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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第八話 母の帰宅

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#66



 その瞳は何を見つめているのだろうか。

 その秀でた頭脳では、何を考えているのだろうか。


 綺羅坂怜という一人の人間を、俺は静かに観察した。



 人を観察するのは得意だ。

 ボッチ系男子の得意技と言っても過言ではない。


 彼らは教室内で、周りの生徒たちのように騒ぐこともしない……否、騒ぐことができないからこそ自分にとって悪影響のある情報や陰口を言われていたりしないか事細かく観察している。

 

 例にたがわず俺もその一人だ。

 

 教室でも、毎日騒がしくしているクラスメイト達を見て、彼らが何を考えて今話をしているのかを推測したりして暇つぶしをするときもある。

 

 時折、その視線に気が付かれて「こっち見てるよキモイね」なんて言われている生徒も見かけるが、熟練度が足りていない。


 気が付かれない程度に、顔を完全に向けてはいけない。

 ごく自然な仕草の中に織り交ぜる観察技術が必要だ。


 しかし、長年の人間観察により高レベルにまで進化しているはずの俺の観察眼を持ってしても綺羅坂怜の考えていることは理解ができない。


 ……何今のセリフ。

 めちゃくちゃ恥ずかしカッコ良いのだが……


 ともかく、彼女の言動には常に裏があるように感じてならない。

 雫や楓のように、頭は抜群に良くても、感情が表に出やすいタイプならまだ大体の見当を付けられるのだが……


 隣から向けられている視線に気が付いた綺羅坂は、打って変わって普段のような謎めいた笑みを浮かべる。

 

 

「何か聞きたいことでもあるのかしら?」


「別に……」


「親子関係なら良好よ、問題があるとすれば真良君の家族ほど家族間でのコミュニケーションが無いことくらいかしらね」


「さっきの意味深な言葉は一体なんだったんだ……」


 気を使って損をした気分だ。

 今の流れからしたら家族との関係が悪いと、普段からネガティブ思考が多い俺でなくても考えてしまう。


「私の両親はあなたのお母様や楓ちゃんほど感情表現が豊かではないの」


 片手をひらひらとさせ、別段気にする様子もなく話す綺羅坂。

 その言葉を俺たち四人はただ静かに聞いていた。


「母は少し控え気味な性格だし、父は口数の少ない人だから……父なんて休日に私の写真を見て一人の時にはニヤニヤしているのバレているのにね」


 私美人だから……彼女は余計な一言を付け足して言う。

 今更、綺羅坂が美人なことなんて言葉を挟む必要もない。


 どこの家庭でも、父親ってのは娘にはデレデレらしい。

 真良家も同じく、親父は楓に超が付くほど甘い。


 もう甘々だ。

 ミルクチョコレート並みに甘いまである。


 毎月の小遣いだって、俺のよりも倍近く多いし誕生日もお祝いのレベルが違う。

 その分、母さんは俺を甘やかしてる所があるので、イーブンと自分に言い聞かせている。


 全く以てイーブンではないがね。



 それにしても、学校以外の綺羅坂の情報なんて、貴重以外の何物でもない。

 彼女は、常に傍にいるように感じているが付き合いを始めたのはごく最近だからな。


 付き合いというよりは付きまとわれているが正しい。

 だが、共有している時間の割には、情報量があまりにも少ない。


 家庭の話も今初めて聞いただけではなく、どこに住んでいるのか。

 趣味は何か、好きな食べ物は、休日の過ごし方。


 知らないことばかりだ。

 というか、何も知らないまで言える。


 学校で見ていることだけ。

 友達とは言えず、知り合いとも言い難い。


 知り合いといえるまでの情報なんて、彼女から手に入れていないのだから。

 その反対に、綺羅坂は俺の情報を異常なまでに入手している。


 どこから手に入れたのかと、少し身構えてしまうこともある。

 それだけ謎の女性である綺羅坂が、自分の口から家族の話をするだなんて、余程我が家とは家族との関係性が違うのだろう。



 そんな綺羅坂に母さんは温かい声音で声をかけた。


「もし寂しいと感じたらいつでもこの家に来てもいいのよ?雫ちゃんだって最近はよく家に遊びに来るって楓ちゃんから聞いているから!」


「……ありがとうございます。神崎さんは最近”よく来られているのですね”」


「含みのある言い方をするな」


 俺を挟み、雫に鋭い視線を向ける。

 雫は、サッとその視線から目を逸らす。


「やっぱり子供からしたら、親も感情を表にしてもらいたいわよね!」


 嬉しそうに言う母さんは、さらに俺を抱きかかえる力を強める。

 苦しいですよマミー。

 

「この話の続きはご飯を食べながらにしましょ?楓ちゃんの料理を久々に食べたいし、二人も食べていってね?」


 パッと俺の首に回していた腕を解くと、雫と綺羅坂の手を取りキッチンへ母さんは足を運ぶ。

 「はい!」と雫は元気よく返事をして、綺羅坂は小さく頷くと抗うことなく引かれていく。



「今日もお前らいるのかよ……」


「良いじゃないですか兄さん、さあ手を洗ってきて!」



 足取り軽く歩く楓は、俺の背中をグイグイと押して洗面所へ進む。

 君……本当に妹だよね?


 お兄ちゃん妹がしっかりしすぎていて悲しいまであるよ?



 すっかり賑わいに満ちた真良家を、悪い気がしていないのだが、それでも溜息をついてしまう自分に少しばかりの嫌気がしたのは秘密だ……


 

 

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