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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第三十九話 別れの言葉

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休話 もう少しだけ……

再始動!



 没頭するという言葉は、裏を返せば何かを疎かにするということだ。

 食事が疎かになれば健康的な意味で、学業を疎かにすれば、成績や内申点としても悪くなる。


 例を挙げればきりがないが、一つの物事に取り組み過ぎるからこそ発生する側面を美化したような言葉が没頭だと個人的には考えている。


 でも、それは致し方ないことだ。

 好きな物、何かを犠牲にしてまでのめり込みたい何かを行う時、本当の意味で両立が出来る人はごく僅かで、誰しもが天秤に掛けた時どちらかに比重を偏らせてしまうものなのだ。


 だから、俺は実行委員の期間に関しては学業も健康的な生活も全てを度外視でタスクの消化に全賭け。

 ジャンクフードありがとう、授業中の教師の子守歌もありがとう。


 そんな言い訳を生活リズムが乱れていると楓に指摘された際に告げたところ、怒りの鉄拳が頭に下されたことは言うまでもない。 

 


 綺羅坂の親父さんから費用の了承をいただくことができ、人員的な意味では時給0円で働いてくれる無敵の兵士たちを召喚して、女子生徒がキュンキュンしてしまうだろう園児達の参加も固く。


 送別会に必要な大まかなルートは確立できつつある。

 だが、まだ大枠が固まっただけでこれからが内容の最良化といったところだろう。


 ここでしくじってしまった時には、偉そうに語った言葉も大層な面々を集めて行った意味も失ってしまうことになる。


 本番はここからだ! と物語の主人公なら声高々に語るだろう。

 肩を組み、腕を取り合い、先導して歩んでいくことだろう。


 だから俺は言う、本番はこれからだから皆さん頑張ってください……と。


 開き直りは時として前向きな効果を発揮する。

 目の前の視界が狭まっていた人間に関しては、いつも以上……になることは無いが、普段くらいの視野の広さが戻ってくる。


 自分に出来る範疇、責任、それらが狭まっていた時よりかは見えているはずだ。

 だから、俺が一人で出来ることは限られており、優秀な兵士たちが揃った実行委員において俺が先陣切手行うものは限らて来ている。


 だから、後ろで腕を組んでドシっと構えていることが、委員会の皆を安心させる材料になるのだと自分に言い聞かせてサボっているとは絶対に内緒だ。


 まあ、サボろうとしたところで兵士たちは優秀過ぎて指揮官に指示を出して来るのでサボれないのだが……。



 話が紆余曲折してしまったが、準備も本格的に中身のブラッシュアップの段階まで進んでいるということだ。


 そして、役割を決めて週末である今日も各人が対応に奔走している。

 連絡手段のために作成したメッセージアプリのグループではひっきりなしに連絡が飛んでくる。


 主には中山に向けたデータの共有、そして確認した後に中山からイメージの共有。

 新規参加した町田は裁縫が出来ると言っていたので、部活が終わってからも夕方まで園児達の頭に付けてあげる飾りを作成してくれている。


 男の子には王様の冠、女の子にはティアラのようなデザインだが、全員分を作成してもらっていた。


 試作一号が完成したものも先ほど送られてきて、美的センスがあるメンバーの何人かが改善点などを話し合ってもいた。

 

 俺は最初の何パターンかだけ伝えて、あとは自立を促す。

 俺はもしかしたら、良い親になるかもしれない。

 

 子供のやりたいように自主性を重んじる良い父親に。

 裏を返せば基本的に放任主義と捉えられてしまいそうなので、これからの成長に期待だ。


 重労働を敷いている状況で、俺ものうのうと休んでいるわけにはいかないのでやれることはやりたい。

 各々が輝ける作業が他にあるので、俺は本当に裏方だ。


 必要な物品をこの休みを使用して一気に買い出しを行い週明けには必要なものはすべて揃っている状態を作っておきたい。


 だから、雫と綺羅坂に頼んで過去の物品購入店と購入個数なども参照したうえで今年必要なものはある程度ピックアップしてある。


 あとは、状況で必要そうなものがあれば購入といった感じだ。

 

「それにしても……ここまで手厚いものかね」


 スマホの画面に視線を落とすと、そこには綺羅坂とのトーク履歴が写されていた。

 『卒業生達へのプレゼントは実行委員の費用を使い、あとは父が出してくれることになったわ』


 その一文を見て何度目になるか、呟いた。

 何より怖いのが……『個人的な支援としてね』という追加で送られてきた文章。


 今回は貸し一つと言っていたし、早々に返してもらう予定とも言っていた。

 ……俺は一体何をされるのだろうか。


 最悪、学園側の費用で賄えなかった次善策として会計記録には残さずに実費で補うことを検討してたが、その必要性もなくなったというわけだ。


 綺羅坂の父親に認められたわけではない。

 自分の能力では出来ず、他人の助力を前提に動いているのは経営者から見れば赤点もいいところだろう。


 娘との関係性、あと数年だけ使える子供という言葉遊び。

 親子揃って特殊な琴線を持っているからこその打算ありきの行動。

 

