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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第三十九話 別れの言葉

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#328

次回更新は18日~19日頃予定!


 裁縫室に入った時、彼女の顔を見つけた。

 荻原君達の話から、彼女(紬)が参加していることは聞いていたけれど、どんな顔をして会えば良いか分からなかった。


 かつての友人。

 かつての級友。


 友達という関係すら、私達には値しない関係性だったのかもしれない。

 

 最初に会って、どことなく感じてしまった。

 彼女が上で、私が下だと。


 女子の関係性は、男子の物とは異なる。

 深く入り込むことは無く、上辺だけの仲良し。


 それが常であり、その中で上下関係を構築する。

 誰が群れのリーダーで、誰の発言には逆らってはいけないのか。


 私達のクラスでは、中山紬がそれだった。

 可愛くて、面白くて、そして強い。

 

 神崎雫と綺羅坂怜は学園の中では知らない生徒はいない。

 彼女達は、学園内において別格。


 だから、同じクラスになってもどこか違う世界で、私達が住む世界では紬が一番で。

 皆が惹かれる男子生徒にも近づこうにも、彼女の顔色を伺う必要があった。


 きっと、私は誰かの一番になることは無い。

 誰かの一番になれるだけの特別つよさが無い。


 そんな時、彼と出会った。

 正確には、既に出会っていたけれど私は……私達は彼を認識していなかった。


 どこにいても、まるで風景のように溶け込んで視線を集めることは無く。

 でも、そんな彼の周りには皆が求める人が集まっていく。


 面白くない、納得できない。

 恵まれたものは持ち得ていないのに、当然のように彼らの隣を独占する男子生徒に憤りすら感じる生徒も多くいた。


 私もその一人だった。

 でも、気が付いていたこともある。


 教室の窓側で集まる彼らは、私達と接するとき以上に楽しそうな表情を浮かべていた。

 とても自然で、とても穏やかで、とても……羨ましかった。


 その輪の中では、何かで上下を決めているような空気を感じさせない。

 偽物の仲良しではなく、積み重ねた確かな繋がりを感じさせるような……そんな雰囲気。


 けれど、私が真良かれと関わることは無い。

 交わる点が無い、そう思っていた。


 私の人生が大きく変わった……彼の表現で言うならば歪まされたのは修学旅行だ。

 自己中心的に聞こえて、反感を集めやすくて、どこまでも事実。


 人が指摘されたくないことを、彼は痛烈に指摘してくる。

 人が言えないことを、彼は言ってくる。

 人が当たり前のように押し付ける常識は、彼にとっては常識になりえない。



 捻くれていて、言葉足らずで、たまに変なことを口にするし、シスコンだし……総じて表現すれば変な奴っていうことは私の中で絶対的に変わることはなくて。


 でも、彼の言葉には嘘が無い。

 私達が学生生活という限られた環境で生き抜く中で身に着けていく処世術のような、好かれるように……のけ者にされないようにするための薄っぺらい言葉が無い。


 真良湊は強い人だ。

 その在り方は、誰でも出来ると多くの人が豪語するだろうが誰しもが出来ないことだ。


 時に、人波に逆らうように歩むことが必要な、孤独に踏み込むことが求められるような強さ。

 心の痛覚が壊れてしまっているのではないかと感じさせる程の強さ。


 でも、実際のところ彼は人並み以上に悪意や敵意を機微に感じ取れているのだと私は思う。

 本当は誰よりも敏感で、傷ついて、血を流して、言葉が与える痛みを知っている。


 なんで、彼がそんな風になってしまったのか、私には分からない。

 彼と関わりだしたのはこの半年程度の間なのだから。


 いつだったか聞いたことがあった。

 「なんでそんなに正直なんだ」って。


 だって、そうだろう。

 皆、嫌われたくなくて、好かれたくて、一人になりたくなくて濁った感情を言葉で綺麗に見せているのだから。


 私の質問に対して、真良は寂しそうな笑みを浮かべて言った。


「俺にはそれくらいしかできないからな」


 きっと、そうすることで彼らは救われたのだろう。

 ほとんどの人が本当は彼が優しいことに気が付けない。


 そして、彼も気が付いて欲しいとは微塵も思っていない。

 そんな捻くれ者はまた、求められていないのに人の背中を押すのだろう。





「真良、変なやつでしょ」


 そっと、私の隣に腰を下ろして目の前の織花を手伝いはじめた紬は、何かを話そうと決めたのか強張っていた。

