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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第六話 遊園地と勘違い

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#37


 僅かに期待を(いだ)き、ポケットからスマホを取り出すと、今日赴(おもむ)く予定の遊園地の開園状況を調べることにしたのだが、ここで一つ問題が発生した。


「……今日ってどこ行くの?」


 そう……肝心な遊園地だが、その場所について俺は何も知らない。

 場所が分からなければ調べようもないし、予算もどれくらい用意しておけばいいのかも分からない。


 最初はネズミのキャラクターを筆頭にした、有名な場所に行くものだと勝手に思っていたが、あそこは厳密にはテーマパークであって遊園地ではない。


 だから、遊園地に行くというなら他の場所のはずだ。

 ……なんて、こんな細かいことを言ったら目の前の二人から『細かすぎです!』なんて言われてしまう。


 そんな娯楽施設の定義などこの際は置いておき、いまだ忙しそうに荷物をまとめている二人に問いかける。


「あれ?……そういえば私も知りませんね」


「私も雫さんたちから聞いたのは遊園地ってだけで、場所を聞いてませんでした」


 しかし、俺だけでなく二人も今日の目的地については知らない様子。

 どれだけ優斗に丸投げ状態だったのか、ハッキリと分かってしまった。


「……雫はちゃんと聞いておけよ、最初に誘われたんだろ」


「えへへ、すみません」


「…………」



 特に反省している様子もなく、雫は微笑を浮かべる。

 その言葉に、俺はわずかながら違和感を感じた。


 優斗から、彼女をデートに誘ったときの話を聞いた時にも感じた違和感と似ている。

 それが何なのか、それはまだ俺にも分からないが、何か引っかかる感じがしてならない。


 朝、庭で最初に顔を合わせた時も、俺の話を聞いている今も、彼女の表情は普段よりも柔らかく楽しそうにしている。


 そんな彼女が、内心何を考えているかなんて、他人である俺には分かるはずもない。 

 同性ならともかく、それが異性なら尚更だ。


 女心が分かる男性なんて、男から女へジョブチェンジした人か、ありとあらゆるギャルゲーをクリアした猛者達くらいのものだろう。


 この前再放送されていたアニメで、ギャルゲーマスターが現実世界でヒロイン攻略していたからな……

 きっと分かるんだろう。……たぶんね。


 


 兎にも角にも、雫と楓が分からないのであれば、調べようもない。

 お金は少し多めに持っていくとして、場所は優斗に会ってから聞くことにしよう。


 俺は、後ろで小さなバッグに荷物を詰めている二人に声を掛けた。


「……そろそろ行くか、準備は終わったか?」


「湊君の準備しているんですよ!」

「兄さんの準備しているんです!」


「あ……そうだった」





 結局、二人に用意をしてもらった黒色のショルダーバッグを持って、俺達三人は集合場所である駅前の喫茶店に向け出発をした。


「約束より早く着いちまうな」


 のらりくらりと歩いているが、どうも予想より早く着きそうだ。


 九時集合なのに、腕時計を確認するとまだ八時過ぎ。

 ここから三十分歩くと考えても、二十分以上も待ち合わせよりも早いことになる。


「雫は朝飯食ってきたのか?」


「はい、食べてきましたよ」


 となると、軽く時間を潰すのも難しいか……。

 もし彼女が朝食を食べていないのであれば、軽食を食べる時間もあるがその必要もないらしい。


 この際、先に店内で飲み物でも頼んで時間を潰せばいいかと、俺達は歩くスピードを緩めることなく住宅街を進んだ。


「それにしても久しぶりですね、湊君とそれに楓ちゃんと遊ぶのは」

 

 目的地まであと半分というところで、不意に雫がそう話し掛けてきた。


「そうですね、年末年始も会ってますが、あれは神社行ったり年越し祝ったりしただけなのでクリスマス以来ですかね?」


「あー……そういえばクリスマスに遊んだな」


 確かに、去年のクリスマスに遊んだ記憶がある。

 クリスマスに雪が降っていたので、その日はよく覚えている。


 神奈川にしては大雪で、少々羽目を外し過ぎて雫の母親、奏さんに怒られたんだった。


「湊君なんて『この顔は気に食わない』って雪だるまの顔をずっと直してましたからね」


「そうでした!あの後兄さん風邪ひいて寝込んでいたんですよね!」


「……恥ずかしいことを思い出させるな」


 雪が積もって足が埋まるなんて初めてのことだったし、普段お目にかかることの少ない雪が降れば多少なりとも興奮するものだ。


 二人だってキャッキャとはしゃいでいたのだから人のことを言えない。


 

 他にも、妹と幼馴染しか知らない俺の恥ずかしい過去を、懐かしみながら楽しそうに話ている二人に、後ろで羞恥心に耐えながら歩いていると集合場所のすぐそばにまで来ていた。


「優斗さんか綺羅坂さんは着いてますかね?」


「綺羅坂はもう店の中にいると思うけどな」


 綺羅坂のことだ、誰よりも早くこの場所に来て待っている気がする。

 優斗も余裕をもって来るから、もしかしたらいる可能性もある。


 店の前にまで到着した俺達は、OPENという文字がぶら下げられた木製の扉を開くと、店内を見渡しながら入っていく。


 日曜日の九時前のためか、まだ客の数は少ない。

 若者も何人かいるが、ほとんどがスーツを着た社会人ばかりだ。


 その中でも、一際注目を集めている席を発見した。


「お、湊!やっと来てくれたか……」


「おい、遅刻したみたいに言うな」


 俺が優斗を発見したのと同時に、優斗も俺を見つけ立ち上がり声をかけてくる。

 優斗の向かいには、予想通り綺羅坂が本を片手に座っていた。


 

 

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