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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第六話 遊園地と勘違い

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#38


 優斗は、店の入口で立ち止まっていた俺達のもとに駆け寄ると、俺の耳元に顔を近づけ小声で呟いた。


「早く来てくれて助かったよ……綺羅坂さん何言っても無視してくるから気まずくてさ」


「……お前嫌われてるからな」


 優斗に躊躇なく事実を伝える。

 分かり切っていたことだし、彼女も普段から優斗を毛嫌いしているから問題ないだろう。


 俺は、苦笑いしている優斗の横を通り過ぎ、綺羅坂の座る席に向かう。

 

「ずいぶん早いんだな」


 綺羅坂の隣で止まると、彼女に短く声をかける。

 俺の言葉を聞いた綺羅坂は、視線を手元の本から俺の顔に移すと小さく微笑む。


「あら、真良君も早いわね。私も今日を楽しみにしていたから早く起きてしまって……あなた達が来るまで暇だから一人で本を読んでいたの」


「……そ、そうか」


 なるほど。

 彼女の向かいには優斗が座っていたはずだが、存在していなかったことにされていた。


 彼女の優斗に対する冷たい対応は、いかなる時もブレないらしい。


「真良君も楓ちゃんも……ついでに神崎さんも来たのね。あとはあのイケメン君だけね」


「私があなたを誘ってあげたのですから、正確にはあなたがついでですけどね」


 案の定、小言を言い合う二人。

 別に言い合いをするのは構わないのだが、雫の隣で遂に死んだ魚の目をした優斗をなんとかしたほうがいいのでは?


 そう一瞬考えたが、今日この場をセッティングしたのも元をたどれば優斗なので放っておこう。


「俺、今日どこに行くか知らないんだけど」


 俺は、睨み合っている二人と、それを静めさせている楓、そして生気を感じない優斗に聞こえるように話した。

 

 一斉に向けられる四人の視線。

 俺は、誰に目を合わせればいいのか迷い、絶対に知っているはずの優斗に目を向ける。


「そうだな、もう言ってもいいだろ。今日は東京ディズ―――」


「ああ……ネズミーランドか」

 

「……まあ、間違ってはないな。そう、ネズミ―に行くんだ」


 大人の事情で、もしかしたら色々と危ないかもしれない。

 そのため、ネズミ―と呼ぶことにした俺に、優斗も話を合わせて返事を返す。


「……行く場所変えない?」


「湊ならそう言うと思ったから今日まで言わなかったんだ」


 数ある娯楽施設の中で、日本一人気と言っても過言ではないその場所は、人混みが嫌いな俺にとってはまさに地獄。


 それに、周りにいるのがイケメン、美少女、美人、超可愛い妹、ごく普通の人。


 外見的スペックが違い過ぎて、施設内に入ったら、彼らは自然と注目を集め、多くの人がその中の最後尾を歩く俺を見て「え?一人だけ地味だね」なんて言われる。


 むしろ、彼らと俺とでは、周りから見たら釣り合わなさ過ぎて共に行動しているとも思われないかもしれない。

 たまたま、彼らの後ろを歩いていた他の来場者だと。


 それなら特に問題ない。

 あとの問題は、長時間人混みをどう耐えていけばいいかだけだ。


  

「とにかく、ここで話をしていてもしょうがないわ。場所が分かったのなら早く移動しましょう」


 結局、俺の場所を変えるという案は、華麗に却下されてしまった。

綺羅坂が立ち上がり、一言だけ話すと足早に店の外に出る。


 彼女に続く形で俺達は店の外に出ると、店の目の前に白いミニバンが停車していた。

 俺達が店に来た時にはなかったはずの車から、一人の老人……黒井さんが降りてくると、俺達の目の前で立ち止まる。


「皆様、おはようございます。本日は私が送迎をさせていただきます」

 

 俺は、そう話す黒井さんの隣に立つ綺羅坂に視線を向けると、彼女はどこか誇らしげな笑みを受かべる。


「……ありがとうございます黒井さん」


 もちろん俺が感謝の言葉を伝えるのは、目の前に立つ黒井さんだ。

 運転してくれるのは綺羅坂ではない。


 俺の反応が不服だったのか、彼女は目を細めこちらを睨みつけてくるが、今回に限っては全く怖くない。


 俺の後ろにいる三人も、黒井さんに各自感謝の言葉を伝えると、席順についての話し合いが始まった。


「当然だけど、私が決めてもいいわよね?では助手席にイケメン君で、後ろは私と真良君、その後ろが楓ちゃんに神崎さんで行きましょう」


「何言ってるんですか!あなたが助手席で私と楓ちゃんが隣に、その後ろに湊君と荻原君のほうがまだましです!」


 やはり、ここでも言い合いに発展したのがこの二人で、楓も優斗もこうなると予感していたのか、彼女達の隣でため息を吐いていた。


 そんな中、タイミングを見計らって二人の会話を遮った楓が二人にこう告げた。


「あの、兄さんならもう助手席に座ってますよ?」


 そう……俺はすでに助手席に座り、シートベルトまで付けている。

 彼女達の隣に座ったら、乗っているだけで一日の体力を奪われかねない。


 そんな俺を見て、彼女達は渋々車の中に乗り込んだ。




 結局、楓を真ん中に置き、左右に綺羅坂と雫が座り、一番後ろに優斗が一人座る形で出発した俺達は、現在、目的地に向け高速道路を進んでいた。


 ちょうど俺の後ろに座っている楓が、雫や綺羅坂に他愛もない話を振り、彼女達はそれに答えていた。

 優斗も、楽しそうにその会話を聞いていて、出発する前とは違い雰囲気的にも悪くない。


 だが、そんな穏やかな雰囲気も、長くは続かなかった。




 

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