 不思議と前まで感じていた威圧感に似たものは感じることなく、自然と会話を始めていた。


「めっちゃ変、というか何考えるかわかんないし、時々怖って感じるときあるけど逆に優し!ってなる時もあるからマジで調子狂う」


 久しぶりの会話はそんな始まり方だった。

 正直に、たぶん紬も自分の感じたものをそのまま言葉にしていたと思う。


 自然と笑顔が浮かんで、変なところで気を使って面倒事に突っ込んでるんだろうなアイツって思った。


 そんな人を放っておけないから、荻原君は気を使わせないように協力してるんだろうなと。

 瞼の裏にそんな光景が浮かんで、ふふっと笑いが零れた。


「ていうか彩って荻原君達とあんなに仲良かったんだ」


「んー、仲良くなったけどあの輪の中にはまだ入れないかな」


 私が向けた視線の先では、少し前まで仲睦まじく協力しながら作業を行っていたはずの神崎さんと綺羅坂さんが口論になり、それを仲裁しようと荻原君が駆け寄り、真良は溜息を零している光景。


 神崎さんが真良が持っていた紙を握っていることから、送辞のことで揉めたのだろう。

 

「たまに思うけどあの二人は仲悪いの? 仲良いの?」


「めっちゃ仲良しだよ、たぶん二人に言うと怒るけど」


 紬が少しだけげんなりしながら聞いてきたので正直に答える。

 たぶん、私が知る限りで彼女達以上にありのままの関係性の女子生徒はいない。


 お互いが通ずるものがあって、親愛というより信頼だと思う。

 そんな友情の在り方も、カッコいいと思う。


 裁縫室の喧騒の中で、私と紬の間だけは静寂な時間が流れる。

 どちらが切り出すか、何を言葉にするべきか。


「ね、ねえ……彩は荻原君のこと好きなの?」


「……」


 横目でこちらを何度か確認しながら、言葉にしていて恥ずかしいものがあったのか少しだけ頬を赤らめて、瞳だけは真剣で。


 ―――紬ってこんな表情もするんだ。

 素直にそんなことを考えてしまった。


「好きだよ」


「そ、そうなんだ……」 

 

「紬は?」


 手を止めて、体の向きを変えて、ちゃんと向き合って。

 私も聞いておきたかったことを、言葉にしてみる。


 言葉にしないと、伝わらないことは沢山あるのだから。


「私も……好き」


 紬も手を止めてくれて、ちゃんと私を見てくれて、でも更に赤面させて小さく言った。

 私以上に派手で、恋愛なんてたくさんしているように見えて、結構初心なんだな……。


 知らないことが、いっぱいだ。

 知っていけることが、いっぱいだ。


 私の事も、彼女の事も、荻原君かれの事も。


「でも、正直あそこまで真剣にはまだなれないかな」


 紬が振り返って、ぎゃーぎゃーと騒ぐ一向に目を向けた。

 その気持ちは、本当に良く分かる。


 神崎さんと綺羅坂さんが抱く気持ちと、私と紬が抱く気持ちが同じだとは思えない。

 重さが、深さが、本気度が、まるで違う気がする。


 でも、それでもいいんじゃないかな。

 きっと人の分だけ違うものだし、この気持ちは悪いものではない。


「私だって最初は荻原君の顔に惹かれたからあの二人と比較されると困っちゃうな」


「ほんとそれ、結婚するのつもりかって聞かれても頷けないし、まだ高校生だっつうの」


 これでいい。

 これくらいがいい。


 恋バナして、たまに愚痴して、時には喧嘩もすると思う。

 でも、上辺で何も本心を告げない関係性は、私は望まない……望まないことにした。


 だって、眩しいくらいの人達を近くで見てきたから。

 近くにいさせてくれたから。


 こんな表現をしたら、アイツは嫌そうな顔をして言うだろう。

 「近くにいるのに許可とか普通いらないだろ」って。


 絶対にアイツに恋愛感情を抱くことは無い。

 でも、アイツに嫌悪感を抱くことも無いと思う。


 真良湊は良くも悪くも人を変えさせる。


「ごめん……私、嫌な奴だったよね」


 こうして、彼女も変えてしまうのだから。

 近くにいれば自ずと変わることを強いられるように、素直な自分をさらけ出させるように。


「私もごめんね、色々と避けちゃって」


 互いに苦笑を浮かべて、少しだけ肩と肩との間が縮んだ気がした。

 それはきっと、心の距離も同じだと思う。




「ほら、真良の妹ってマジ可愛いでしょ?」


「うわー良いところ全部搾り取られてんじゃん」


「ちげえよ、絞られたんじゃなくて残してきたんだよ……」


 一つの画面を三人で囲んで、冗談を言えるくらいに。

 ……3年でも、一緒のクラスが良いなと本気で思えた。


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