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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第三十八話 送る者と送られる者

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#324


 話は端的で、とても分かりやすいものだった。

 俺達が普段実行委員の活動室として使用している裁縫室には、既に電話をしてきた生徒を含めた複数の生徒が帰りを待っていた。

 

 机を挟んで相対する両陣営。

 代表して口を開いたのは、サッカー部新主将の前田という男子生徒だ。


「動画を消せってのは、お前がリーダーなんてやってる実行委員会は信用も何も出来ないからだ」


「……」


 向けられた敵意ある視線は、俺の両目を捉えている。

 いつから、彼にここまでの敵意を向けられるほどの関係性になったのだろうか。


 いや、関係性もくそもありはしない。

 彼の名前は前田。

 サッカー部の主将で赤髪の派手な髪型と乱れた服装、陽キャという単語が似つかわしい。


 彼の隣に座る生徒にも見覚えがある。

 男子野球部新キャプテンの町田。


 物静かだが野球に取り組む熱意は本物で、好成績と練習態度からキャプテンへと抜擢されている。


 女子生徒もこの場には複数おり全員が女子バレー部。

 彼女らをまとめて引き連れてきたのはキャプテンの飯田。


 女子生徒にしては高い身長と手足。

 髪はショートに整えられているが、性格までもが短気で度々生徒間のいざこざを起こすことでも有名だ。


 気が強いと表現する方が分かりやすいだろうか。



 全ての生徒を知っているわけではない。

 しかし、代表となる生徒の名前と顔は知っている。


 生徒会の活動として、部活動の代表たちは月に一度集会が行われる。

 生徒間で解決できる些細な問題を報告しあい、修正していく。


 進行役を務めるのは生徒会の役員たちだ。

 俺も当然ながらその末尾に参列している。


 ただ、直接的に会話をした覚えはない。

 同じクラスではなく、去年同じクラスだったわけではない。


 つまりは、顔を見たことがあるが会話をしたことがない実質的な初対面である。

 それが、ここまでの敵意ある視線を向けられるのだから何かしらの理由があってしかるべきだ。


 前田の言葉に対しての回答を考える刹那の間にこの教室の外で雫と綺羅坂に話をした内容を思い出す。

 ……彼女達に言わずとも、問題は俺の方だったか。


 零れ出た苦笑を周囲には悟られないように一瞬の俯きで隠しながら、そんなことを思う。






 急ぎ足で校外から戻り、裁縫室の前へたどり着いて一息つく。

 短い距離の駆け足でも軽く息を切らしてしまうあたり、若者と言えど運動不足は大敵だと認識を改めて乱れた身嗜みを整える。

 周りは全然息を切らせていないのを横目で見てしまって若干傷ついたのはここだけの話だ。


 小泉はともかく三浦とかは体力無いイメージを抱いていただけに、不健康ランキング首位に躍り出てしまうのは誠に遺憾であります。


 毛ほども持ち合わせていない運動能力プライドなど瞬き数回で捨ててしまい、視線は教室の扉に向ける。


 僅かに話し声が漏れ出ている教室の中には、既に生徒達が待っていると白石から聞いた。

 誰なのか、何故なのか、それはこれから本題を相手に問わなくては確かなことを断言することは出来ない。


 だが、端的に説明されたのは動画の削除。

 そこから予想できるとすれば、動画に映ってはいけない内容が含まれていたことか、動画を渡した相手は悪かったか。


 だが、重要なのは内容ではない。

 なぜ、今このタイミングで話題が出たのかの一点だ。

 


 動画の回収は活動の序盤から既に進めていた内容だ。

 事前に連絡を入れて、回収に赴き、概要を説明して、使用してほしい動画を提供してもらう。


 だから、各々が動画を第一に確認してもらって提供してもらっているのだから、俺の予想の一つ目は苦しい理由となる。


 振り返ると、目的とタイミングには分かりやすい一つのポイントがある。

 実行委員会に生徒三名が本格的に協力したことが挙げられるだろう。


 神崎雫、綺羅坂怜、荻原優斗。

 彼らの実行委員会への参加は直近の出来事だ。


 これまでは俺含めた生徒会の面々と中山で行っていたところに、学内でも視線を多く集める彼女達も俺達の列に並び活動を始めた。

 多くの生徒の目にも、その行動は映っていたことだろう。


 ならば、理由として予想できるとすれば二つ目だろう。

 むしろ、それ以外に今更問題を提議する意味を感じない。


 送別会は在校生からすれば先輩を送り出す通過儀礼でしかない。

 自分たち以上に年上が存在しなくなる居場所という意味では、送別会……ひいては卒業式を待ち望んでいる生徒も多数派で存在しているはずだ。 


 好んで手間のかかる活動に足を踏み込む生徒は、現に俺の周囲の人間を除いたら一人もいなかった。

 当然、活動は学校掲示板や配布物の中に含まれて宣伝されている。

 周知の事実であることは間違いない。


 なんにせよ、何かしらの意見を述べに来た。

 その言葉は事実であるだろうが本心ではないはずだ。


 だから、生徒達を待たせている裁縫室の前で、雫と綺羅坂、そして中山を呼び止めた。

 優斗ではなく、中山をだ。


 

