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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第三十八話 送る者と送られる者

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337/355

#313



 男子生徒一人に対して、共に歩くは女子生徒三人。

 このようなときに、どういう顔をして歩けば良いのだろうか。


 

 いくら放課後とはいえ、校舎内にはまだ多数の生徒が残っている。

 視線が多く集まるのは当然ながら非常に居心地が悪いことこの上ない。


 目的地へ案内も兼ねているから、俺が先導する形になるので余計に生徒からの勘ぐりは大きいことだろう。

 それもそのはず。


 

 肩を並べるにはあまりにも似つかわしくない組み合わせが、桜ノ丘学園の二棟に創り出されていた。

 学内でも彼女の姿を見たことがないという生徒は少ないであろう、ウェーブの掛かった髪に派手なアクセサリーや着崩した制服。

 端的に表現すればギャル、端的に表現しなくてもギャル。


 片や、制服の襟元は緩めているものの普通の佇まいの男子生徒。

 既に学内カースト最上位の生徒達と親しくしていることで有名になりつつあるが、それも本人の能力や容姿からくる知名度ではない。


 一年生が過ごす一棟への渡り廊下へ差し掛かる手前で、中山が思い出したように口を開く。

 

「てか、私も聞きたいことがあったんだけど」


「どうぞ」


 さぞかし問いたい内容が募っていることだろう。

 先導して歩く最中で振り返ることなく返答する。


「確か送別会まであと二週間程度だけど、いまは何人くらいで準備進めてるわけ?」


 ……なんて答えにくい質問なんだ。

 中山からすれば、これから参加する実行委員がどの程度の規模で活動しているのかについては当然の疑問だ。


 各学年から一定数、もしかしたら各クラスから選出していると思っているのかもしれない。

 だからか、彼女の問いに対して俺の口から出た声音は非常に小さいものだった。


「……三人だ」


「は?」


「……参加してくれているのは三人だけだ、時々生徒会が手伝ってくれるけど」


 ジャラジャラしたキーホルダーをいくつもぶら下げたカバンを肩に提げて窓の外を眺めて歩いていた中山は、その視線を俺へと戻す。

 その瞳は大きく見開き、思わず歩みが止まる。

 

 刹那の硬直から、弾かれたように右手は動き顔の前で勢いよく振られる。


「いやいやいや、少なすぎでしょ……今から断るってあり?」


「もちろん無しだ、一度手を握り合った仲だ瞬間接着剤が剥がれにくい並みに俺は剥がれないぞ」


「キモい……その顔でその発言はキモいわ」


 ですよね、俺も自分で言っていてキモイなと思いました。

 でも、一度は参加をすると言ってしまったのが運の尽き、俺は絶対に逃がさないぞ。

 顔までは言わなくていいじゃんって思っても、今回だけは言い返さないぞ。


 それこそ、ゴキブリホイホイ並みに粘着力は強い。

 

 中山は俺の反応を見ても気持ちが揺らいだのは変わりないのか、何かを言いたげにしていたが途端にその口を閉ざす。

 背に受ける冷たい視線には、口を閉じるしかなかったのだろう。


「……」

「……」


 雫と綺羅坂の瞳には中山の背が映っている。

 意図せず、彼女の口から零れ出た言葉が二人の琴線に触れてしまったのか学友へ向ける瞳ではない。


 虚ろな瞳が二人分、それは悪寒となって中山を襲ったのだろう。

 彼女は振り返ることなくすかさず訂正の言葉を述べた。


「あ、やっぱ今のは無し、人の容姿についてとやかく言うのは失礼ってもんだしねー」


 上げていた右手は僅かに震え、額には冷や汗が流れる。

 俺に向けていた視線からは助けを求めているようにすら感じた。


「で、でも、この二人がいるなら私は必要ないってか……三人でも確かに問題ないっていうか」


 補足で告げた言葉に、またしても歩みが遅くなる。

 三人、そう説明されれば今この場にいる三人がメンバーだと誰もが思うだろう。


 ……教室に着いてからまとめて説明しようとしていたことが後手に回った。

 苦虫を嚙み潰したように顔を一人しかめて、悟られないように言った。


「残りの二人は一年の白石と火野って生徒だ……彼女達は俺から頼んで不参加にしてもらっている」


「はあ!? 意味わかんないんですけど……え、私だけ?」


 一身に向けられた視線に体を強張らせていた中山も、流石に驚愕の顔を浮かべる。

 意味が分からない、言葉だけでなく体全体で表現された意思表示に、先ほどまで虚ろな眼をした二人も頷いて見せた。 


「安心しなさい、私も納得しているわけではないのだから」


「本当は喉から手が出るほどお手伝いしたいのですが……」


 

