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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第七話 本音と本音

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#50

会長のターン!


「昨日からだが真良は何か悩み事でもあるのか?」


 あっという間に迎えた放課後の生徒会室。

 俺を含めた役員五名が全員揃い、会議が開始されてから約一時間。

 本日の議題が大方煮詰まりところで、しばしの休憩を取っていると不意に会長が話を始めた。


「そうですね……悩みというか、疑問というか」


 俺は、火野君が淹れてくれたお茶で喉を潤しながら会長の問いにハッキリしない答え方をした。


「どれ、素直に話せとは言わない、どんな問題だけでも教えてはくれないか?これでも先輩だ、多少なりとも手助けにはなるかもしれない」


 会長は右手で自分の胸を叩きながら言った。

 だが、こういう話を人に説明するのは意外に難しい。


 人前でプレゼンテーションをするのと同じだ。

 自分では話す内容はまとまっているのにいざ話そうとすると言葉が出てこない。


 頭の中で単語帳を開き、慎重に言葉を選ぶ。


「人の言葉を信じられません」


「それはいつもの君ではないか?」


「……」


 失礼な……。

 いや、間違ってはいないのだが、面と向かって即答されると否定したくなる。

 だが、言葉が足りていない俺が悪い。

 部屋の中で一際大きい机に肘を付け、苦笑を浮かべた会長に追加の説明とばかりに話を続ける。


「……相手が何を考えているのか分からなくなりました」


「相手が何を考えているか、……ふむ難しい悩みだな」


 会長は顎に手を当てて、右斜め上に視線を向ける。

 会長だけでなく、火野君、副会長の小泉、会計の三浦も話を興味深そうに聞いていた。

 その表情は、テストの難問に挑むかのようだ。そこまで真剣に考えなくていいんだよ……?


 もう今日の生徒会が俺のお悩み相談コーナーに変わっている気がするが、今日の本題である部活動の予算についての会議は終了しているから誰も文句は言わないだろう。


「そ、それは女子生徒の話かな?」


「いや、男子生徒の話だ」


 小泉の声はまだ遠慮気味に聞こえる。

 顔を合わせて数日、馴れ馴れしくしろとは言わない。


 ただ、同じ学年なのだから気軽に話しかけてもらいたいし、彼のほうが役員としては先輩だ。

 もっと自信を持って遠慮などせずに声を掛けてもらいたいが、こればかりは慣れてもらうしかない。 


「じゃあ、その男子生徒とあなたは親友と呼べるくらい親しい仲なの?」


 片や、三浦は会長達に話しかけるときと変わらぬ様子で話してくれる。

 このほうがこちらも楽でいい。


「どこからが親友と言えるのかによるが……まあ友達と呼べるのはあいつくらいだ」


「確かに、それはお互いの認識によるものね」


 一方が親友と思っていても、一方がただの友達と思っていてはそれは親友とは言わない。

 簡単に「俺達親友だからな!」とか言っている周りの奴らは、大概ただの友達。

 

 嬉しいことも悲しいことも、互いに相談できてこそ親友だと俺は思っている。

 数が多けりゃいいってもんじゃない。 


 優斗と俺の関係にしてもそうだ。

 少なくとも春休みまでは心の内を明かしてくれた優斗は、俺のことを親友と思ってくれていたのかもしれない。


 だが、俺にとって彼は本当に心許せる相手と思っていたのかと聞かれたら「はい」とは答え難い。

 俺と彼では容姿や能力の差から住む世界が違うと、そう考えていた時点で彼と同じ位置に立っていなかったのだから。


「先輩……友達いたんすね……」


「なんでそんなに落ち込んでんだよ……」


 火野君は話の内容よりも、俺に一人でも友達がいたことにショックを受けていた。

 きっと自分と近しいものを感じていたのだろうが、悪いが俺のほうが少しレベルが上だ。


「私から言えることはあるとすれば一つくらいだ」


 すっかり火野君に同情の視線が集まりだしたところで、会長がコホンと小さく咳払をしてからこちらを見据えて話し出す。


「相手の気持ちが分からないからこそ、互いを理解できるのだと思う」


「なんか難しい答えですね……」


「そうでもないさ、単純なことだよ」


 会長は席から立ち上がると、空気の入れ替えのため開けていた窓の枠に腰掛ける。

 窓から入り込む心地よい風が会長の髪を撫で、そして舞う。


「相手の気持ちが分かるなんて、家族でも不可能だ。君が相手のことを理解していたと思っているのならそれは君の思い違いだ」


「……」


「分からないから、互いに理解するために言葉を交わしたり、相手を観察するんだ」


 自分のことを言われている気がした。

 優斗が何を考えていたのか、彼の言葉が真実か嘘かと頭を悩ませていたこの二日間を。


「だから相手を理解できていないのだとすれば、真良にはまだそれが足りていないんだ」


「……なるほど」


 その言葉を聞き、俯きながら自分に何が足りていなかったのか考える。

 そんな俺に会長は優しい声音で言った。


「考え方を変えるといい、そうだな……まずはなぜ君がそこまで悩んでいるのか、それを考えるといい」


 そう告げた会長は、声音とは反対に俺を心配しているかのように暗い表情をしていた。



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