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第三話『契約』

よろしくお願いします!



「ウ……オオオ…!」


放たれた紅の閃光に包まれながらも、異形は尚も抵抗を続ける。

魔力を送り込む触手は暴れまわりながらも、その閃光に喰らいつく。


「押シ返シテクレルワッ!!」


かつてない程の圧を放ち、猛々しく怪物が吠える。

それと同時に、触手が一層凶悪なフォルムになり、閃光ごと包み込もうと、突き刺さっていく。


「タフさだけはあるようだな」


その様子に少し驚愕の様子を見せながらも、至って少女は冷静そのもの。

送り込む魔力の量を増やしたのか、閃光の眩さは輝きを増していく。


「ヌウウウ………『魔殺爪』ッ!!」


だが、異形は腕に禍々しい焔を纏わせ、閃光を引き裂く。

その焔は閃光を呑み込み、その光を分解していく。


「何故、貴様がその技を……!」


少女は目の前で起こった光景に驚きを隠せない。

それはネレウスとて同様であった。

異形が放った技、『魔殺爪』は『竜人』が自身の魔法の乏しさを打ち消す為に編み出したいわば秘技。

魔法の使用手順において、魔力を送り込むという一つの段階を持続させ、そこに重ねて防御用魔法を使用する事で、相手の攻撃をいなしつつ、その源である魔力を吸収し、魔法そのものを消してしまうという技。

だが、その技は高度な技術が要求され、型も決まっている為、『竜人』にしか使えない筈なのである。

それが、異形によって成された事実。

それは彼の不安を一気に煽った。


「……器用なものだな、お主は芸が達者らしい」


少女は起こった現象に驚愕こそしたものの、慌てる様子も無く、異形を笑う。


「ホウ、我ノ技ヲ芸ト侮辱スルカ!」


「ああ、馬鹿にするさ。本家の技にはお主の猿真似は遠く及ばん」


その一言と共に、少女が大きく跳躍し、距離を一気に詰める。

そして先程異形が見せた焔を腕に宿した。


「『魔殺龍爪』」


だが、その焔の輝きは、勢いは異形の焔より激しく、眩い。

そこには幾つもの魔法陣が張り巡らされ、即座に凄まじい数の術式が組まれている事が容易に想像できる。


「これが、本家の『魔殺爪』だぞ、喰らうが良い」


その瞬間、魔力で創造された爪が、異形の腹部を貫く。

魔力を断ち切る破魔の爪は、相手の魔力の流れを乱し、深刻な損傷を与える。


「これで、貴様の妙な魔力操作は封じ込めたぞ」


「貴様ッ……!」


自身の手を封じられ、異形は激昂が篭った声音で、少女を憎々しげに睨みつける。

だが、それは相手にとって、自身の不利を認めているようなものだ。

それでも、少女は冷徹な目を少したりとも異形から離す事は無い。

この焦燥はブラフの可能性もある上、ブラフで無いにしろ、追い詰められた者とは予想外な力を発揮する場合がある。

少しでもこちらが油断すれば、どちらかの餌食に成りかねない。


「貴様は何者だ……」


「何ッ……?」


そして、口にした言葉は異形へ向けられる。

それは対峙する彼の正体、異形の正体を問い質すものだった。


「フッ、ダガ、知ッタトコロデナンニナル」


「貴様がまだ喋れる時に聞いておこうと思ってだ。結局貴様の素性も、目的も読めん。できる限り情報を集めた方が良いだろう?」


「情報カ。ソンナモノハ我ラ二通用セヌゾ」


「それはどういう意味だ?」


どの戦いにおいても、情報量というのは戦況を左右する項目でも筆頭に挙げられる。

余りに実力差が開いているとしても、その相手の持つ情報から、こちらの弱点を突かれるという事もあり得る。


「はっ、まさか貴様は別のモノに変幻するとでも言うのか?」


「ソノマサカダ」


嘲笑の声音は、異形の声音にピタリと遮断される。

その声音は偽りの話とは到底思えない程の確かなものがあった。

それを証明するかのように、怪物の触手が伸び、既に事切れた戦士達の屍を掴み取る。


「何をする気だッ!」


「フン、見テイルガ良イ」


焦燥の入り混じった声で少女が吠える。

ネレウスもこの異様な状況は、落ち着いていられるようなものでは無かった。


「ふぅっ!ぐぅぅぅおおおお!」


既に満身創痍の身体を、強引に動かし、今出せる最高の速度で、異形へとネレウスは滑空する。


「マダ生キテイタカ、『吸血鬼』」


「『月光加速・三雷』ムーンアクセル・トリプル!」


迫るネレウスへ目を向ける異形は、少し感嘆を漏らす。

だが、そんな事など関係無く、ネレウスは自身に『吸血鬼』の力を強化する魔法を詠唱する。

月の光の強さに応じ、攻撃力、防御力、俊敏性が増強される強化魔法だが、月が出ている間にしか使えない上、月の光というのは魔力の濃度が濃く、魔力を扱う者には毒である。それを無理やり自身の力に変換する為、強力な力の代償として身体に大きな負担を強いる諸刃の剣だ。


