを浮かべて、拳を振り下ろした。


瞬間、地響きと共に炸裂音が広場に轟いたのち、そこは嘘のような静寂で満たされた。


「ふん、終わったか。久しぶりにワシの元に辿り着いた者だと思って期待したが、大したことはないただのガキだったか」


「ぐヒヒッグヒッ」


「おい、八魔、もういいからその生ゴミを外に片付けておけ」


「ヒーひッヒひぃぃぃぃ!」


「おい、八魔! いつまでそこに突っ立っておるのだ! さっさと外に出て行け、このグズが」



「……俺の弟をグズ呼ばわりとは、やはりお前だけは許すわけにはいかないな」


俺は、ハチの右腕を、全力を注いでそらした左手で、肩から下が潰れて使いものにならなくなった右腕を抑えながら立ち上がる。


「八魔! 何をしている⁉︎ 生きているなら、さっさと、とどめを刺せ!」


「お前の声は、もうハチには届かないよ」


俺は空になった注射器をその場に捨てて、徐々に身体が小さくなっていくハチの背中を見て一安心する。


良かった、延命の花の薬はちゃんと効いてるみたいだ。


「ほう、やるなガキ。ここまでやるとは思わなかったぞ」


「お前は、もう終わりだよ」


俺は一歩一歩、アジテーシとの距離を詰めていく。


「ワシが、終わりだと? そんな満身創痍な身体で何ができるというんだ」


「まだ、お前を殴る事くらいはできるよ」


「はっはっは! そうか。それはさぞ痛いのだろうな!……では、お前の勝ちだな」


俺はまだ動く左手を握って、この後に及んでも自信過剰の表情を崩さないアジテーシの顔へと憎しみも怒りも負の力以外の全てを込めて、拳を振り抜いた。



「なんだ、来てたのか? 来てたならハチに殺されそうになった時に、助けてくれても良かっただろ」


気絶したアジテーシを目の前に形容しがたい感情抱きながら、背後から聞こえてきた足音に語りかける。


「アレはお前達兄弟の闘いだったからな、そんな無粋な真似はしないさ」


元の身体に戻ったハチを見ながら、タイランが俺の方へと近づいて来る。


「それにしても、兄を殺さなかったのか。殺されて当然とはいえ、自分の兄弟だ。心から感謝する」


「いや、違うよ、俺がアジテーシを殺さなかったのは情けなんかじゃない。知ってただけだよ、兄を想って怒る弟は怖いんだぜ?」


「ふっ、そうか、そういう事ならお前の弟に感謝しておこう」


タイランはアジテーシを抱えると、広場の出口へと向かって歩き始めた。


「もう行くのか?」


「ああ、オレたちもケジメをつけなければならないからな」


「そっか……また、会えるよな?」


その背中に問いかけた、俺の方を振り向かずタイランは答える。


「当然だ、お前に戦い方を教えてやる約束がまだだからな」


そんな言って去っていく、タイランの背中を見送ってから、俺もハチを左肩に担いで外に向かう。


外に出ると、巨大な木々で陽の光すら差さない森に囲まれた花畑だった場所は。


周りの木が少しばかり小さくなり、木々の間から射し込む光で、俺たちの帰り道は明るく照らされている。



ハチを担いで歩き続けた帰り道では、あの巨人達は見る影もなくなっていて、来た時とは打って変わって安全な道を歩いて行く。


途中からは回復した右腕と負の力を使って、猛スピードで森を駆け抜けた為、逢魔が時のまだオレンジ色の空の間には、ハチと俺の故郷である子人村に帰ることが出来た。


「おい! ナナ、とハチじゃねえか⁉︎ お前ら二人で儀式に行ってたのか!」


村の入り口で、会ったサンが目を丸くして俺とハチを交互に見ながら尋ねてくる。


「いや、村を出てしばらくしたらハチが、俺を心配して追いかけて来てくれたんだよ」


「なるほどな、あまりにも帰りが遅いからナナが死んじまったのかと思って、村のみんなも心配してたんだよ」


「ああ、今思い出しても壮絶な旅だっ……た……よ」


この数日は本当に一日一日が濃い一週間だった。


だからだろう。


さっきから俺は足から力が抜けそうで立っているのがやっとだ。


「おい、ナナ? どうしたんだよ」


心配そうなサンのうるさい声を耳にしながら、俺はその場に突っ伏して最後の言葉を口にする。


「……寝る」




翌日、自分のベットで目覚めた俺は隣の部屋のハチを起こしてから、村中のみんなに声をかけてルラ村長の家を訪ねる。


そこには、俺たちを車椅子で出迎えるルラ村長の姿があった。


俺以外のみんなに心配そうに「大丈夫?」「どうしたの?」と声をかけられて。


ルラ村長は、チラッと俺の顔を見た後で「実は昨日、転んでしまったんだ」と、とぼけた笑顔でみんなを安心させていた。


それから、俺はルラ村長の家でみんなにこの村の儀式と俺とハチの旅の間に起こった事を包み隠さず話し始める。


「という訳で、アジテーシを倒して森に居た化け物もいなくなって、めでたしめでたし。という感じなんだけど……」


俺が語り終えると、みんな戸惑っていたが。


「スゲェ! 本当にナナはこの村の英雄になったんだな!」


と、いつものサンの空気を読まない発言で場が少し和む。


それから俺は村のみんなに囲まれ冒険の話を聞かれて続けて、解放された時には外の陽の光が、薄暗い月明かりに照らされている時間だった。


「はあ、やっと解放されたよ」


「はは、よかったね兄ちゃん。今日は人気者だったじゃん」


他人事だと思って、ハチは呑気に笑っている。


「“今日は“ってのが気になるけど、お前もほっとかないで助けてくれよ?」


「僕はそんな事より、村長の研究室の話を聞きたかったから」


「いや、そんなことって……まあいいや、それでお前が聞きたい事は聞けたのかよ?」


村長は長年俺たちに、勉強や武術、野菜の育て方や魚の釣り方、他にも数え切れない事を教えてくれたけど、研究の話なんてした事が無かった。


「ううん、本は自由に読めんでいいって言われたけど、実際の技術的な事は教えるつもりはないみたい」


「そっか、それは残念だなぁ」


「いや! 僕はまだ諦めてないよ? 本で硫酸っていういい物を見つけたからね。きっと村長も自分から僕に研究の事を教えたくなるよ、ふふふ」


「おお、そうだな。まあ、頑張れよ?」


怪しく笑う弟に一抹の不安を覚えながらも、弟が新しい物に挑戦しようとしているのを兄として心から応援しようと思う。



その後、三日ほどルラ村長の家から聞こえる悲鳴が村中にこだましていたが、ルラ村長の正体を知った村のみんなは、そっと耳を塞いで苦笑いで日常を過ごしていた。


そんな村長の悲鳴も昨日から降り続いていた雨も止んだ頃。


外に出た俺の顔に太陽の光が降り注ぎ、眩しくて思わず手で遮る。


指の隙間から覗いた空には、綺麗な七色の虹がかかっていた。




終わり

最後の最後まで、読んでくださりありがとうございます。


この話は元々別の所で書いたすごく短いネタ出しのような話をちゃんと終わりまで書いてみよう。


と、書き始めたので最後までかけて満足していますね。


では、まだ終わっていない小説もあります故、次回はもっと面白いモノが書けるよう頑張りますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