 中山からの問いに答えながらも、まるで考え直すことを促すように二人は言う。

 状況は非常によろしくない。


 これじゃ、何を言ってもマイナス効果しか発生させない問答だ。

 要因を作っているのが自分だけに、ぐうの音も出ない。

 


「色々と訳があるんだよ……現状の人数でフル稼働で進める方向性で」


 まるで子供の言い訳だ。

 そんな言葉しか出ないくらいに、中山の言うことは正しい。


 ここで、折れて何も聞かない選択をしてくれるのは大人というべきなのだろうか、気が利くというべきなのだろか。

 しかし、気を使う関係性ではないからこそ、深く正直な意見が中山からは発せられた。



「男のプライド的な~ってやつ? でも、それなら二人が手伝わないのは意外っていうか、好いた男の頼みだから従う健気な女の子です的な感じがして私はあんまり好きじゃないっていうか、まあ神崎さんと綺羅坂さんに限ってはそんなことは無いと思うけど~」


「……」

「……」

「……」


「え、じょっ冗談なんですけど……嘘、まさか本当に?」


 図星かな? 図星じゃないよ、煮干しだよ。

 俺は最初の一言で心境を言い当てられ、彼女達は心のどこかで感じていた自分の考えを見抜かれたのか僅かに赤面して俯く。

 

 そんな反応に言い出した中山自身も気まずそうに、あたふたと視線を泳がせる。

 

 ……なんだ、この空気は。

 廊下を歩く短い時間で俺達のライフはどこまで削られればいいのだろうか。


 残りの道のり数分、誰も声を発することがなかったのは、この会話の中で唯一共通した気遣いだったと言えるだろう。





 実行委員会の集まる教室の戸を開いて、最初に視界に入ったのはお茶を用意する火野君の姿だった。

 俺達には見慣れてしまった光景だが、新規参入者からすれば違和感しかない。


「デカ、赤、怖っ!」


「初対面なのに酷いっす!」


 出た言葉は短く、直接的だ。

 確かに火野君はデカいし髪赤いし、顔怖いし何も間違ってないな。

 

 訂正する余地が一つも残っていない。

 

 二人の対面にスルーして窓際の席に荷物を置くと、廊下からパタパタと駆ける足音が響く。

 そして、勢いよく開かれた戸から入ってきたのは白石で、俺を見るや何か言いたげに頬を膨らませる。


 だが、その勢いもいつもは見かけない先輩の姿に止められた。


「……どうも」


「こんにちは! 生徒会一年の白石紅葉です、よろしくお願いします!」


 中山が小さく会釈をすると、反射的に白石は笑みを浮かべて名乗る。

 声音はワントーン高く、笑みを浮かべた際の首の確度は自分が一番良く見られる角度を計算された動作。


 ……オートで出たんだろうな、この反応。

 いかにも可愛らしい後輩、ファーストインプレッションは完璧だね。


 ニコニコと、明るい笑顔で集団の中を通り過ぎると、俺の横で足を止める。

 当然、周りからの視線はこちらに集まっているので表情に変化はない。


 しかし、小さく他の人には聞こえない程度の声量で白石は口を開く。


「……ギャルって情報は私に入ってきてないんですけど」


「言ってなかったかもな、見ての通りギャルだ」


 大丈夫、短い会話の仲だけど中山はお前と相性良いと思うよ。

 だって、本音が零れるタイプだもん。


 なんてことを思いながら、後輩からの恨めしそうな眼光から目を反らしていると雫と視線が交差する。



「では、私達は生徒会の方がありますので」


「一緒に残ってもらって悪かったな……よろしく頼む」


 雫と綺羅坂が教室の入り口付近でこちらを見て声を掛けてきた。

 本当なら生徒会室へ既に到着して活動に参加している時間だ。


 一緒に残ってもらう形になり申し訳なさを感じながら見送るために立ち上がると、教卓の前に腰を下ろしていた中山が二人を一瞥する。


「ねえ、神崎さんに綺羅坂さん」


 珍しく、中山から二人へ声を掛けた。

 何用かと、雫と綺羅坂は視線を向けると彼女は短く用件だけを言い放つ。


「案外お利口さんなんだね、二人って」


 きっと、悪気はない率直な感想なのだろう。

 言葉の意味を一年生二人は理解することは出来ないはず。


 雫の笑みの裏に、綺羅坂の鋭い瞳の奥に揺らぐものがあったのをこの状況で見逃すはずが、見逃せるはずがなかった。




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