#325
次話はもしかしたら短いかも
驚愕と混乱、僅かな怒気を抱いた生徒達がどのような反応をしたのかは言うまでも無かろう。
声を張り上げ、立ち上がり、詰め寄る。
しかし、机を挟んだこちら側へ踏み入ることができる生徒は一人もいなかった。
最初に彼らの言葉と行動を制止したのは小泉だった。
「誰も名乗りださない実行委員を僕が説明して、真良君が一人で集めて始まった活動だ。個人の感情で変更云々を口にしないでもらいたい」
まじめで物腰柔らかな印象の彼からは想像できない冷たい視線と声音で告げられた言葉に数名の生徒が黙り込む。
優しい奴が時折見せる強気な姿勢というのは案外怖いものだ。
何事も飄々(ひょうひょう)としている運動部の連中も効いたらしい。
次に口を開いたのは三浦と白石。
彼女達は感情論よりも直球的な言葉だった。
「実行委員長の任命や変更の決定権はあなた達には無いのよ、物事を正しく考えれば小学生でもわかるでしょう」
「そもそも、これから部活の長としてチームメイトの模範となるべき先輩方が周囲の評価や個人の心象で学校行事を妨げることの方が問題行為です。生徒会としては正しい人選であったのか、捨て置けない問題です」
真っ先に俺が言いたかった指摘を口にした三浦も、電話越しでは一方的で会話のキャッチボールが出来なかった白石も対面して会話の流れさえ観察できれば流石の対応力である。
生徒会という単語を出して強調表現して圧力を掛けるところとか、流石の性格です。憧れます。
こと火野君に関しては無言に徹するかと思っていた節があったが明確な拒絶の言葉を同じく発した。
理由は、彼の口から零れ出た私欲丸出しの言葉。
「赤髪とかキャラ被りもいいところっす……」
「そんなこと考えてたのね……」
相手には聞こえないくらい小さな呟きは近くの者しか耳に届くことは無い。
だから、肩を震わせている小泉や三浦を責めることは誰にもできない。
仮にできたとしても、俺にはできない。
確かに、前田は赤髪だし男子生徒だし体格も運動部だからかガッシリしている。
友達の多さ以外はもろかぶりだ。
それにしても意外だったのは中山までも同じ結論に至ったこと。
彼女はどちらかと問われれば、向こう側の人種だ。
学校に存在する三つのカースト。
部活動・委員会・交友関係の三点で彼女は交友関係のカースト上位の生徒。
俺が差し出した実行委員加入の条件にも優斗との活動時間という甘い言葉が含まれていた。
肯定しなくても否定もしない、そう踏んでいたのだが。
俺が差し向けた視線を彼女は機敏に捉えてあっけらかんと手振りを見せる。
「だって今から新しい組織とか時間が足りないでしょ、今でもギリギリ見通しが立ったところなのに冗談じゃないわよ」
「……ごもっとも」
相手の顔色を窺わない姿勢を貫くのは、彼女が彼らとは異なるカーストだから。
前田も飯田も交友は広いだろうが、それでも偏りは生まれる。
運動をしている人間同士のコミュニティー。
一方中山は学園内の全体コミュニティー。
臆する必要は最初からなかったわけだ。
男子生徒は女子生徒には案外強い姿勢を見せることが苦手とする人が多い。
しかし、相手にも多数の女子生徒がいる。
反感を買ったのはその瞬間、しかし言葉を発する前に沈黙することになる。
「前田も飯田さんも勘違いしているみたいだけど、俺は湊が実行委員をやるっていうから手伝ってるだけ。君たちが取って代わって執り行うなら協力するつもりはないよ」
笑顔。
徹底的なまでも笑顔は時として恐怖を相手に抱かせる。
その表情の裏には大きな怒りを買ってしまったのではないかと。
相手が自分達多くの女子生徒が慕う王子様であるのなら、青ざめて弁明を開始する生徒すらいた。
優斗は女子生徒が理想とする王子様などではない。
年頃の男子高校生だ。
無償の奉仕に全ベットするお人好しだと勘違いしてるのであれば、恋は盲目と言わざるを得ない。
