何事も力強く進みましょう。
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城の方をを振り返ることも無くアエトカロスを後にした私達二人。馬車も必要ないくらいの近さに国があるので、嫌でも迎えは来る。
自分でも分かる程の嫌な顔をして、心底嫌そうな声で、何故か私より焦っているソルジアに言う。
「私の国終わったね」
「変なこと言わないで下さい。人一人いなくなった所で世界は回ります」
「国は終わります。あーもう、首に痛覚が通ってなければいいのに。あとは足の小指」
「足の小指は自分で守って」
だからなんで私より震えてるんだよ。そんなに目の前で人が死ぬのを見たくないか、じゃあその時は休み取っときな。
本とかにある「公開処刑」なるものが一番嫌だ。何が楽しくて民衆に見せにゃならんのだ。整備が中途半端な道がやけに体力を削いでくる。
「帰りたくないけど、人生に幕を下ろしたくないけど……あっ幕を破ればいいのか」
「貴女は魔女か何かですか、ふざけている暇があるなら命乞いの台詞でも」
「お前も道連れじゃふざけんな」
「とても一国の王女とは思えないですねえ。口が悪いこと悪いこと」
段々味方なんだか何なのか分からなくなってきた。まあ、どうせ飛ぶ命だ。最後に一人ぶん殴った所で怒られまい。
……と、思っている内に我が愛しくなくなった国が見えて来た。相変わらず外面だけは立派な城門。
「あと十歩行ったら首に剣先が突きつけられるかも。いや、五十歩かな」
「律儀に死までの歩数を数えなくていいです。って、立場逆転してるじゃないですか!?」
「天才的な頭脳を持つリスアさんの策だよ。という訳で脱獄の加担、よろしく」
「リスア様牢獄に入るほど猶予ありますか?」
無いな。ただいま、おかえりー今日は首切るわよー、という流れだと思う。
――もういいや、地縛霊になればいいだけのこと。死ぬ運命からは避けられないのだから、さっさと嫌な我が国に帰りましょう。
珍しく門番がいない城門。これを開ければ人生が閉まる。
「いいですか、開けますよ」
「……うん、覚悟はできた。安らかに明るく逝こう」
ソルジアのため息と共に、重々しい門が開かれる。最期は何をしようかな、好きなだけ甘い物食べようかな。
門が開き、足を踏み入れる。勿論、ソルジアが先頭で盾になる。真正面から刺されるだなんて嫌ね。
すると、誰かが私の姿を見つけたらしく名前を呼ぶ。今までの会話からしてお父様であることは明確。
この国の真ん中の道は人通りが多い、そして私達はそこにいる。つまり、下手な言い訳
「――リスア」
「あー、お父様これには深い訳がありそうで無いんですけどそれを話し始めたら私に女子要素が無い所からお話しすることになるので……」
「リスア・ダーランド」
「まず第一ですね、正妻となられた方はとても可憐で花のよう……いえ、花が可哀想なくらいに可愛らしいお方でして私のような馬鹿が張り合っていい方ではありませんでした」
言い訳というか手を抜いたことの自白というか、これで死を回避できるとは一切思ってない。
「いや、だから許してくれとは言わないんです。せめて、せめて死までの時間を一分長くして貰えればそれで」
「いい加減現実を見ろ」
「痛いくらいに見てます! ……あれ、どちら様でしょうか。やだ一番恥ずかしい所見られちゃった」
「お前はさっき行った国の王子を忘れたのか」
…………ああ、王子ね王子。あの亭主持ちの女性でも顔を赤らめ惚れるって噂の……。
「ソルジアちょっと来て」
「はいっ!?」
ソルジアの肩を思い切り引っぱって顔を寄せる。練って練って焼いて固めようとした作戦が既にほろほろと落ちているではありませんか。
「どういうこと、どういうこと、ねえちょっと三文字以内で教えて」
「死んだ」
「どうも。どうする? 何で、正妻決まったよね、時期女王決まったんだよね」
「そうですね、決まりましたね。あれじゃないですか? あの……側室とか」
側室って一番の悪役じゃないですかやった。本当に側室になれるとは、側室なんて毎日をごりごり潰すだけで生きてけるんだぜ?
「毎日をごりごり潰すだけが側室みたいな顔してますね」
「そんなに褒めんでも」
「リスア・ダーランド、お前に用があるんだが」
「そんなに責めんでも」
この国なんにもないよ? あるとすれば美形に飢えた女性達と美人に飢えた男性たちくらいかな。
「後でお前の両親にも言おうと思っている。……先程、父から一人くらい側室を作れと言われた」
「はい……民衆が聞いているので手短に素早くお願いします」
私が心の内を隠すことなく声に出すと、王子、クロノ王子は若干呆れたような声で言った。
「……お前に側室になってもらおうと思っている」
「ふうん……はあ!? こんな礼儀も金も無い奴にですか!? 人は選んだ方がいいですよ」
「大広場で騒いでいるのが聞こえたからな。お前とランヴィ以外の記憶が無い」
嘘だろ王子の脳の容量少ねぇな、なんて声に出したら私即斬。まあお嬢様方沢山いましたもんね。
「でもこれから首飛ばさなくてはいけないので」
「だったらいいだろう。ほら、早く準備をしてくれ」
拒否権は無いと見た。ならそこであほ面しているソルジアを持って行こうか。そうしないと味方がいなくなる。
「はい、高速で準備して来ます。ソルジア君もだよ。道連れって言ったからね」
「――嘘、何でですかあ!? 酷くないですか、でもリスア様の執事だから行かなければならないのか」
項垂れてる暇があるなら準備しろ。ソルジアを力いっぱいに引っ張って、クロノ王子に軽く微笑んでから城の方へ向かった。