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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第九話 変化

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#72


「あなたは私のことを、”そう見て”はくれないのかしら?」


「……」


 そう見ては、すなわち大企業の令嬢である綺羅坂怜としての当たり前を取っ払い、一人の一般生徒として見てはくれないのか?という意味が含まれていそうだった。


 確かに、彼女を一般の生徒と見るのは難しい。

 無意識のうちに目にはフィルターがかかり、お嬢様、秀才、美しい外見などの要素も含め、ただの生徒と同じように考えるのは無理がある。


 誰しも、彼女と相対するときは、何かしらの自分とは違う要素を見つけてしまい、自分と彼女との差を感じてしまうのだ。


 多く場合は、圧倒的な劣等感。

 勉強、運動、スタイルや容姿に至るまで何をしても彼女に勝てる要素がない。


 だからこそ、彼女を特別に扱う。

 家の会社を継ぐという選択肢は、普通では必ずではない。


 だが、綺羅坂怜という生徒のイメージ、存在からしたら絶対の選択肢にも思える。


 それ以上に、彼女が普通の仕事に就く姿など想像もできない。


 だからこそ、いま隣で綺羅坂は俺を見ている。

 「あなたもそんな考えなの?」強い目でそう問いかけてくる。


 

 俺だって平凡な学生でしかない。

 彼女の凄さを近くで感じで、知っているからこそ普通に就職しようとしていることに、違和感を感じたのは嘘ではない。


 合っていない……正直な感想だ。


 でも、一つだけ他とは違う点があるとすれば、彼女に似た女性を俺は何年の前から知っている。

 優れているが故に、周りの選択に身を任せたいた女性を。


 

「……人間は元来自由なものだからな、仕事もそうだが親の言いなり、親の会社だから継ぐってのは=(イコール)じゃない」


「……」


 そう、決してそれが当然ではない。

 彼女も自分で選択して良いのだ、いや自分で選択しなくてならないのだ。


 周りが―――などは言い訳に過ぎない。

 勝手な想像で話を進め、凝り固まった考えをしている俺たちのような生徒が悪い。


 ただ、俺には彼女が普通に就職試験を受けて、組織の中に適応できるかどうか、その問題はいささか疑問を感じたが、これは彼女次第。


「自分の持っていない能力を持つ人は、こうするのが当たり前……俺を含めてだがそうやって考えてしまう」


「そうね……」


綺羅坂は短く同意の意味を含み頷く。


「親の会社……それも一つの選択肢であるのは確かだ、でも選択肢が周りより多いか少ないか、それだけでもある」



 つまりは周りと変わらない。

 少しだけ、選択肢の幅が広がっただけ。


 それを周りは大げさに表現する。

 自分には無い選択肢だからだ。


 さすが大企業のご令嬢は将来が安定だな、怜ちゃんは私たちとは違うから。

 同じはずが、同じステージに立てない。



 周りは綺羅坂が話をしようとしないから、そう言って彼女を孤高のような扱いをする。

 でも、本当は周りが勝手に高く見ているだけで、ごく普通の女子生徒なのだろう。


 友達と一緒におしゃべりして、お昼を食べて、休日は買い物に出かけたり。

 だが、周りは彼女を”特別”と扱い、隣には立たなかった。



 俺もそうだ。

 こうして、隣の席でクラスメイトで一番彼女と接しているが、決して隣には立っていない。


 しかし、関係性には上も下もなく、言い例えると……向かい合っている、これが近いかもしれない。


 敵ではないが、仲間として友達としてではなく、あくまで平等の関係。

 話をするにはこれ以上に楽な関係性はなく、言いたいことも言える。


 

 では、彼女の隣に立っているのは誰になるのか?

 限られている。


 未だ友達とも言えぬ、不仲の関係だが並び立つにはそれ相応の資格がいる。

 その資格をいとも簡単にクリアできる人物、神崎雫だ。


 二人は似ていないようで似ている。

 性格は正反対だが、その存在自体は似たものだ。


 優れすぎてしまった能力のため、周りとの差ができる。

 当たり前と決められたことを、雫は流されるように合わせることができるが、綺羅坂にはそれができない。


 これくらいの違いだろう。

 だから、教室でも雫が人気で、綺羅坂は表立ってはいないのだ。


 同じくらいの美少女であるのに。



「つまり、結論から言えば一人二人養うには容易いってことだな」


 これが真面目な進路相談でも、人間性についての話ではない。

 授業中に、隣のクラスメイトとささやかなおしゃべりをしているだけだ。


 だから、彼女が好きそうな言葉を最後に適当に返しておく。

 こうすれば、重苦しくなり始めた雰囲気も多少緩和され、またいつもの綺羅坂が戻ってくる。



「つまり真良君は私に養ってもらいたいと?そういうことで認識してもいいかしら?」


 ニヤリと口元が歪む。

 そう、それでこそ綺羅坂怜だ。


 どこか人をからかって楽しそうにしている姿が、本来の彼女なのかもしれない。


「そうそう、人間働いたら負けって言葉があるだろ、俺はその体現者になりたい」


「カッコよく言っているつもりかもしれないけれど、中身がとてもクズね」


 クスクスと笑みを零す。

 一瞬、重苦しい空気は霧散され穏やかに日差しに包まれる時間が再開した。


 今から言い訳でも考えておこう。

 前から、超絶美少女しずくちゃんが、獲物を見据えた目でこちらを睨んでいるから……



 ……獰猛な質問攻めをする、百獣の王ライオン雫の誕生である。





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