前言はいつでも撤回できるようにしましょう。
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自分で行った自分による自分のための部屋紹介も終わった。呆気なく暇になった私は早めに湯浴みを済ませ、ベッドでひたすらごろごろしていた。
あー……ソルジア来ないかな、もしくは面白い他国の王子が私を攫いに来てくれないかな。
だるいわあ、寝っ転がるのも億劫、息をするのも億劫、死ぬ気は無いけど。無いから今の私は字の通り生き霊だ。
「ひーまーだーなー。誰かと遊んでやってもいいんだけどなー……ソルジアとかソルジアとかソルジア・プンラト君でも来ないかなー」
あの国にいた頃は常に私のそばにいてくれた。優しくて頼りなくて、でも精一杯守ってくれた……今思えば両親より両親してた。
でもこの国の側室になった以上、忌み嫌われる悪女という印象を抱く人もいるのではないだろうか。また敵だらけの生活。
せめて本一冊くらい置いてくれればいいものを。買いに行けばいいのかな、そうか、お出かけ行こう!
「この時のためのお金だよね」
「……リスア、いるか?」
「王子ですか? ソルジアかと思った」
ベッドから降りてドアを開けると、相変わらず無表情なクロノ王子。ランヴィさんならどこか行きましたよ。
「ランヴィ様なら部屋に戻られたかと」
「やはり来たか」
「あれ? 知ってたんですか?」
「いや……さっき初めて知ったんだが。色々と」
少し疲れた顔をしている。そんなに急いで来る所でもないでしょう。
それにしても、色々と、とは何だろう。ランヴィさん、特に変わった様子ではなさそうだったしなあ。
「色々ってなんですか?」
「ランヴィがここに来る前、話をしていたんだ」
「へえ、普通に仲睦まじそうで」
「問題はここからだ。その時、少しだけ側室の……お前の話をしていた」
ふうん。あの人私のこと、あまりよく思ってなさそうだったしなあ。オチが読めた気がする。嫉妬でしょ、嫉妬落ちで面倒くさい奴になったんでしょ。
「何か色々言われました。クロノ様に触らないで下さい!! って。別に人のもの取るほどイカれてないんですけどねぇ」
「一応止めたんだが聞かなくてな。さしずめ、化けの皮が剥がれかけていると言った所か」
「一日で破局ですかい」
「そんなこと出来るわけない。おちゃらけたお前に言っていいか分からないが、あれは元々仕組まれていたんだ」
……は、本当? だとしたら私結局死ぬ運命にあったってこと? 何それ詰み。
王子はきまりが悪そうに話を続ける。可哀想に、まあリスアさんの方が可哀想ですけど、だって国を挙げて殺されかけてんだもん。
「幼少の頃から『どの国の王女と結婚するか』を教えられる。そして、その相手が世で一番だと刷り込まれる」
「素晴らしい教育ですね、一途になれるなんて」
棒読みの賞賛である。何その地獄教育、たまたま相手が美人さんだったからよかったけど、性格最悪の私みたいな奴だったらグレてたぜ?
「……で、お前の話を出した途端に空気が変わった。「なんで他の人の話をするんですか」と言われたんだ」
「側室なんか作らなきゃ良かったと。私は生き永らえるので大賛成ですけどね」
「それでお前に殴り込みだ」
「お熱いことで。私引きこもってるんで責任とか知りませんからね」
と言うと、王子は少し残念そうな顔をした。何、引きこもっていいっつったのそっちでしょ。私女が女を嫌うやつとか面倒くさくてごめんなんだけど。
でも悪女になってみたいんだよね。悪女って何でも出来そうな感じするもん、美人で最強でお姉様って感じするもん。
「残念だが、側室とは言え俺の妻という扱いだ。よって、食事も共に取らなければならない」
「じゃあ直談判してその決まり破って来ましょうか? 一時間貰えれば出来ると思いますよ?」
「いい。助け舟はあった方がいいからな。それに、俺は刷り込まれただけであって、実際ランヴィのことが好きかどうか分からないから」
「何回も関わればいいじゃないですか。可愛いし、さっきの件を除けば優しそうだから大丈夫ですよ。少なくとも失態だらけの私より」
貴方のこと「コイツ」呼ばわりしたんですよ? そんな奴が助け舟になると思います? それとも貴方は信頼の神なの?
するとクロノ王子はフッと笑って、「どうだろうな」とだけ言った。何がどうなんですかね、お馬鹿な私には一生かけても解けませんわ。
「お前の言う通り、とりあえず相手のことをよく知ろうと思う。……もしもまた何かあったら、ここに来ていいか?」
「ええ、どうぞどうぞ。いつでも何回でも来て下さい。あ、ランヴィ様が怒らない程度にですよ?」
「分かっている。……じゃあ、また」
そう言って王子は扉を閉めた。またと言っていたけれど、私からしたらそのまたが無い方が嬉しいんだな。
――次来てもいいように、茶と菓子くらいは買っておこうかな。ソルジアを頼りに。そういや結局、ソルジアはどこなの?