 でも、今は一番の心配要素が消えたことを喜ぶべきだ。

 与えられた恩恵を十二分に発揮するために、俺は最寄り駅前で待っていた。


 恩恵というなの切符カードを持っている綺羅坂を。

 そして、彼女と共に予算と必要なもの全てを把握した雫を。


「寒い……遅い」


 言いたいことがあるとすれば、何故駅前集合なのかということだ。

 雫に関しては家が目の前だし、綺羅坂に関しては普段は当たり前のように俺の家に突撃してきているのに。


 時間に関して、かなり厳守する二人が集合時間の10時を迎えようとしているが一向に現れる気配がない。


 春の温かさを僅かに感じさせているが、まだ外は寒い。

 ニットセーターの上からダウンジャケットに身を包んでいるが、動いていないと寒い。


 まだかと足を動かしながら待っていると、二つの足音が近づいてきた。


「お待たせ、待ったかしら?」


「おはようございます湊君! お待たせして申し訳ありません」

 

 振り返ると馴染みの顔が二つ。

 綺羅坂と雫だ。


 彼女達は休日なので制服ではなくそれぞれ私服で来ていたのだが……。

 その姿を一瞥して、俺は言わなければならないことを言う。


「すげえ待った、マジ寒い」


「そこは気を利かせたセリフの一つでも言いなさいよ」


「大変です……私の手で温めてあげます!」


「あなたはしれっと抜け駆けしないでもらえるかしら?」


 朝一番のやり取りとは思えない、ましてや青春真っ盛りであろう高校生の待ち合わせには絶対に似つかわしくない言葉が飛び交う。

 綺羅坂はこめかみを少し揉むように抑えると、食い気味の雫の首根っこを掴んで引き離すように自分の隣に立たせた。


 寒いからね、仕方ないよね。

 待ったの事実だしね、遅刻してないから別に問題はないんだけどね。


 始めて並んで二人の全身像を確認して思わず息を飲む。


 雫は白のラインと襟のワンピースに白のブーツを履き彼女らしい清楚感が強調されている。

 綺羅坂はニットの上着にサイドにスリットが入ったロングスカートと黒のブーツ。

 大人なイメージが強調されていた。


 二人は上着を腕に掛けて持参しているが、オシャレに寒さは付き物なのだろうか、羽織る気配はなかった。


「……」


 どう表現すべきか、どう伝えるべきか。

 間違いなく似合っている、というか気合入ってるなとまで思ってしまった。


 演劇で主人公達には自作の衣装に対して、俺はドン・キホーテで買ってきたコスプレくらいな差を感じてしまうのは気の持ちようだろうか。


 いや、モデルの差かな? モデルの差だね。

 優斗が俺の洋服を着ていれば、結構格好よく見えてしまうのだろうから湊君スペックの問題だね。


「……よし行くか」


 前向きに開き直って、踵を返して駅のホームへ向かおうとするとその背を二つの手が握る。

 否、力強い拳で捕獲された。


「何かありませんか……湊君?」


 雫の口から発せられた声音は普段よりも低く、背筋が少しだけ寒くなる。


「ここで何も言わないのは男としてどうなのかしら?」


 綺羅坂の言葉は意図して避けていた部分を指摘して、躊躇なく背中を刺す。

 

 振り返り、彼女達ともう一度向かい合い思案する。

 何なのこと人達は、可愛いし綺麗なのは今更でしょうが。

 俺に言葉にさせて羞恥プレイでもしたいのかな?


 普段はしないメイクも薄くだがしているのにも気が付いたし、髪型も普段と変えているのも気が付いた。

 俺が感想を伝えるのにしどろもどろになるところを見て微笑ましいとかってやりたいのかな?


 だが、俺は言うときは言う男。

 多分、普通の男子高校生が絶対に言わないことであろうと言ってしまう男。


「そんなに綺麗にしてモデルにスカウトされたいの? ファッション誌デビューでもすんの?」


 街中で発見、清楚系と大人系美少女高校生とか2流ファッション雑誌のタイトルが思い浮かぶぞ。

 肩身が狭い思いしながらスカウトさんに時間無いんでと伝えて、何故か冷ややかな目で俺が見られる未来まで容易に想像が出来たぞ。


「そ、そう……」


「あ、ありがとうございます……」


 顔を赤面させて雫は指を、綺羅坂は耳をいじりながら視線を落とす。

 野球なら完全にボールどころかボークだと思うのだが、彼女達にはストライクだったらしい。

 