 他のメンバーには先に教室内に入ってもらい、一分にも満たない僅かなタイムラグを利用して伝えるべき言葉を組み立てる。


 これから、教室内で告げられる動画削除の依頼は十中八九で建前だ。

 会話を自分たちの意図する方向へ進めやすくするためのブラフだ。


 目には目を歯には歯を、ブラフにはブラフを。

 これが学校行事としての活動ではない場合は、俺のスタンスは変えないだろう。


 だが、これは個人の意見を押し通す場ではない。

 送別会の完遂を大前提に行動と言動をしなくてはならない。

 そして、利用できそうなものであれば、どんなものでも利用していく。


 だからこそ、この後に広がる会話の可能性を一つずつ予想して、消して、再び予想する。

 仮に俺が相手の立場だとしたら、何を目的とするか。


 ……本当に嫌な結論だが、結局はこうだ。

 動画の削除という建前から、最終的には実行委員に参加をすることで雫や綺羅坂、優斗達に近づくこと。


 それは何故か?

 時間が無いからだ。


 卒業生でなくても、俺達には時間が無い。

 高校生は人生の中で三年間しか掲げあることの出来ない一つのブランド、希少価値だ。

 約1000日しかない高校生という時間の、俺達は既に700日は過ごしてしまった。


 進級すれば部活動は最高学年、受験や就活、長期休みは当然毎年やってくる。

 年明けになれば登校日数も激減。


 俺達が高校生らしい青春の一ページを刻み込むのなら、今しかないのだ。

 

 約一か月後のクラス替えの機会で同じクラスになれれば、学校行事を共に過ごすイベントを期待も出来よう。

 だが、こればかりは運次第。


 彼らはアクションを起こす必要を感じたのかもしれない。

 そして、三人が固まって参加している実行委員が目の前にある。


 何かしらの建前を用意して、削除を撤回する代償に自分たちの参加を提示すればすんなり輪の中に加わることが出来るはずだ。

 ……と、俺ならこんな考えが浮かぶ。


 流石に捻くれた考え方過ぎるかと思うが、可能性の一つとして頭に留めておく分には問題あるまい。

 ともかく、相手が優位な状況で会話を進めてくることは変わりないので、面倒事を拡大させないために雫と綺羅坂にはくぎを刺しておく必要があった。


「動画削除は話し合いの席を用意するきっかけだ、本心じゃ私利私欲な理由で何か頼まれるかもしれないけど無事に送別会を終わらせることが最優先。面倒でも多少の妥協はしていくつもりだから良いな?」