荻原優斗の本質は「楽しむ」という感情なのだから。
男子生徒の中で雫派と綺羅坂派が何割ずつなのか分からないが、綺羅坂はあくまで全体を視界に捉えてこう切り捨てた。
「ここは先輩方を送り出すための集まり、合コン気分の浮かれた連中はお呼びじゃないのよ」
冷静に、淡々と、彼女の見解を含めた事実を突きつけ、多くの男子生徒は彼女が久々に意図して人に向けて放つ凍てつく刺々しい視線と雰囲気に委縮し黙り込む。
氷の女王、かつて彼女は多くの生徒にそう呼ばれていた。
確かに物腰も柔らかくなり笑顔も増えた。
しかし、彼女の内にある刃がナマクラになったわけでは断じてない。
最後まで己の主旨を正しいと反対の姿勢を見せたのは前田だった。
机を叩きつけるように立ち上がり、こちらの全員に視線を配ってから最後に雫で止まる。
「友達も、ましてやお世話になった先輩すらいないだろうって奴が実行委員長? 雫ちゃんは幼馴染らしいから手伝ってるのかもだけど、誰もコイツに祝われて喜ぶわけ―――」
「前田さん?」
前田の言葉は最後まで発せられることは無く、雫の小さな呼び声に遮られる。
彼の後ろに座る生徒達は、何かに気が付いた様子で開きかけた口を閉じる。
しかし、自語りで熱くなる前田は瞬間的に気が付くことは無かった。
自分の失言が、この先一年は続く学園生活で二度と彼女達と親しくなる可能性を握りつぶしたことに。
雫はいつもと何も変わらない。
穏やかで、清楚な佇まいで、多くの男子生徒の心を射止めた鈴のような声で。
無慈悲に拒絶を示す。
「とても不快です」
「え……?」
「親しくないのに名前で呼ばれることも、ねっとりとした視線も、価値観の押し付けも……すべてが不快です。お帰りください」
雫の口から発せられた言葉は、自分が思っていた言葉とはかけ離れたものだった。
そうとでも言いたげな前田の表情。
しかし、彼女の顔には冗談の様子は微塵も感じられない。
正真正銘、本音からの言葉だ。
状況を理解できていない前田に、今だと叩きかけるように俺は声を掛けた。
「前田の言う通り俺には先輩の友達はいない、相手も俺のことを知っている生徒の方が少ない。……でも、世話になった人は確かにいる。その人が高校を卒業するときに後輩を憂いて新生活に旅立ったんじゃ申し訳が立たない、それだけだ」
まるで停滞していた時間の中で、何とか時を動かし始めようと最初に行動を起こした雫。
隣の席という偶然が欠けていた歯車が嚙み合い始めた綺羅坂との出会い。
そして、出会いを経ても変わらない日常に変化をもたらした柊茜。
校門前で、凛々しく佇み生徒を迎える姿は当時こそ災難の象徴と考えていたが、時が経ち振り返ると人生の転換期だったのだろう。
たかが一学生の活動のくせに多忙で責任の押し付けのような組織。
場違い感は半端なものじゃなかった。
でも、悪くない時間でもあった。
家でも、学校でも、どこか居場所はないと感じていた日々。
確かな居場所を提供してくれたのは、偶然にせよあの先輩なのだ。
たった一人の先輩だが、送り出すべき先輩。
だから、俺が何かして喜ばれたいとか、そういうのはあくまで度外視。
言い方が悪く聞こえるかもしれないが、柊茜に満足してもらう送別会を作り上げる。
その過程で、彼女が満足する条件で、多くの生徒を満足させるという項目があるからこそ例年繰り返しの単純作業の式を否定した。
「仮に時間がもっとある段階で前田を筆頭に準備したとしても、たぶん俺達より喜ばれない内容で終わるぞ」
「だからっ! 何でお前はいつも偉そうに……」
様々な感情が含まれた瞳は、今日一番の強さで睨みつけてくる。
根拠はない、だが言い切れる自信はある。
柊茜を喜ばせる条件は、多くの生徒が満足する送別会にすること。
彼らの送別会は、自分達も楽しめて尚且つ世話になった先輩達を祝う式。
だからこそ、メンバーに必須の人選が約三名存在するのだ。
