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迷子の森  作者: 明日栄作
10/13

故郷への寄り道

続き書きました!


今回は主人公が昔話を聞いて村へと、向かった後の話です。



タイランと別れた俺は、日の暮れかけてきた森の外周に沿って、流れる水の音がする河原を前だけ向いてひたすら走る。


ついこの間までしばらく森の中に居て、木々で気づかなかったけれど。


ここ時間の走っている俺を前から後ろへ吹き抜ける風は少し冷たい。


こんな事ならもう少し着込んでから、タイランの家を出ればよかった。


と、俺が後悔し始めた時。


まだ、かなり距離はあったが遠くの方に俺が延命の花を摘んでから、雨に降られて、怪物に襲われ、挙げ句の果てには崖の下へと落っこちながらも目指していた場所である村の灯りが、チラチラと見えはじめていた。


それからしばらく経って、すっかり日も落ち村のみんなが各々の家で自由に過ごし始める時間に、俺の長い長い帰り道は終わりを迎えた。


俺は、久しぶりに眺める見慣れた風景に懐かしさや安心感でほっとする暇もなく、真っ先に村長の家へと向かう。


村長の家はこの村の中心にある大きな施設で、俺が物心ついた頃から『夜明け孤児院』と書かれた錆びれた看板が掲げられている。


ギシギシと音をたてる木の階段を上がり、俺は扉の前に立つ。


握った手の甲で数回、扉を叩くと中から聞き覚えのある懐かしい声が聞こえる。


「はいはい、こんな時間に誰ですか〜?」


扉を開けて出てきた声の主は、白髪まじりの頭で眼鏡をかけたとぼけたお爺さん。


この子人村の長にして、全ての村人達の導き手、ルラ村長だ。


「おお! ナナ帰ってきたのか⁉︎」


ルラ村長は目を見開いて、久しぶりに会った俺の全身をじっくりと眺めている。


「そうなんだ、それで今帰ってきたところでなんだけど、村長に頼みがあるんだ」


「頼み? まあ立ち話もなんだ、とりあえず中に入りなさい」


扉を開けたルラ村長の手に促されるまま、俺はストーブのついた暖かい部屋、村長の家へと入る。


「おじゃまします」


中に入って、お互い椅子に座る。


俺は一人がけのソファに腰を下ろし、村長は脚が半月形になっている椅子に座り、背中に体重をかけて前後にゆらゆら揺れている。


真面目な話をしようとしていたのだが、村長の行動で場がなんとも締まらない。


久しぶりに帰ってきた奴が、いきなり頼みがあると言ってきたら、普通はただならぬ空気を感じとって重苦しい雰囲気とかになるだろうに。


何椅子をゆらゆらして遊んでんだ、このおじさんは。


そんな緊張感など微塵も感じない中で、俺は筒に入れておいた例の花を、自分が持っていた鞄の中から取り出す。


「それは延命の花か? 手に入ったのか⁉ 素晴らしいぞナナ、お前はこの村の英雄だ!︎」


英雄か、それは今の俺には皮肉が効きすぎてとても笑えない冗談だ。


俺は、最愛の弟を守れなかった愚か者だ。


花を見て嬉々として喜ぶ村長に、俺はタイランとの会話を思い出して、この村で唯一老いた者であるルラ村長に質問を切り出す。


「村長、どうして森にあんな化け物が居るって教えてくれなかったんだ? それに俺達は何者なんだ? にんげんじゃないって、言われたんだけど……」


それを聞いて、村長は別人のように真面目な顔つきになり、椅子をゆらゆらと揺らしてふざけるのをやめて立ち上がって話し始める。


「そうか、知ってしまったか。ならば話すしかあるまい、お前たちがなに何者であるか、そしてこの花を入手する儀式について」


俺は黙ってまま頷いて、続きを促す。


「この儀式はな、ゲームなんだ。私達は本気でも、あちらからしたら、これはただのお遊びなんだ」


ルラ村長の声音は、いつものとぼけている時とは違い、今の真面目に話す村長から歳など全く感じさせない。


「あちら?」


「あの巨人達の親玉、アジテーシという男だ。そのアジテーシが私達人類に持ちかけてきたゲームがその花を取るためのこの村の儀式だ」


アジテーシ、それが弟のハチを化け物に変えた者の名前……


「その花が咲いていた場所には巨人が居なかっただろう?」


「ああ、この花を摘んだ花畑は平和そのもので、敵なんて気配すら感じない穏やかな場所だったよ」


だけど、今考えてみればあの場所でハチは『神様の声が聞こえた気がした』と言っていた。


つまり、あの時点でアジテーシは弟の命を握っていたのかも知れない。


「そうだ。何故ならあそこはゴールだからだ。そして、巨人達はそこにたどり着くのを邪魔するギミックのような者だからだ」


あの化け物がギミックで、ギミックを上手くかわして花を取って帰るのがクリア条件のゲームって事か。


本当に知れば知るほど、アジテーシという男はふざけた野郎なのが分かっていく。


「じゃあ、尚更巨人の事を教えてくれれば対処も出来たんじゃないのか?」


「ああ、だがこのゲームにはルールがある。それはこちらから送り出す戦士に、ギミックに関する具体的な事は言っては行けない、送り出す戦士は一人ずつでなければならない。これを守っている内は、アジテーシはこのゲームを続けるつもりらしいんだ」