 仮に代表が雫や綺羅坂なら問題は起こることは無い。

 しかし、現段階での代表は真良湊だ。


 どこに序列があるわけでもないが、生徒達は上からの目線で言葉を交わすことだろう。

 それに間違いなく、彼女達は憤慨するはずだ。


 そして、彼らを必要ないと突っぱねる。


 彼女達が口を挟んでしまえば問題はもっと面倒な方向性へと発展していく可能性がある。

 事前に釘を刺しておけば彼女達も普段通りの冷静な思考で我慢してくれると信じたい。


 優斗に声を掛けなかったのは、なんとなくあいつなら俺が何かしらのアクションを起こすまでは前に立つことは無いだろうという勝手な安心感からだ。

 俺が何かをしようとしても止めないという根拠のない自信もあった。

 多分、あいつは見留めるとか言って格好つけて静観しているはずだ。


 澄ました顔をして、内心ではドロドロな感情が溢れんばかりになっているかもしれないが、他人の前であいつが感情を溢れさせることは無い。

 荻原優斗の美徳であり、悪癖だ。


 そして、中山の方へと目を向ける。


「たぶん、こっち側は居心地が悪いかもしれないからな……先に謝っておくよ、ごめん」


 中山に告げると不器用なりに笑って見せた。







 結果として告げられたのはシンプルで単純。

 彼らの不満要素は動画の内容ではない。

 真良湊という生徒単体への不満だ。


 俺が考えた最初の予想で言うところの二つ目の可能性が近い。

 教室に入る前の情景を思い出し、でも自分の予想もあながち悪くない線をいけていたのではないかと自画自賛しはじめたところで女子生徒を代表して飯田が口を開く。


「何回か荻原君達に偉そうに指示出してるところ見かけたけど、どう考えても逆でしょ。あんた自分が余計なことしてるって自覚してないの?」


「余計なことと言われても……人集めも企画の立案も自分がしたのだから指示を出すのは当然だと思うんだけど」


「だったら人が集まったらその席を譲んだよ、能力も無いのにいつも偉そうで……お前を嫌いってやつはこの学校にいくらでもいるの知ってる?」


 矢継ぎ早に前田が続ける。

 嘲笑の込められた顔はいつも見てきたものだ。


 視線はチラチラと何度も雫に向けられていた。

 まるで、事実を言い聞かせるように。


 偉そう、才能は無い、それも何度も言われてきたことだ。

 そんな言葉を投げかけられたとして、今更傷つき消沈してしまうメンタリティーは持ち合わせていない。


 学校の多くの生徒から嫌われている。

 ……当然だろう。


 高校だけでなく中学でも嫌われてきたのだから。

 俺は自分の考えを早々曲げられない。


 集団で行動することが正しいとは思わない。

 友達が多い生徒が偉いとは思えない。

 部活で活躍している生徒が偉いとも思えない。


 美人だから凄いとも思わない。

 イケメンだから何をしても良いとは思わない。


 集団心理のもとに行われたことなら正しいとは思わない。

 集団ではなく、個人として考えて行動した信念の方が正しく尊ぶべきだと思っている。


 だから、集団で押し寄せて嫌いだと告げられても別段何も思わない。

 考えることは同じ、この問題をどうすれば解決できるのかの一点だけだ。


 そのために必要な犠牲を自分が負えるのであれば、それが最善策だ。


「早く条件を言えよ……そのために面倒なことしてまで教室に集まったんだろ?」


 深く椅子に腰かけたまま、表情一つ変えずに前田に対して問いかけた。

 態度を見て前田は更に不快感を濃くするが、そんなこと知ったことではない。


 不快で言えば前田や飯田の方が人を不快にさせる言葉を並び立てているんだ。

 俺が気を使う必要性すら感じない。



 最初からこいつらは言っていた。


 「お前がリーダーをしている実行委員は信用なんて出来ない」と。

 つまりは、条件次第では信用してもいいということになる。


 動画を消すだけなら電話で一言絶対に使うなと断言すればいい

 人数集めて来たからには交渉まがいなことをしに来た。


 前提として彼らが不満を感じている部分を吐き出したのなら、そこからは条件の提示だ。

 それを俺達が飲めるかどうか、あとはそれだけでいい。


「なら、真良が実行委員を辞退して足りなくなった人手の分は俺達が参加するってことでどうだ、俺達が渡した動画がどんなふうに使われるのか確認もできるし、実行委員も一気に人手が増えて負担が減るだろ?」


「あ、それそれ、そんな感じなら皆もいいよね?」


 提示された条件に飯田が女子生徒の賛同を求める。

 全員は確認ができないが大半の生徒は条件に賛成の意を示す。


 それは女子だけに限らずサッカー部も野球部も同様の反応だ。

 ただ、一人だけ。


 野球部キャプテンの町田は静かにじっとこちらを見つめている。

 何も意見を言わず、頷かず、静かに眺めている。


 何をしたいのか、何のために来たのか、彼だけは読めない部分が多い。


「町田もそれでいいのか?」


 俺が問いかけるとようやく僅かに反応を示す。

 固定されていた視線が動き、俺と交錯する。


 僅かな間は全員の視線が集まるには必要十分。

 皆が言葉を待つ中で、町田はハッキリと小さな声音で言った。


「俺は先輩達を送り出す手伝いが出来るなら何でもいい」


 短く、意思のある言葉は彼らの目的とは同じようで異なるものだった。

 前田と飯田達の実行委員の参加は副産物でしかない。


 実行委員の最終目的ではなく、過ごす過程を求めている。

 対して町田は最終目的を求めている。


 同じと思っていたが、初めから三人の意志は共通ではなかった。

 それを聞けただけでも面倒な会話をした成果はあったのだろう。

 少なくとも一人、協力を頼める人物が見つかったのだから。



 それはそうと、条件は飲むこと自体は難しくない。

 人手が増えるし好条件であることは間違いない。


 だから、俺の答えは決まっている。

 そして、俺だけでなく生徒会含めた全員が意図せず同時に同じ回答を口にした。


「「「「「「「「「断る」」」」」」」」」


 九人の声が重なり、思わず全員が顔を見合わせる。

 自然と全員笑いがこみ上げて、小さな笑いが俺達に伝染する様を向かいに座る生徒達は理解できないと言った表情で眺めていた。


  




 



 

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[一言] 湊・雫・怜・優斗・中山と生徒会の4人だっけか
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