#34
更新が遅くなり申し訳ありません。
「雫さんに綺羅坂さんも先ほどのお店で何かお探しですか?」
あの後、店の前で二人の美少女から一人の男が拘束されているという状況は当然周りからの注目を集めた。
彼女達を囲んでいた若者だけでなく、他にも人が集まって来るのを見た彼女達は一旦俺への関節技を解くと、この建物の四階にあるカフェに俺は強制的に連行された。
しかし、移動の際にも雫と、なぜか楓にも腕を掴まれ、綺羅坂には首根っこを掴まれた状態で四階にある店にまで移動した。
余計に目立っていたのは言うまでもない……
四階まで上がり、店に着いた俺達は店員に案内された席に腰を下ろすと、開口一番で楓が二人にそう質問をした。
「ええ、元々は服を買いに来たのだけれど、面白そうな店があったのでちょっと中を覗いてみたくて」
「私は、元々あのお店に行きたいと思っていたところで綺羅坂さんとお会いして」
楓の問いにそれぞれ答えた二人。
しかし、彼女達はなぜかお互いを睨みつけるように視線を合わせていた。
雫は、時折見せる感情の抜け落ちた表情で、綺羅坂は見たものが逃げ出したくなるような冷ややかな視線でお互いを見据える。
何なのこの雰囲気は……
こんな状況になる要素なんて、今までの会話の中に微塵も感じられなかったのだが。
というかこの二人は仲良くすることができないの……?
「……なんで睨み合ってんだ」
「さあ……なんでですかね?」
俺は、隣に座る楓に小声で聞いてみるが、楓にも見当がつかないらしい。
その証拠に、楓は可愛らしく首を傾げながら不思議そうに二人を見ていた。
まあ、彼女達にしか分からない問題で今日もいがみ合っているのだろう。
こんな時は、余計な口出しをしないのが一番だ。
俺と楓はただ黙って二人の様子を窺っていると、先に口を開いたのは綺羅坂だった。
「真良君の前だからって嘘はよくないわよ?」
「綺羅坂さんこそ嘘はよくないと思いますよ」
「私は本当のことを言っていたわ」
「あなたがあの店に行きたかったのは違う意味でしょう!」
綺羅坂の言葉に雫も当然反論して、再び睨み合う。
やはり、俺達には分からない話を、その後も同じような事を繰り返し言い合う二人に、俺はしびれを切らして口を挟む。
「で……結局のところ二人はどうしてあの店に来たんだ?」
「神崎さんがあなた達を追っていたから私も同行したの」
「待ってください!そもそもあなただって朝から湊君の家の近くで張り込んでいたじゃないですか!」
「……ちょっと待て、俺の質問以上に強烈な答えを返すな……」
二人の言葉に俺は目を閉じこめかみを押さえながら、頭の中で今の会話を整理する。
雫は、俺と楓が店に入る前から後ろについてきていたと……
そして綺羅坂に至っては、朝から俺の家の近くで張り込んでいたと。
たまたま二人とも同じ目的地に用があり、後ろからついてきた……というなら分からなくもない。
だが彼女達が俺や楓を見かけて話しかけてこない訳がないし、二人の様子からだと家からずっと後ろにいたような話し方に聞こえる。
というか綺羅坂に関しては、家の近くに待機している時点でアウトだ……
「よし、お前ら帰れ」
俺は窓の外を指さし二人にそう告げる。
「嫌よ」
「嫌です」
「分かった俺が帰ろう」
睨み合っていたはずの二人は、俺の言葉を聞くと途端にこちらに視線を向け即答した。
今度は俺が席を立ち、荷物を手に持つとそのまま店を後にしようと歩き出すが、それを止めたのは楓だった。
「まあ兄さん、落ち着いて下さい」
立ち上がった俺の腕を楓は掴むと、そのまま座らせるように引っ張る。
俺は、渋々だが席にもう一度腰を下ろすと、向かいの二人にあらためて質問をした。
「……話を戻すが、結局二人は何用でここへ?」
この俺の質問に、今度は二人とも本当の理由をすんなりと話してくれた。
その話を要約するとこうだ……
雫は新しくできたこのショッピングモールが以前から気になっていて、休みを使って俺と楓を誘いここへ来ようと思っていたらしい。
先ほど俺達がいた店も、彼女が行きたい店の一つだったとか。
そして綺羅坂も大筋は雫と同様であったが、一つ違うところが彼女も楓と同じく明日着ていく服を買いたかったらしい。
てっきり彼女みたいなお嬢様は、高級ブランドばかり着るものだと思っていたがどうやら違うようだ。
いつも普通の店で買っていると言っていた。
結局、俺と楓に声をかける前に彼女達は鉢合わせしてしまい、いつもの事ながら言い合いをしている間に、俺達兄妹が買い物に出発してしまったためタイミングを失ってしまった……ということだ。
朝から家の前に張り込んでいたり、なんだかんだ俺の家からここまでの間、後ろからついてきていたりといくつか問題はあるが、それはもういい。
雫のことだ、朝から綺羅坂に散々注意しているだろう。
対する綺羅坂も、不機嫌そうに話を聞き流している……そんな姿が容易に想像できる。
「雫は服を買わなくていいのか?……まあ俺も買わないから人のことは言えないけど」
本当のことを話たことで、険悪だった雫と綺羅坂の間の雰囲気は解消され、俺は少し気になっていた質問を雫に投げかける。
「私は大丈夫です!どんな服装が好みかは熟知していますので事前に服は用意してあります!」
「……左様ですか」
別に、そんな意味で質問したのではないのだが……
満面の笑みでそういう彼女は、本当に意中の相手が好む服装を熟知しているのだろう。
俺ですら優斗の好みなんて知らないし、学校以外でも会う事もそこまで多くもない。
俺以上に会う機会が少ないはずの雫が、あいつの好みを把握しているという事は、学校でもしっかり話をしているのだろう。
まあ、優斗の好みなんて俺が知っても何の得にもならんから絶対に聞かないけどな……