同じ時間を共有し、苦悩を分かち合い、最終的には彼らに頼る。
だから、俺は相容れない。
俺達が楽しみ必要性はない。
満足感や楽しさを見出すのは、すべてが終わってからでいいのだ。
過程に最大の満足感や幸福感を必要とする組織は、既に目的を履き違えている。
「あの雫が、あの綺羅坂が、あの優斗が参加している実行委員会だ」、そう噂が広まり人が集まる実行委員。
まるで、客寄せパンダではないか。
そんな彼らが考える式が行き着く内容は身内乗りだ。
運動部特有のノリノリで、陽気で、相容れない生徒は多く存在する。
彼らの瞳には学園で静かに過ごす生徒の姿は映らない。
明るい場所で意気揚々と楽しく声高々に過ごす生徒が正しいと肯定している。
学園生活の過ごし方に正しいも間違いも無い。
だが、静かに過ごすことを根暗で退屈だと一蹴するのが、学園カースト上位の生徒達なのだ。
「自分が好きな人達と楽しくワイワイお別れ会がしたいなら二次会でやってくれ。そうなりゃお前らが嫌いな俺が参加できるはずもないんだからな」
話はここまで。
そう意味するように席を立ち、教室前方の扉を開けて隣に立つ。
向かいに座る生徒達が俺の行動を見て、出て行けと意味していることに気が付くのに対して時間は必要なかった。
憎々しい表情と舌打ち、さりげない足踏みを数回、非常に温かい去り際のご挨拶を甘んじて受け入れて最後の生徒が出て行くまで扉の前に立ち続ける。
最後に、出て行く前田の瞳を見て、彼らのグループからは更に好感度が下がったことは間違いあるまい。
子供じみたいじめに発展するか否か、それは彼らの精神年齢に期待するとしよう。
間接的に、今回の問題は俺が周囲から抱かれている印象が引き起こしたとも言える。
だから、教室内の机の修正、資料のまとめと戸締り含めた後片付けを引き受けて、他の生徒には各々自由に教室外で行動してもらっている。
生徒会は大半が生徒会室へと戻って作業を続けているだろう。
雫と綺羅坂、優斗は教室の外で待っていてくれているかもしれない。
そんな教室内で、中山だけは残って自分のPCとついでに俺の作業を手伝って片づけをしていた。
言葉は少ない、だが別に空気が悪いわけでもない。
そんな中で、中山は先ほどの会話で気になっていたのか、一つ問いかけてきた。
「なんで、最後はあんな言い方になったの? アンタならもっと上手く言い回しをして険悪に終わらない方法もあったでしょ?」
「……」
体と瞳はこちらを向き、交わった視線は外れることが無い。
何故、あんな言い方をしたのか……。
普段もあんな感じだった気がするが、確かに禍根を残す言葉になったのは否定しようがない。
答えは既に自身の中で出ている。
「送る側としては、あいつらは間違ってるからな」
間違い、そう表現するにはこの問題は正しい回答があるわけでもないのかもしれない。
そこには、後輩が先輩を送り出すという結果があるだけ。
必要なのは結果であって過程ではない。
でも、送る側としては少なくとも間違っていると思う。
形が不細工であれ送り出そうという姿勢を、過程を見せることが重要だ。
先輩方は送別会という結果の中に含まれる完成までの過程という副産物でしか、俺達がどのように行ってきたか把握は出来ない。
過程があって、結果がある。
あいつらの言葉風に言うのであれば、大層俺よりも大勢の先輩を送り出す目的のために過程として好ましく思っている彼らと行動を共にしたいのであれば断りはしない。
そこにプライドや羞恥心が介入してしまうから、彼らは言葉と行動を間違えてしまう。
そして指摘したとしても、それを認められない。
興味深そうにこちらを見つめる中山に、どう説明したらいいものかと天井を仰ぎ癖のように一つ息を零した。
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