理想の結婚相手
日曜日、俺は一人で適当に街をうろついていた。
俺の名前は御手洗祐介。
食品会社に務める今年、三十歳のしがないサラリーマンである。
大学卒業後、俺は今の会社に勤めているが、正直、出世の道はほぼ閉ざされている。
俺はあんまり会社の人から好かれていない。
別に嫌がらせなどは受けているわけではないのだが。
俺は生真面目で偏屈っぽいところがある。
融通が聞かないと言うのだろうか、俺は毎日朝六時に起きて、軽くランニングし、アニメを1話消化し、朝ごはんを食べる。
帰ったら、健康的な食事をし、暑いお風呂に使った後、きららアニメと言った癒しアニメを視聴して、ぐっすりと眠る。
そのサイクルを毎日保っている。
そのために、極力飲み会を断っている。
それゆえ、『付き合いの悪い奴』と思われるていた。
実は二年前まで、彼女がいた。
彼女は束縛が激しく、俺の生活サイクルを乱されるのが嫌で、俺のほうから別れを切り出した。
「あんたみたいな、変な拘りを持った奴、誰とも結婚したいと思わないわよ!」
そう言い放ち、彼女は去っていった。
結婚できないか。
そうかもしれないな。俺のような変人と誰とも結婚したいとは思わないだろう。
肌寒い風を感じた。
全く、孤独の時間が欲しいのに、孤独が嫌とは、我ながら俺はなんとめんどくさいのだろうか。
俺の心情を完璧に理解してくれて、文句一つ言わないパートナーと巡り合いたい。
まぁ、そんな人間いるわけがないのだが。
歩いていると、とある看板が目に入った。
ーーあなたの理想の結婚相手、見つけます! 結婚相談所 ハピネス
俺は自然と結婚相談所に赴いた。
どういうわけか、そこに行けば本当に理想の相手と巡り合えそうな気がしたのである。
「いらっしゃいませ」
女性の相談員が出迎えてくれた。
肌の色はやや黒く、クリッとした大きな瞳、シュシュで結ばれたポニーテールが特徴の可愛らしい感じの店員が出迎えてくれた。
歳は二十歳前後だろうか。
女性相談員が俺をエスコートしてくれた。
部屋に入ると、テーブルと椅子が用意されていた。
「どうぞ、こちらにお掛けください。」
「はい」
指示に従って、俺は椅子に座った。
女性相談員も向かい側に案内された。
「ご利用は初めてでしょうか?」
「はい、そうです」
「かしこまりました。ではこちらの用紙にご記入ください」
渡された紙に必要事項を記入していった。
自分の趣味から自分の年収、さらに自分の好みの相手の特徴、年齢と言ったことから相手に求める一番のポイントは何かまで書くことがあり、思いの外書き終えるまで時間がかかった。
ちなみに俺は年齢は自分より年下がいいということと、相手に求める一番のポイントは自分の考えと限りなく近い人と書いた。
まぁ、いないだろうな。
この店員はどんな対応するのだろうか。もっと妥協しろと言ってくるのが定石だろう。
「あの、御手洗さん、相手は年下がいいということですけども具体的には何歳がいいですか?」
なんだ、その質問。
まさか、条件に会う人でもいるのか。
ダメ元で十八歳と言ってみよう。俺と十二歳差である。
「十八歳がいいです。けど、さすがに厳しいですよね」
「いえ、大丈夫です。少しお待ちになってください」
そういうと、女性相談員は部屋から出て行った。
信じられない。まさか、条件に会う人がいたのか。
少しすると、女性相談員がやってきた。
なんと手には注射器を持っていた。
「注射しますので、腕を巻くってください」
いやいや、どういうことだってばよ。
「ま、待ってください。どうして注射なんか打つんですか?」
「この結婚相談所では遺伝子的に相性のいい人を探してるんです。そのために御手洗さんの血液が必要なんです。そうしないと希望の相手を見つけることができません」
なんか、そう言われると妙に納得感がある。
しかし、料金大丈夫だろうか。
「あの、費用ってどれくらいかかるんですか?」
「お一人紹介につき一万円かかります。どうでしょうか?」
一万円か。正直、高いのか安いのかわからない。
まぁ、今はそんなにお金に不自由してないし、払ってもいいか。
「分かりました。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。それじゃ、注射しますね」
女性相談員は俺の腕に注射器の針を挿入した。
チクリとした痛みを腕に感じた。
「それでは明日、またここに来てもらっていいですか? パートナーを紹介してますので」
「え、明日にはもうパートナーを紹介できるんですか?」
「はい」
自信満々の表情で女性相談員が答えた。
「分かりました。明日もそちらに伺います」
「ありがとうございます。それでは前払いとして本日、五千円いただきます。明日、残りの五千円をお支払いください」
五千円を払い、俺は結婚相談女を後にした。
しかし、たった一日で条件のいいパートナーを見つけるなんてやはり信じられない。
次の日。
俺は結婚相談所の向かった。
「いらっしゃいませ。御手洗さんですね。ご案内します」
昨日と同じ部屋に案内されると、部屋には信じられないくらいの美少女が立っていた。
長い黒髪とあどけなさを感じさせるようなやや幼くも魅惑的顔と十八歳にしてはなかなかのプロポーション。
「こちらが御手洗さんの紹介者の渡辺智加子さんです」
「は、はじめまして。渡辺智加子です。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
美少女を目の前にして、俺は思わずどぎまぎした。
それにしても一夜にしてこんな上玉を用意するなんて、まさかこの少女、サクラとかじゃ......
「どうです? 御手洗さん、満足していただけましたか? この方、あなたと趣味も考え方もほぼ一緒ですよ」
趣味はともかく、考え方もほぼ一緒とかどうして言い切れるんだ。
「あの、この方をたった一晩で見つけたんですか?」
質問に質問で返すという、スタンドが飛び交う世界では大変失礼なことをしたが聞かずにはいられなかった。
「いえ、正確には『造った』といいますか」
「造った......?」
「はい! 彼女は、御手洗さんの遺伝子情報を元に作り上げた人造人間です! 御手洗さんとほぼ同じ価値観の持ち主です。性別と容姿はこちらで御手洗さんの希望通りになるように調整しました。まさに彼女こそ御手洗さんの理想のパートナーですよ」
「これからよろしくお願いします! 御手洗さん」
智加子は俺に微笑んだ。