 審判涙目のストライクゾーンで流石の俺でもどこに投げたら当たるのか分からんぞ……。

 そんな二人を連れて、休日の買い出しは始まった。



「園児達は体育館の2階で待機なのよね」


 電車で移動して何時ぞや皆で買い物をしていたショッピングモールに到着すると、子供達向けの商品を眺めている際に綺羅坂が言った。


「とりあえず、2階の柔道部がいつも使っている部室で待機してもらう予定だ。片付けも優斗と白石経由で依頼してあるし、当日の移動に関しても安全確認のために誘導を生徒会と実行委員から出すことになってる」


 お菓子の詰め合わせか、喜びそうな玩具か……。

 適当に商品を見比べながら質問に回答した。


「待合室として使用するときも子供達は手持無沙汰になってしまいますから、お菓子やジュースなどは多めに用意しておきましょうか」


 雫は小分けで最悪持ち帰りもできる商品を次々と籠の中に入れていく。

 なんだかんだ園児達に協力をしてもらう案から準備まで乗り気な二人は子供好きなのだろう。


 女子って好きよね、そういうの。


「自分の子供が出来たら、こういうイベントに参加するってなれば親心として参加したくなるのかね……」


 思い浮かぶ父親の像があれだからな……。

 楓の行事には親父はちょくちょく参加していたが、俺個人の行事のあの人が顔を出していた記憶は薄い。


 代わりに母さんは大層楽しんでいた記憶が強いが、家族も家庭ごとに形がある。

 俺は、どっちに似るのだろうか。


 子供の商品を眺めているからか、そんなことを考えてしまう。


「そ、そうね……たとえ晴れ舞台でなくても成長の記録は形にしたいし、夫婦で共有できると幸せだろうと思うと言うか」


「で、ですね……私は二人で遠目だったとしても見守っていたいと言いますか……」


 もじもじと頬を染めて俺の独り言に答えるに、何故か俺も気恥ずかしくなる。

 やめてね、想像させないでね、勘違いしちゃうでしょ主に俺が。


 

 二人に余計な妄想をこれ以上膨らませないために、早々に必要なものを集めて購入すると足早に次の店に向かう。


 当然、大型の施設ではあるので多数のテナントが並んでおり……。


「……何これ」


 一人更衣室に押し込められて渡された服に着替える。

 そして、待っているであろう彼女達の前に姿を見せて思わず呟いてしまった。


「やっぱり湊君にデニムのセットアップは似合いませんよ、外に連れ出してショッピングやランチしたい意図が見え据えています」


「あなたのスウェットの上下よりはマシよ、どうせ湊は外でないからお家デートみないなことを考えているのでしょうけれども」


 互いのファッションセンスを競い合うかのようにマネキンにされたかと思えば……。


「ここに入りましょう! 後学のために!」


「ここ完全にウエディング系の店だろ……高卒で嫁入りでもするの?」


 受付の女性に微笑ましい顔で待ち受けられながら、雫が輝かんばかりの瞳で入店を望むような場面があり。


「よし、行きましょう」


「まてまて……ここは俺はダメだろ」


 綺羅坂が俺の腕を掴んで意気込むと、下着の店に突入しようとするのを全力で拒んだり。

 送別会に必要なものは余すことなく購入したが、それ以外は特に買うことは無く、完全にウィンドウショッピングだったのだが二人の行動力と発想の飛躍に驚かされながら一日を丸々使うくらいには満喫したと言っても過言ではないだろう。



 夕焼けから徐々に夜空に変わり始める中で、テナントの照明が彼女達の楽し気な笑顔を照らす。


 数歩遅れた場所から、そんな二人を眺める。

 いがみ合うような言葉のやり取りの中に、確かに互いを認めているからこその仲の良さを感じさせる二人に自然と頬が緩む。


 この時間は、きっとかけがえのないもので。

 そして、代えがたいもので。


 でも、決して戻ってはこないであろうもので。

 いま、この瞬間だからこそ感じられる気持ちなのだろう。


 分かっている。

 言葉にして、この関係に終わりを告げなければいけないことを。


 そして、そのタイミングもこの活動が終わる時、一年の終わりの時なのだろうと薄々考えていた。

 

 だから、今だけはこの穏やかな日常を大切にしたいと思うようになれたのは、きっと彼女達の笑顔のおかげなのだろう。


 雫と綺羅坂がいて、会長や優斗や生徒会の皆がいて。

 将来、大人になった時に楽しかった時代はいつですかと問われたら、俺は迷わずこの一年間を思い出すことだろう。


 だから、もう少しだけ。



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― 新着の感想 ―
とても好きな作品でしたので、もう更新は無いのかとブックマークを整理する度に消そうかと思いつつ、僅かな期待で残してました。 再開からの今後に期待しています。
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