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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第七話 本音と本音

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#49


 こうも頭の中に考え事が浮かんでいると、授業に集中することができないものだ。

 気が付けば四限の終わりを告げる鐘が校内に響き渡っていた。


 教師が教材を手に持ち教室から出ると、それを合図に一斉に多くの生達が教室から出ていく。

 きっと彼らは食堂にでも行くのだろう。

 

 うちの高校は、食堂を利用する生徒の数に対して圧倒的に席の数が足りていない。

 普段から食堂を利用している生徒は、このように昼休みになった途端に席を確保するために教室から走り出していくのが我が校ではお馴染みの光景だ。


 それと、数量限定のタマゴサンドがあるのも理由の一つだとか。




 先週の金曜日に行われた生徒会役員会議で、会長が昼休みにこれほど大勢が校内を走るのは危険なので、生徒会として注意すると言っていたが……まあいいだろう。


 なんせ俺はまだ就任してから数日で、クラスメイトですら知らない人ばかりだろうからな。


 そんな光景を尻目に弁当派である俺は、彼らのように焦る必要もなく自分の席で妹特製の弁当を広げながら教室の中を見渡す。


 隣では、俺と同じく弁当派の綺羅坂が豪勢な品々を机の上に広げていたが、彼女はその弁当に箸をつけることなくじっと前を見ていた。


「何見てんだ……?」


 彼女の視線の先に顔を向けると、優斗が鞄の中から弁当箱を取り出していた。


「珍しいこともあるものね」


「本当だ……」


 確かに珍しい……。

 中学の頃は何度か見たことがあるが、高校では優斗が弁当を持ってきている姿を見たのは初めてかもしれない。


 二人で物珍しそうに視線を向けていると、それに気が付いた優斗はこちらに歩み寄り俺の席の前に腰を下ろす。


「たまには一緒に昼飯もいいだろ?」


「……別にいいけど」


 教室内には優斗の取り巻きがまだ多くいるが、そこはあえて無視しよう。

 隣に綺羅坂が座っていることもあり、近づく生徒もいないだろう。

 

 優斗は前の机を俺の机とくっ付けて、懐かしき小学校の給食を思い出す形に席を移動させた。


「じゃあ食べるか」


「待ちなさい、私は一緒でいいだなんて一言も言ってないわよ」


 ……まあ、そうなるだろうな。

 この状況で綺羅坂が黙っているとは思えない。


 彼女は心底嫌がるように言う。

 それをわかっていて声を掛けたであろう優斗は、彼女を横目で少しだけ見るとすぐに弁当に箸をつける。


「綺羅坂さんも一緒にどう?」


「冗談じゃないわ」


「そっか」


 苦笑を浮かべているが、実際には表面上だけだろう。

 根拠はない、そんな気がするだけだ。


「……」


「おっこれは美味いな」


 向かい合って昼食を食べてはいるが、会話という会話はない。

 俺は黙々と弁当を食べて、優斗は時折弁当の感想を口にする。


 一度は、この弁当は取り巻きの女子生徒から貰ったものかと考えたが、中身を見てすぐに違うと判断した。

 これは女子高生が作るような弁当ではない。


 煮物など野菜が多いから、母親が作ってくれたのだろう。

 優斗の家は母親がバリバリ働いている。

 それを気遣って昼は自分で用意すると言ってあるらしいが、今日は作ってくれたのか。


 母親想いのいい息子だよ。

 俺なんて楓にそんなこと一度も行ったことがない気がする。


 楓に弁当でも作ってやろうかな……味は保証しかねるが。



 時間だけが過ぎていく中、こちらから何かを聞くことはせずに、優斗が動くのを待つ。

 下手に問うて誤魔化されたり、話を濁されたりするのは意味がない。


 それに、俺があの言葉の真偽について聞きたいのも、分かった上で一緒に昼を食べようと言ったのかもしれない。


 なら、こいつから話を振って来るのを待つ。 

 まるで興味もありませんよと言わんばかりに、俺は視線を窓の外に向ける。


「……聞きたいことでもあるんだろ?」


 食べ終わって空になった弁当を包みながら、優斗は話しかけてくる。


「お前なら分かってるんじゃないのか……?」


「まあな」


 どこからか取り出したペットボトルのお茶を喉に流し込むと、優斗も同じように視線を空に向けた。

 その顔は何を考えているのか……。


 ただ微笑んでいるようにもみえるが、悟らせないようにわざと普段通りを装っているのかもしれない。


 隣の綺羅坂も興味があるようでチラチラとこちらを窺ってはいるが、話が一向に進まないことにイラついているのか指でトントンと机を叩いている。


「なあ湊、今日の放課後は時間あるか?」


 そのまま空を見上げながらそう聞いてきた優斗。


「……生徒会の後でいいなら」


 そう答えると、優斗は満足したのか席を立った。

「それじゃあ後で連絡するから」とだけ言い残して、優斗は自分の席に戻っていく。


「綺羅坂も来るか?」


「ええ、もちろん」


 彼女も関係者だ。

 連れていくことに文句は言うまい。


 椅子の背もたれに体を預けて目を閉じる。

 思い出していたのは、遊園地に向かう途中で立ち寄ったサービスエリアでの雫の言葉だった。




 

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