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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第三十八話 送る者と送られる者

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342/355

#318



 雫と綺羅坂と別れて自宅の玄関の扉を開く。

 足を踏み入れた実家からは暖かい空気と匂いが心を安堵させる。

 

 一つ、なんてことない障害なのかもしれないが俺にとっては大きな一歩。

 それを踏みしめられたことに対して、心の底から安堵の息がこぼれる。

 

 ありのまま、自分のままで。

 雫と綺羅坂が肯定してくれた真良湊という人間がいま必要としている人物。

 その三人のうちの二人が協力をしてくれる。

 

 最後の一人は言わずもがな、優斗なのだが彼は明日にしよう。

 時間も夕方を過ぎて既に夜の8時前だ。

 今から呼び出して話をするのは相手にも迷惑だろう。

 

 なにより、今日は本当に疲れた。

 間違いなく精神的な気疲れだろう。

 

 風呂に入って、母さんが作ってくれているであろう夕食を食べて早々に就寝する。

 その前に妹からのマッサージフルコースを満喫できればこの世の幸せは全て真良家に集まっているであろうという至福が待っている。

 

 

 そのためには、俺がしなくてはならないことは楓の妹精神を刺激すること。

 方法はいくつかあるが、普段は甘えないお兄ちゃんが珍しく甘えてきた的な流れでお願いしたいものだ。

 

 なんてことを考えながら、リビングの戸に手を掛ける。

 途端に脳裏によぎったのは雫と綺羅坂と三人で佇む街灯下での出来事。

 

 あんな笑みをして、もしかして俺って結構恥ずかしい言葉をツラツラつげてしまっていたのではないだろうか?

 

 ……思い返せば思い返すほど、顔に熱が篭るのを感じる。

 恥ずかしい、明日どんな顔をして二人に会えばいいのだろう。

 

 絶対に綺羅坂はからかってくるに違いない。

 雫は慈愛に満ちた微笑を浮かべる姿が目に浮かぶ。

 

 大きな奇声を上げて転がり回りたい激情を抑え込み、掛けた手で戸を開くと更に暖かな空気と光に包まれる。

 

「おう、お帰り」


「ただい……何故お前は何食わぬ顔で人の家で煎餅を食ってんだ」

 

 最初にリビングの中で視界に入ったのは、ソファーに腰掛けて海苔煎餅を齧る優斗の姿だった。

 あまりにも自然な佇まいで、思わず流して返事をしてしまいそうになったとことを踏みとどまった俺を褒めてほしい。

 

 人は褒めると成長する、いまがその時。

 

 片手で顔を覆い、ため息が零れる。

 どうして、才ある人間は意外性のある行動を取るのだろう。

 意外性があるから才があるのか、関連性について調べる作文でも提出してみた今である。

 

 しかし、今はそんなことを論じている状況ではない。

 状況の理解に脳をフル回転させていると、キッチンの方から歩み寄る足音が一つ。

 

「優斗さん、『次は多分俺に用事がある番だろうから』って先ほどお越しになったんですよ」


「楓……」


 エプロンを掛け、お盆に淹れたてのお茶を用意したのは菓子が煎餅だったからの配慮か。

 慣れた手つきで優斗の前にお茶を置くと、優斗もさも当然のように「ありがとう」と感謝の言葉を述べる。

 

 ……妹よ、学校で不審な人を家に入れてはいけませんって習わなかったのかい?

 いや、習っていたけど不審すぎて入れてしまったんだね、仕方がない。

 俺が兄として追い出してあげよう。

 

 ……と、いつもの俺なら叩き出していたところだろうけども、今回はこいつの勘の良さに感謝しなくては。

 

 優斗が座る隣へ腰を下ろすと、テーブルに出された煎餅に手を伸ばす。

 大きく齧って味わうと、隣から小さく笑いが零れた。

 

「二人とは上手く話せたのか?」


「ああ……」


「なら良かった」


 本心から安堵したように優斗は呟く。

 次は俺の番だろうから……その通りだ。

 多分、俺の憶測でしかないけど優斗はシンプルな言葉を待っているのかもしれない。

 

 男同士だから、友人だから理解し合えるシンプルな言葉を。

 だから、口に含んだ煎餅をお茶と一緒に流し込んだら口を開く。

 

 「手伝ってくれ、明日放課後に集合で、よろしく」

 