「もし、ルールを破ったら、どうなるんだ?」


俺は、あんな化け物を従える奴が出来ない訳がないと分かっていたけれど、確認せずにはいられずに尋ねる。


「私達は……終わりだ」


そんな風に短く答えた村長の顔は、恐怖で青ざめている。


その顔見ていて悪いとは思ったが、俺は村長に真実を告げることにした。


「最近、ハチの奴を見たか?」


「いや、お前が儀式の為に村を出た後からは一度も見ていないな? ナナが帰ってきたというのにまで家に篭っているのか」


そうか、ハチは家で拗ねているなんて思われて、あれから約一週間もの間、誰にも探されてもいないのか。


「いや、違うよ。ハチを見たかと言ったのは、俺が見た光景が本当は悪い夢とかだったらと思って聞いただけだよ」


「なにを、言っている?」


「ハチはもうこの村には居ないよ。俺が村を出てすぐに追いかけてきて、一緒に花を取りに行ったんだ」


「何? という事は村を二人で……出たのか? ハチはどうなったんだ⁉︎ 森ではぐれたのか!」


もしも、はぐれたのなら探せばいいだけだった。


森中を血眼になって確実に見つかるまで、永遠にだって探して、連れて帰ればよかった。


でも。


「いいや、アジテーシの力でハチは化け物にされてしまったんだ」


俺はその言葉を歯を食いしばり、握った手からは指が掌に食い込んで血が流しながら言う。


そうでもしないと、悔しさで我を忘れてしまいそうだった。


「何⁉︎ ハチがあちら側の味方になってしまったのか!」


村長はいきなり取り乱して、俺の肩に手を置き、村長が椅子の次は俺を大きく揺する。


俺は突然の事にされるがままになって、頭をシェイクされる。


うぇぇ、気持ち悪い。


「おい、落ち着けよ! ハチは味方になった訳じゃない。無理矢理操られているだけだ!」


「そんなのは同じ事だ! あの子は奴らを打ち倒せる最後の希望だったんだ! よりにもよってお前のような中途半端な出来損ないを追いかけて行ってしまうなんて……そんなっ!」


そんなは使い道の無くなったガラクタを見るように俺を一瞥して、手で顔を覆って項垂れている。


「お、おい村長どういう事だよ? 兄の俺が言うのもなんだけれど、ハチは気持ちの面では周りも巻き込んで笑顔にするような奴だけど、戦うとかそういう事には向いてないだろ」


昔から週に一回は兄弟で組手をやっているが、ハチは少しずつ成長しているとは言え、まだまだ隙が多く一度として俺に参ったと言わせた事がない。


言いたくないが、正直戦いに出るには危なっかしいという印象しかない弟だ。


俺なりの弟への評価を口にした時、村長は鼻で笑って、俺の意見を一蹴する。


「お前がそう思うのも無理はないが、あの子は戦闘の天才だよ。教えた動きは数時間でものにして、教えてもいない動きも三日あれば形にしてしまう。正直ハチには私がアドバイスしてやる事など、すでに一つもない」


「いや、でも俺との組手で……」


「まだわからんのか? お前は手加減されていたんだ。自慢の兄の自尊心を傷つけないためにハチに気を使われていただけだ」


は? じゃあ今までハチは俺と組手をしながら、ワザとサンドバックになっていたっていうのか。


そんな自分より何もかも劣っている兄を、ハチは慕ってたいうのか?


俺の脳は理解する事を全力で拒否したが、俺の身体がハチが化け物になった姿と交わした時の感覚を思い出す。


俺は初め、負けたのは化け物の力を手に入れてハチがパワーアップしたからだと思っていた。


だけど、タイランの話を聞いて知った事がある。


俺の力と化け物の力は理性があるかないかの違いで、元は同じ力なんだと。


じゃあ、あの時俺の拳をいとも簡単止めて見せたのは、紛れもなくハチ本人の実力で少なくとも俺が知っているハチはあんな事は出来ない。


俺はここにきてさらに怒りが込み上げる。


弟をあんな目に合わしたアジテーシ。


そして、理性を失ったからこそ見れたハチの本気に心の底から怒りが湧く。


兄として弟に手加減されていたなど、負けることより屈辱的な行為だ。


そんなもの、到底許せる訳がない。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


この作品は、そろそろクライマックスですので今まで以上に力を入れて書けるよう頑張ります。


面白いと思ってもらえたら、ブックマーク、ポイント評価、感想などしていただける嬉しいです。


それではまた次回も、よろしければお付き合いくださいませ。

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