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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第八話 母の帰宅

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#65

本編の続きとなります。


「二人よりも私の方が湊ちゃんの事大好きなんだから!」



 静寂に包まれる室内。

 

 対面して座る雫と綺羅坂も開いた口が塞がらないといったところだ。

 雫は塞がらないというよりかは俺と同じくため息を零すといったほうが正しい。


 一方、楓も似たような反応なのかと思いきや、これまた意外にも小さく胸の前でパチパチと手を叩いている。

 妹なりに、母親の一言に共感する点でもあったのだろうか。


 家族愛が強いこと美しきことかな……


 

「アホか……」


 家族での愛が強いのは良いことだが、発言自体があまりに子供じみていて、思わず素直な感想に言葉にすると、隣の綺羅坂が小声で質問を投げかけてくる。




「……もしかして真良君のお母様って……」


「言わなくてもこれで分かるだろ……」


 

 言い訳の言葉が浮かばなければ、そもそも言い訳する気もない。

 真良琴音は、子煩悩……簡単に言えば親バカだ。


 自分の子供に対して異様なまでの可愛がる人を表す言葉。

 何よりも母さんにふさわしい。


 どんな場所であろうと、どんな相手といようとお構いなく母親の愛を惜しみなく表現する。

 もはや、家族愛ではなく恋人へ向ける愛情なのではないかと疑うレベル。


 

 高校生、思春期のお年頃ともなれば、どうしても恥ずかしいという感情が先に出てしまう。

 今も、隣に雫と綺羅坂がいることで『どうでもいいですよ』なんて考えてそうな、クールな表情をしていることだろう。


 だが、内心では恥ずかしくて体に熱が籠る。

 高熱を出した時の体温はとっくに超えているだろうな、きっと……たぶん。



「湊君、顔が真っ赤ですよ?」


「本当だわ、照れているのかしら?」


 嘘をつきました。

 全くクールな表情なんてできていませんでした。


 そういえば、こうして前に感情を表に出しているのに二人に見透かされていたことがあった気がする。



 ニヤニヤとこちらを見ている二人の肩を押しのけ、さらに深々と椅子に腰かける。

 ムスッとした顔をしているのが、自分でも容易に想像できる。




 そんな俺たち三人のやり取りを眺めていた母さんは、やけに嬉しそうにしていた。

 我が母親ながら、四十近い年齢のはずなのに今もなお若々しい姿。

 昔は学校中の男子が夢中になったという美貌。


 楓が色濃く受け継いだDNAをなぜ俺には微塵も受け継がれていないのだろうか?

 これで親父がイケメンだったら美男美女の兄弟でも生まれたのかもしれないが、あいにく親父は俺に似て何の特徴もない人だ。


 いや、息子である俺が似たのか。


 

 ただ、俺とは違い人付き合いが上手く、会社でも人の良さで今の地位にまでのぼったと自慢げに話している。

 親父の社内での地位なんて対して気にもならないから知らないが……


 


 

 雫には見慣れた光景だが、綺羅坂にとっては初めての光景。

 ぽかんと開けた口から「仲良いのね……」と、見た通りの感想が漏れた。




「私の次はもちろん楓ちゃんよ」



 母親の胸の間でムスッとした顔で、為すがままにされているとフォローするかのように母さんが楓に向けて言う。


「当然です!」


 

 母親を相手に何を張り合ってるんだか……

 楓の中では、母親とて譲れぬものであるらしい。


 ここまで慕ってくれているとは……今度火野君にでも自慢しよう。

 泣いて悔しがること間違いなしだ。


 彼は反応が期待通りだから、話していて飽きないところが長所だと俺は思う。



 

「私だって負けません」


 年数だけ言えば、楓にも負けずとも劣らない雫。

 彼女なりのプライドでもあるのか、綺羅坂に言い聞かしているように聞こえる。


 ここで綺羅坂も、いつもなら彼女流の返し方で言葉巧みに反撃をするところだが、今回は考えるところがあるらしく。


「…………」


 彼女にしては、珍しく無言を貫く。

 下を向き、机に視線を向けたまま何を発しない彼女に、俺だけでなく母さんや雫、楓も不審そうにその様子を見守る。



「……家族でこんなにも仲が良いのは羨ましいですね」

 


 彼女の口から出たのは、そんな言葉だった。



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