「うおおおッ!」


「ッ!何!?」


裂帛の叫びと共に、月の魔力で力を強化したネレウスが一気に詰め寄る。

今までとは段違いの速度を発揮し、異形を驚嘆させる。


「ああああッ!!」


そこに生じた隙を見逃さず、魔力で精製した双剣を握り、力のままに振るう。

型も何も全く考慮しない、暴力に成り果てた斬撃すら、月の膂力は一打一打の威力を大きく引き上げる。


「グオッ!?」


無数の剣撃が、異形の身体に傷を刻み込む。

止まらない嵐のような攻撃を前に、異形ですら身動きが取れず、抵抗することもままならない。


「ッぐぅ、あああッ!」


一心不乱に剣を振るうネレウスも、呼吸すら忘れる程、ひたすら目の前の敵を殲滅する為に叫ぶ。

叫んでいなければ、自身の身体が負った傷、そして負担に押し負けてしまう。


「ヌウオオッ!」


「ぐあっ!?」


凄まじい烈しさで、斬りつけていたが、その余りに強引な猛攻は諸刃の剣。

彼の身体は、意思とは無関係に悲鳴を上げ、その攻撃の勢いが緩みつつあったのだ。

そこを突かれ、異形は剛毅な甲殻に覆われた腕で彼の剣を打ち払う。

押し切ることのみしか考えていない、一種の集中が、薙ぎ払われた事でネレウスは大きく後ろへ吹き飛ぶ。


「っ!はぁ、はぁ、はぁ」


どうにか、体制を立て直し、再び臨戦態勢を取るものの、集中していた事で忘れていた苦痛が、一気に押し寄せる。

身体の節々に痛みが走り、力が入らない。

仲間の身の危険を感じた為に、咄嗟に出た反撃であったが、感情的に攻め過ぎた事が仇となった。

この猛攻で、異形を倒すという事を算段に組み込んでいたというのなら、それは誤算であった。

既に碌に身動き出来ず、臨戦態勢を取って虚勢を張るのがやっとの事だ。

この猛攻は確かに効いている手応えがあり、その証拠に、異形を包み込む紅い外殻にも亀裂が走り、一部破損している。

だが、それは向こうにこちらの警戒度を引き上げた事に直結し、ネレウスを潰しに来るのは自明の理だ。


「フ、驚イタゾ……。最早死ニ体ト思ッテイタガ、我ノ身体ニ傷ヲ負ワセル程トハ、貴様ヲ、敵ト認メヨウ」


「はっ、認められても、嬉しくねぇな……」


異形は自身を追い込んだ存在に賛美の言葉を送る。

それは自らよりも下の筈の、圧倒的に窮地に立たされていた者が、強者の自分に一矢報いた証。


「ダガ、ソレ故ニ貴様ヲ潰サセテモラウゾ」


その言葉と同時に、殺気が実体化したように、風が吹き荒れる。

その矛先はネレウスに向けられ、凄まじいプレッシャーが、行動を束縛する。


「私を除け者にするなんて、あんまりだぞ?」


「ッ!?」


その殺気を切り裂くように、異形に放たれた飛び蹴り。

辛うじて異形は腕で防御するが、威力を殺しきれずに大きく吹き飛ぶ。


「貴様、一体ドコカラ現レタ……!少ナクトモ我ノ視野ニハ入ッテイナカッタゾ……!」


「さっき言っただろう。私は色々と魔法を編み出してるってな。この現象もその一言で片付けてしまえば良いだろう?」


少女はニヤリと笑みを浮かべて、異形を見据える。そして、目線をネレウスへと移した。


「そこの『吸血鬼』の召喚者。名は何という?」


「ネレウス・ヴァシリートだ。そっちは?」


「リヴェラだ。長々と話している暇は無いから、端的に言うぞ」


互いに名を名乗り、リヴェラという少女はおもむろに背中の翼をはためかせて告げる。


「ここからは、共闘としないか。何か異論はあるか?ネレウス」


「いいや、無い。準備はいいか?リヴェラ」


互いに打ち明けた名を呼び、息を合わせる。居合わせる少年少女は、聳える紅き怪物に、其々が持つ武器の刃の切っ先を向ける。

今、二人の邂逅は果たされた。


「ここに、『契約者』と『召喚者』の誓いは果たされた。行くぞ!」






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