第二話『裏』
第二話です!どうぞ!
「‥‥駄目だ。あいつはとても太刀打ちできる存在じゃない。君も逃げた方がいい」
突然目の前に現れた少女。
それは明らかに只者には見えない。だが、それでもあの圧倒的な力に打ち勝つという、幻想を見出す事が出来る程、ネレウスは夢を見る事は出来ない。
「ふむ、お主、私が誰か分かっていないみたいだな。まあ良い。私は奴を仕留める、それを覆すつもりは無いぞ」
ネレウスの言葉を嘲笑い、少女は頑として、闘志を緩めない。
「貴様、『裏』ノ者カ?」
すると、突如、紅き怪物の発する言葉が変化する。奴の言う『裏』という単語にはネレウス達『暗夜』に思い当たる節は無い。
「ほう。お主、こちら側を知っておるのか。なら、私が何者かも察しが付くのでは無いか?」
「フッ。確カニ貴様ハ脅威ニナリ得ルナ。ダガ、ソレガ我ガ退ク理由ニハナラン。ソレニ霊格ガ随分小サクナッテイルヨウダナ」
「そうだな。まあこの世界ではもう余り覚えられていないという事か。世知辛いものだ。だが、手を抜くつもりは無いぞ」
すると、猛烈な勢いで、少女が消し飛ぶ。
だが、それは攻撃を喰らっただとか、そういう事では無く、少女自身の能力によって生み出されたスピードだ。
「うっらぁ!」
尋常ならざる速さで、怪物に肉薄し、華奢な脚を振るい、蹴りを叩き込む。
怪物はその威力を抑えきれず、たまらず後方へと吹き飛ぶ。
「嘘だろ‥‥!あいつに攻撃が効いてる‥‥!」
見ているだけのネレウスだが、少女の一撃が、怪物を吹き飛ばした事に感嘆する。少女の力もそうだが、それ以上にどうにかなるかもしれないという希望が芽吹いた事が感嘆の理由であった。
「‥‥‥ヤハリ一筋縄デハイカナイカ」
ヨロヨロと激突した瓦礫から、怪物が姿を現し、改めてその殺気が戦場と化した街に張り詰める。
「いくら私の霊格が小さくなっているとはいえ、一筋縄でいくと思っていたのか、それは心外だな」
「貴様ヲ見縊ッテイタヨ。ダガ、モウ油断シナイ」
すると、殺気の塊が、紅き凶星がこちらに向かって空気を裂きながら向かってくる。
その威力は突き進む風圧だけで、新緑の大地を捲れ上げさせる。
「愚直なものだな。『凶竜の角槍』」
それを冷静な目で見据えた少女は、一つの魔法を詠唱する。それは聞いたことの無い魔法だった。
詠唱が終わり、魔法が実体化する為の術式が描かれた光の円陣が空中に出現する。これは『魔法陣』と呼ばれ、ここから魔法の効力が発生する。
「グオッ!?」
すると、魔法陣から紅い雷を纏った漆黒の槍が飛び出し、紅の怪物の突進を弾き飛ばす。
「ナンダ、ソノ魔法ハ‥‥!」
猛々しい魔槍に強烈な反撃を喰らった怪物は、よろけながらも立ち上がり、剣呑な目で少女を睨みつける。
「ふん、私の魔法は少々特別でな。 私のオリジナルだ」
「オリジナル!?本当に言っているのか!?」
少女の言葉に反応を見せたのは、怪物では無く、ネレウスの方だった。
魔法とは古代に編み出された一定の術式を詠唱する事で、魔力を反応させて発動するものだ。
今となればその術式と相応の魔力が有れば発動は可能だが、オリジナルとなれば話は別だ。
自身で魔法を編み出すには膨大な時間が必要だ。幾千の言葉を積み重ねて、魔法で発生させる現象を指定、内包する魔力等を調整する。
一見それ程手間が掛かるようには見えないが、微細な調整をしなければ、暴発したり、不発に終わったり、威力や規模に見合わない程、大きく魔力を消費してしまったりと、とても並大抵の努力ではなし得ない業。
「ああ。私の魔法の内、数割はオリジナルだ。確かに作るのは面倒だが」
少女は獰猛な笑みを浮かべながら、怪物に言葉を放つ。
それは、自身に絶対の自信があるとしか思えない程の、高飛車な態度。
「その分、それに見合った実用性がある」
「貴様‥‥!ナラバスグサマ片付ケテヤル!」
怪物はその言葉を挑発と受け取ったのか、怒りを露わにする。
そして、空中へ浮遊し、その背中から一斉に触手が伸びる。
「なんだ、それがお主の奥の手なのか?」
そこから繰り出される高速の触手の乱打を少女は軽くいなしていく。
「イイヤ、チガウゾ。コレガ狙イダ」
「ッ!!」
すると触手が、街に配備されていたのであろう、『森精霊』が製造した飛行兵器、『ブレインタスク』をその触手で鷲掴みにして引き寄せる。
「そんな大層なものを‥‥!」
辛うじてその飛行兵器の巨体の体当たりを避けたが、少女はあまり機械には詳しくは無いようで、苛立ちを見せる。
「借リルゾ、『森精霊』ノ兵器!」
怪物は触手を機械に差し込み、その声に呼応するように、『ブレインタスク』に搭載された魔力ミサイルが数段放たれる。
「くそ!ミサイルとはな!」
少女はミサイルの危険性を瞬時に察知し、背中から巨大な翼を生やして、空中へ逃げる。
魔力ミサイルは、込められた魔法やミサイルの衝突による物理ダメージに加えて、対象に魔力器官にダメージを与えるという恐ろしい機能を備えており、防ぎようにも、被害は免れない。
それ故に、空中へ逃げたのは最適な対処法だった。
「ハッ、甘イゾ。小娘」
すると、通り過ぎた筈のミサイルは突如方向を反転させて、少女目掛けて再び襲いかかる。
それは一発でも当たれば致命的な損傷を負いかねない。
「また面倒な!」
怪物が魔力的な干渉を働かせているのか、魔力ミサイルは、少女を追い続ける追尾ミサイルと化し、少女は空中を逃げ回る。
だが、魔力を消費して飛翔するのも無尽蔵という訳にもいかず、寧ろ、ミサイルの数は段々と増え続ける。
「ソロソロ限界デハナイカ?」
「いや、それは間違いだな。私が何を目的に飛び回っていたのか、お主は考えもしていないだろう?」
嘲るような怪物の口調に、少女は怪物をさらに嘲るように問いかける。
その言葉の意味にまだ怪物は気付いていないようだった。
「何?‥‥マアブラフトイウ可能性モアルガ‥‥」
「まさか‥‥!あの子は‥‥!」
ネレウスは『魔力眼』で空中を見据える。
そこには魔力である刻印が刻まれていた。
これに、ネレウスはある心当たりがある。
「いや、あり得ない……!」
「信じるかどうかは、任せるが、怪物よ。お主は、まだ全開ではないが、せめて、手向けとして喰らうが良い」
「何ッ!」
紅く煌めくのは魔法陣。
描かれた術式は、もはや伝説の具現。
その魔法陣の中心から紅い光が漏れ出し、今にも内包した破滅のエネルギーを放たんとしている。
「『黒龍滅砲』
そして、その門から、紅い閃光が、ミサイルもろとも飲み込み、大地へと放たれた。
展開早いって思われるかもしれませんが、まだまだこれからです!次の話をお楽しみに!