お淑やかにゆるりと行きましょう。
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「ソルジア、今言ったことは無かったことにしてあげる。……なんでここに来たの」
「言いませんでしたか? 全然慣れそうにないんです。部屋は広いし、あんなの私一人に与える物じゃないですよ」
「まあ貰えるもんは貰っとけよ、下手に遠慮して雰囲気悪くなるのも嫌だし」
「そうは言われましても」
持て余すわな。こんなに広いと掃除とかする気起きないよ、雑巾も買いたくなくなる。人をダメにする部屋だ。
少しぬるくなった紅茶を一口飲む。「出来たてが美味しいのに……」とソルジアは言うが聞く気は無い。
「相変わらず美味しいですねえ」
「お褒めいただき光栄です。先程のやり取りが無ければ」
「じゃあこれからいい所のお嬢様らしく敬語使おうか?」
「出来るものならどうぞ」
いかにも舐め腐った言い方。いいじゃない、やってやるよ。
コホンと大きく咳払いをして、ニヤニヤしているソルジアの方を向く。今に見てろ、リスア様かっけえって言わせてやる。
「ソルジアの淹れて下さった紅茶は絶品ですね。右に出るものは一生出ないでしょう」
「かったかたの敬語ですね。ふんぞり返り過ぎて礼儀の欠片も落としましたか」
「そういうソルジア君こそ主人に対する態度じゃないですねえ天界まで投げ飛ばしますよ」
「おお怖い怖い」
怖がってないくせに。すっかりぬるくなった紅茶を一気に流し込む。美味しい、熱くなければもっと美味しいと思う。
今度冷たい紅茶かコーヒーでも作って貰おうか――――あ? ドアが三回ノックされた。驚いたじゃない、ノックするなら一言くれたって。
ソルジアはここにいる、だとすればランヴィさんか? でももう釘は刺されたし。
「リスア、いるか?」
「ちょ、リスア様、クロノ王子じゃないですか」
「分かってる分かってる、はい、今出ます!」
片付けといてとソルジアに任せ、急いでドアを開ける。そこには感情のない様な顔をしている王子がいた。なんかあったんだな。
「あ、あのう、何か御用でしょうか?」
「ランヴィが来てないか?」
「ランヴィ様……来てませんよ、釘を刺したから来なくていいと思ったんでしょう」
「そうか」
はあ、と大きくため息をついてこちらに目線を合わせる。今日だけで相当疲れてません?
お疲れ様です、側室のリスアには何も出来ませんけどね。
「多分、俺の気を引きたかったんだろう。俺が気持ちを汲み取れなかったせいだ」
「失敗は誰にでもありますから……探さなくていいんですか? こうしている間にもランヴィ様は動き回っているのでしょう?」
「……疲れたんだ、こんなに行ったり来たりすることなんて滅多に無かったからな」
「お疲れ様です。ソルジアもいることですし、紅茶でもいかがですか」
疲れが積もりに積もったって顔をしている。そうだ、ソルジアを使おう。
そんな単純な思考であっさりソルジアを売った。あ、余計なお世話だったかな……。
下手に出てしまったかもしれない。そう思った途端、顔が青ざめて行くのが分かった。さあっと青くなった、どうしよう。
「――ああ、頂こうかな」
「……え、本当に言ってます? ランヴィ様は」
「疲れているんだ、好感度なら後で稼いでおく」
「そう言ってる時点でランヴィ様のこと妻だと思ってないですよね」
まあ? 側室のリスアには関係ありませんけど?
いつの間にか後ろに控えていたソルジアに「後はよろしく」と伝えると結構いいパンチが私の背中に当たった。