表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第六話 遊園地と勘違い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/355

#44


 優斗を先頭に、雫、楓、綺羅坂、そして俺の順で歩きながら施設内を見て回っているが、以前来た時よりもだいぶ印象が違って見えた。


 前回は俺と楓は小学生の頃に来たので五年以上前になってしまうが、施設自体がもっと大きく、まるで異世界に迷い込んだような感覚だったのを覚えている。


 ……夢の国とはよく言ったものだ。

 子供の目線からでは、普段の街並みには絶対に存在しない建物や、テレビの中で見た世界観、それに人気のキャラクターが実際に動いてる姿が目の前に広がっているのだ、別の世界と思ってもおかしくはない。


 だが、こうしてある程度大人になってから来てみれば、どうしても思ってしまうことがあるとすれば……

 あのキャラクター達は……デカ過ぎやしないか?


 今子供たちと写真を撮っているアヒルのキャラクターなんて絶対に俺よりも大きいぞ。

 

 なぜ幼い頃は、あの巨大な着ぐるみに疑問を一つも感じずに写真を撮っていたのだろうか……。

 純粋というのは、ある意味恐ろしいものだ。


 あんなのが全力で追っかけてきたら、ここにいる誰よりも早く逃げる自信がある。

 それに、キャラクターを見かけるたびに通気性なんかを考え始めてしまうあたり、あの頃の純粋な気持ちは俺の中には微塵も残っていないのだろう。

 

 そんなことを考えながら、とりあえず有名なアトラクションを見て回ったが、どこも長蛇の列だった。

 開園してから二時間は経過しているので、予想通りと言えば予想通りだ。




 結局、人気のアトラクションのファストパスを発行しては、時間つぶしに人の並んでいないアトラクションを探して入っていく……この繰り返しで時間はあっという間に過ぎていった。


 午前中の間に有名なアトラクションには二つしか乗れなかったが、それにしてもかなり疲れた気がする。


 室内で宇宙を舞台にしたジェットコースターに乗った時は、楓が予想外に半泣きになってしまったり。

 丸太ボートに乗って滝を落ちていくアトラクションでは、雫が高所からの落下に驚いてこれまた半泣きになってしまったり……


 そしてなにより、3Dのアトラクションではまさかの俺自身が吐き気に耐えて過ごし、その後しばらくは動けなくなってしまったりと、想像していたのとはかなり違う時間を過ごすことになった。




「全く、真良君はだらしないのだから」


「悪かったな……3Dがあそこまで気持ち悪くなるだなんて思わなかったんだよ」


 昼時となり、今はピクニックエリアと呼ばれる場所で、持参した弁当を広げ一時の休息をしていた。

 眼前には、楓だけでなく、雫と綺羅坂も弁当を持参してくれたため、色とりどりの食べ物が綺麗に並んでいる。


 俺の隣に座った綺羅坂は、楽しそうにこちらに視線を向けて話し掛けてきたが、今回は言い返せる言葉がない。


 彼女から視線を逸らして、サンドイッチを一つ掴み口に運ぶ。

 うん、美味い。


「誰にだって苦手なものはあります!気にしないでください湊くん!」


 サンドイッチを飲み込み、大好物の一つである唐揚げに手を伸ばした時に、雫が声を大にして慰めの言葉を掛けるが、これにはすかさず言い返す。


「そうだな、お前は高い所から落ちて泣いていたもんな」


「な、泣いてはいません!……ちょっと驚いただけです」


 ……あれがちょっとねぇ。

 目を真っ赤にさせて、しばらくの間膝をガクガク震えさせていたのは見間違いだったと。


 目を薄めになるくらい細めながら雫と目を合わせると、彼女は俺から視線を逸らす。

 俺が綺羅坂に言い返せないように、彼女も俺の言葉に言い返す言葉がないらしい。


「そ、それはそうと午後はどこから回ろうか」


 居た堪れない雰囲気を変えようと優斗が話を切り出す。


「私はカヌー探検というものに行きたいです!」


 楓が優斗にそう告げると、確認するかのように一人一人に視線を向ける。

 

「別にいいんじゃないかしら?」


「私もそれでいいですよ」


 綺羅坂と雫も特に反対することなく楓に言葉を返す。

 最後に俺に顔を向けた楓に、小さく一つ頷いて見せると嬉しそうな笑みを浮かべた。


「私カヌーってこいでみたかったんですよね!」


「え?なに、自分でこぐの?」


「はい、そうですよ」


 てっきりガタイの良いお兄さんがこいでくれている船に乗るものだと思っていたが違うとは。

 勘違いをしていた俺に気が付いたのか、楓は口角を吊り上げるとこう告げた。


「もう兄さんは頷いてしまいましたからね、こいでもらいますよ」


 その表情が、どこか俺の反応を楽しんでいる時の綺羅坂に似ているのはなぜだろうか?

 ……やはり、少しづつ楓が綺羅坂の影響を受けている気がするのだが、これは気のせいだと思いたい。

 

 彼女は絶対にお手本にしてはいけない人だ。


「真良君、あまり失礼なことは考えないほうがいいわよ?」


「……」


 そう言った彼女の冷たい視線に、背筋を凍らせたのは言うまでもない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