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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第十二話 準備と違和感

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#90


 放課後の商店街には、地元の中学生や小学生などが寄り道ついでに立ち寄っている。

 この地域では数少ない寄り道のスポットでもある。


 弁当屋が学校帰りに売れ残った揚げ物をくれたり、昔ながらの駄菓子屋もあるので学校帰りの学生が立ち寄ることも多い。


 商店街には地元が同じ学生、後輩の姿が数人ほど見受けられた。

 すれ違う生徒が必ず振り返るが、流石は地元なだけあって騒がれるほどではない。


 学校だから、彼らにしてみればホームグラウンドだからこそ周りの目を気にせずに騒げるのであって、人の目が多数ある場所では控えるらしい。


 そこがまた、おかしなものだ。



 

 まずは、雫の用事とやらを済ませるために、数点の店を回り歩く。


 雑貨屋であったり、文房具屋だったり。

 主に、職業体験で使うのであろう商品を、彼女なりのセンスで買い揃えていた。


 あまり派手なピンクなどの色を選ばないのが、また彼女らしい。

 対照的に、意外にも綺羅坂が手にしているものが明るい色が目立つ。


「あなた地味な色ばかり選ぶのね」


「そちらこそ、派手な色ばかりですね……子供ですか」


 おっと、ここで火蓋が下ろされた。

 雫の一言が合図になり、二人は再び臨戦態勢となる。


「まあまあ、二人とも落ち着いて。どちらもいい色だと思うよ」


 すかさず優斗が仲裁役として間に入ることで、ここまでは何とか面倒事は避けられているので、優斗を呼んだのは正解だったのだろう。

 