 一瞬、向かい合った彼の表情には小さな笑みが浮かんでいた。

 シンプルで一方的で、頼み事の言い方とは思えない。

 でも、それが彼の求めていた言葉だと表情で理解できた。

 

「まったく、理由も教えてくれずにとは冷たいヤツだな」


「時間無い、人手足りない、男二人」


「箇条書きみたく言わなくても……」


 優斗が小さくツッコむと、彼はそれ以上の言葉を口にすることはなかった。

 

 深く腰掛け、淹れたお茶を美味しそうに啜るだけ。

 断る気配も、その気すら最初から毛頭ない様子に二人の女性に聞けなかった問いを訪ねてみたくなる。

 

「前から聞いてみたかったんだけど……自分ではなく他人のせいで悪く言われるのに、なんで皆はありのままの俺を慕う?」


 同じように深く腰掛け、前だけを見て問う。

 声のトーンは普段と変わらない。

 悲観的とかそういう感情からの問いではない。


 純粋に気になるのだ。

 何故、俺のような欠落した人間を慕ってくれるのだろうか。

 俺には返せるものなど何も無いというのに。


 周囲に悪口叩かれてもなお隣に居続けるメリットもないだろうに。


 異性ではなく、互いを一定以上に理解し合っている関係性だから、正直な言葉が聞きたい。


 俺の問いに対して、優斗は少しだけ沈黙する。

 考えて、そして出した答えはこちらもまた単純だった。


「お前が一番自然体でいられるからな」


 そう語る優斗は、心底面倒そうに普段は絶対に口にしないだろう心境を声にして説明した。

 

「友達同士の会話とか遊びなのに打算的であったり、席順一つにこだわりを持ったり、俺の意思にそぐわない答えを勝手に作り出すし」

 

「……お前も大概大変なんだな」

 

「あの二人程ではないけどな、だから俺が普通でいられるからお前も普通で良いんだよ。悪口陰口どんとこいだ」


 自信を持って胸を叩いた優斗は、自分の言いたいことを言い切ったのか、荷物を片手に立ち上がる。

 楓に一言お礼を告げると、一人リビングの戸に進んだ。

 

「じゃ、明日の放課後から参加だな」


「頼む、助かるよ」


 視線が交錯して、互いに小さく笑みを浮かべて見送ると優斗は真良家をあとにした。

 急に静かになったリビングで、楓がコーヒーカップを手のひらで包み込むように持って言った。

 

「男の子の青春ですか?」


「うるさいよ妹さん、そこはスルーしてくれると信じていたのに」


 少しだけからかうように楓が言ってきたので、外で冷えた両手で頬をサンドイッチしてあげた。

 大変可愛らしく冷たがっていたので、非常にお兄ちゃんとしては満足です。

 

 

 

 翌日、心配していた雫や綺羅坂からの羞恥責めは行われなく心底安心して学校生活を過ごすと放課後がやってくる。

 クラスの清掃当番が俺と優斗の日だっったので、女性陣には先に教室へと移動してもらい、俺と優斗は最後に実行委員会の元へと訪れた。

 

 教室の戸を開き、最初に俺が室内に踏み入ると視線が一点に集まる。

 既に雫と綺羅坂が新しく参加することは伝えてあるのか、二人は自分席を決めてそこに腰掛けていた。

 

 白石と火野君、中山がこちらを見て活動を始めようとしている中で最後に美味しいところはこいつが持っていく。

 

「こんにちは! 俺も今日から仲間ってことでよろしくね」


「え、荻原君? マジ? え……マジでヤバい!」


 誰よりも興奮していたのは中山で、予想通りというか予定通りというか。

 彼女のカンフル剤にでもなってくれれば御の字と思っていたところもあるから成功と考えていいだろう。

 

 ……ところで、どこら辺がマジでヤバいなのか、わかりやすく教えてもらえると湊君とても助かる。

 

 マジとかヤバいとか、万国共通で伝えると過信しすぎでは無いだろうか。

 

 だが、これでようやくメンツは整った。

 曖昧な計画を全員で相談して一気に具体性のあるものへと昇華させる必要がある。

 

 ここからは、時間と行動力との勝負だ。 

 ……あと、体力。

 

「……それじゃ、今日の活動を始めますか」


教卓に登って全員の顔を伺ってから、俺はそう話を切り出した。


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