「湊君はどちらがいいともいますか?」


「そうね、あなたの意見も聞きたいわ」


 二人はそういって各々手に持った物……と言っても、二人が手に持っているのは同じメモ帳なのだが。 

 雫が紺色のカバー、綺羅坂が薄いピンクのメモ帳を手にしている。


 どちらもイラストは描かれていないシンプルなもので、中を開くと薄っすらとページに模様が写っている。

 男子が使うにしては、可愛らし過ぎる。


 これを、俺でなくとも男子が使っていたら、女子に引かれる可能性もある。



「……男子の俺に聞いてもどうしようもないだろ」


 男女で捉え方は違う。

 どちらも色的には嫌いではないが、どのみち俺には可愛らしすぎる。


 もう百均で売っているのでいいだろう……。


 どちらとも言えない回答に二人は不満げにしていたが、渋々だが引き下がる。


「……こっちの方が良くないですか?」


「ありえないわね」


 ここには、俺達四人しかいない。

 相談する相手がいなくなり、二人は嫌々ながらも互いの商品に意見を出す。


 ただ商品を見ている、よくある光景。

 その光景が、失礼ながら面白く感じてしまうのは二人の普段の関係を知っているからだろう。


 二人で嫌々と相談をするのなら、俺の隣に一人立っている奴がいるのだから聞いてあげて欲しい。

 手持無沙汰になっているではないか。



「正直に答えてやればいいのに」


「……一番曖昧な回答していたのはお前だろう」


 二つのうち、どちらの方が良いと思うか。

 という質問に対して『どちらも良い』という返答は曖昧でいて、答えとして成り立たない。


 しかし、ある種の選択としては間違っていないのだ。

 二人からの意見を否定せず、自分の判断に任せる。


 どちらかを選べば、残された人は多少なりとも悲しむかもしれない。

 優斗はその可能性を排除したのだろう。


 クラスの、学園の人気者としてこれまで暮らしてきた中で、無意識のうちに発動してしまった優しさスキル。

 意識せずとも発動してしまう優しさというスキルは、今回も選ばないという選択をした。



 いつもそうだ。


 優斗は、自分よりも人が傷つかないように行動している。

 自分より他者を気遣い、自分を犠牲にすることをいとわない。


 そのボランティア精神のような考え方には賛同しかねるが、一人の人間としての考えとしては理解はしている。

 優しすぎる人間も時にはいるものだ。



 二人が依然悩んでいる中、一つ気が付いてしまう。



 こんなこと言っては二人は怒るかもしれないが、彼女達なら何を持っていようが大差ない。

 それ以上に、彼女たち自身が目立つからだ。


 むしろ、彼女たちが持っているというだけで、その商品が人気になり出す可能性もある。

 高校などでの流行などは、決まって人気な生徒が持っている物が多い。


 女子二人がシンキングタイムに入ったのを確認してから、自分も周りの商品に目を配る。

 女性向けの店で、男性が好む商品は少ないが楓に何か買っていくのもありだろう。


 俺がそう考えて商品を見ていると、優斗が一つの商品を手に取る。


「これなんか、楓ちゃんにはいいんじゃないか?」


 猫のイラストが描かれた小物入れだ。

 何故だろう……その猫に既視感があるのは。


 どこかで見ている、この猫どっかにいるぞ。



 そう怪訝そうに商品を見つめると、後ろから雫が近づいてきた。


「あ、その猫あの子に似てますね、湊君の家によく来るムクちゃんです!」


「……」


 このやる気のない顔。

 確かに……隣の家で飼ってる白猫のムクにそっくりだ。


 だから、この小物入れを見た時に何故か見覚えがあったのか。

 

 どうせあの怠け者の猫は俺の家にでもいるんだろう。

 芝生の上でゴロゴロと寝転がり、楓の姿を見たら腹を見せておやつをねだるに違いない。


 見せたらどんな反応がするのかも興味があるので、これにしよう。


 三人を待たせ会計を済ませると、店の外で待つ三人と合流する。


「そういや、お前らは買い物終わったのか?」


 俺よりも先に外に出ていた二人に問う。

 さっきまでワイワイ騒いでいた商品は買ったのだろうか。


 俺の問いに二人は手提げ袋を持ち上げ答える。

 

「はい!先ほどの商品にしました!」


「私もさっきのやつね」


 やはり最初の商品にしたのね。

 最初の印象大事よね。


 人間も大体が初対面の時の印象でその後の関係性が大体決まるらしいからね。

 本当、大事だわ。




 

 次の目的地まで、多少距離があるので四人で並んで歩く。

 両脇に並ぶ商店街の店には、夕方の照明が灯る。


 主婦や買い食いをしている学生がいて、今日も一日が終わることを実感する。


「ここへ寄りたいわ」


「本屋か……」


 綺羅坂が指さしたのはごく普通の本屋。

 商店街では唯一の店で、他には駅前に少しだけ大きな店があるくらいだ。


 ここ最近、本を読む機会が少なくなっていたのでこの機会に一冊買うのもありだ。


 雫が料理本やファッション雑誌、優斗が漫画と同じくファッション雑誌を手に取り見ている中、俺は一人小説が置かれているコーナーに向かう。


 新作から旧作まで並ぶ棚には、店長おすすめと書かれている本などが置いてある。

 めぼしい本を手に取り、裏などで本のあらすじなどを確認して戻す。

 

 この行為を何度か繰り返して、好みそうな商品を一冊見つける。

 会計を済ませるため、レジに向け歩き出すと綺羅坂が少し離れた場所にあるコーナーに立っていた。


 参考書や海外の学校についての関連書物が置かれていた場所だ。

 英語の勉強にしては、完全に海外のテキストなど見ても分からないのではないだろか。


 日本語がないと、そもそも俺には出題内容でさえ分からない自信がある。


 一冊の本を手に持ち眺めている綺羅坂に声を掛けた。


「そんな本読んでどうするんだ」


「……私には参考になるのよ」


 つまり、俺には参考にならないってことですね、分かります。

 視線を本から動かさない彼女に、ふっと一つ溜息を零して背を向ける。


「一つ聞きたいのだけれど、いいかしら?」


「何でしょうかね」


 どうせ、ダメといっても聞いてくるでしょうが。

 彼女の隣に立ち、適当に目の前に置かれていた参考書を手に取る。


 全く分からん……


「もし、近しい人が突然いなくなったとしたら……あなたならどうする?」


「……そんなの分かるわけないだろ」


 そもそも、仲良い友達がいなくなったためしがない。

 それ以前に、友達が出来たことが少ない。


 あくまで仮定の話をするならば、答えは容易に出てくる。

 実際に起きていることではなく、この先に起こるかも分からないから答えようがない……だ。



 実際にその場にならなければ、心境など分かりはしない。

 誰も予想だにしていないからこそ、悲しむのであり、惜しむのだ。


 最初から知っていた別れに答えを求めるなら、俺に選べるほどの選択肢は出てこない気がする。



「そうよね……ごめんなさい忘れてちょうだい」


「……生憎だが物覚えは良くてね」


 きっと、彼女が何かしらおかしな行動をするたびに、頭の隅で先ほどの発言が引っかかるだろう。

 裏を読もうとして、見事に外すかもしれない。


 だが、今は彼女の発言については俺の記憶に隅にでも置いておくとしよう。

 

 

 

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