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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第三十八話 送る者と送られる者

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#311



 仲は良くない。

 話をしたことも僅かな関係性で、自分が裏で活動していた創作活動のページを表示させてクラスメイトが佇んでいれば、当然警戒心は最大級に高まる。

  

 それが、普段から何を考えているのか分からないような人間であれば尚更だ。


 俺がスマホを片手に一歩、歩みを進めれば彼女は一歩後退していく。


「なんでアンタがここにいるのよ」


「桜の状況を見たいと思ったからなら、納得してくれるか」


「学校に腐るほど桜が植えられているのに納得するわけないじゃない」


 視線を彼女から上でそびえ立つ桜へ向けて言ってみるが、中山は視線を鋭く強い声音で言い返す。

 そりゃそうだ。


 桜が今どれくらいの成長を見せたかなんて、いくらでも学校内で確認ができる。

 彼女がこの場所に来ると分かっていないならスマホで彼女のホームページを開いて現れたりなどしない。


 親しくないなら、好意がないなら後を追うことなどしない。

 自分と相手の関係性を正しく認識しているからこそ出た問いだ。


 故に彼女が聞きたいのは表面上の言葉ではなく違う意味だろう。

 何故、お前が私の行動を知ってこの場所にいるのか。



 でも、その質問に関しては答えを用意してある。


「探し物……」


「探し物?」


「俺が探していたのはお前だ」


 キッパリと断言すると彼女は口を開けて固まる。

 なんて格好いいセリフなのだろうか。


 もしかしたら女のことが言われたいセリフランキング七位くらいには入賞しているまである。

 しかし、これには一つ注意点がある。


 顔が整っている男性に限る。

 つまり、俺が言ったところで気持ち悪いかっこつけにしか聞こえてないというむしろ逆効果満載のセリフであることは自覚している。


 なんなら、自覚したうえでちょっとだけ傷ついて言い回しを変更しようと悩んだ挙句に何も浮かばなかった苦渋の選択でもある。


「……キモ」


「ですよね」


 そうですよね、そんな気はしていました。

 だって自分で言っていてキモイなって思ってしまうくらいには臭いセリフ出たもん。


 少女アニメでは瞳をキラキラさせて顎をクイッと上げて言っていたが、現実は漫画とは違うものだと痛感する。


 親しくない相手に回りくどい進め方をしても逆効果でしかない。

 早い気がするが本題に入るとしよう。



 俺は彼女のホームページに今一度視線を落としてから、相対する現実の中山に眼を向ける。


「名前は紬からもじった名前で顔出しもしている……知名度が出るまでは問題は無いだろうし、そもそも中山からすれば身バレは何の問題ないと考えているんだろうなとは思ったけど」


「……それじゃあ何よ、本当か確認して笑い話にするつもり? それとも女装でも趣味があるのかしら?」


「いやいや、俺が女装するくらいならマネキンに化粧した方が立派なものが出来上がっちまう……」


 中山はあくまでも強気の姿勢を崩すことなく口を開く。

 自分がメイク系の動画を上げているから、俺が女装趣味でもあるのかと答えが出たのか。


 残念ながら衣料品売り場にあるマネキンの方が立派な変装をしてくれると自負している。

 自己肯定感の低さには定評がある湊君だぞ、舐めるなよ。



「探し物ってのは動画編集者だ、話は近々行事である送別会の実行委員会に参加してもらいたいってお願いだ」


 握っていたスマホをポケットの中にしまうと、胸中にある思惑と共に要件を吐き出す。

 チラッと反応を伺うが、疑惑の視線を向けられていた。



 隠し事などない本音なのだが、それも当然か。

 急に目の前に現れて、こんな話をしてくる人間が本当のことを話しているのか警戒するのは当たり前だ。


 仮に反対の立場なら、俺は中山以上に警戒して言葉を聞き漏らさないように耳を傾けるだろう。



 

 木々を風が撫でる音だけが二人の間に響き、中山は俺からの説明を求めているように見えた。

 

「俺達から卒業生たちに贈るのは思い出だ、自分が撮影したものではなく後輩たちがこの中に残した思い出を形にして渡す」


 トントンと指を制服のポケットを叩いて、その中にあるスマホが会話の中にある記録媒体であることを示す。

 言葉にして言い返すことはないが、彼女も簡単な流れは掴めてきたのか思案顔を浮かべた。


 しかし、皆が思うであろう疑問にもたどり着いていた。


「自分でやればいいじゃない、今は誰でも簡単に動画編集なんて出来るんだから」


「……まあ、そういう答えになるわな」


「それに、私がなんでそんな面倒なことをしないといけないのよ」


 不服そうに、そして不快そうに彼女は言った。

 どちらかといえば嫌いにカテゴライズされる生徒の誘いを二つ返事で承諾する人間などいない。


 だからこそ、足りない知恵で用意した彼女への交渉材料。

 交渉の会話運び。


 一発勝負で彼女の不快感を煽ることがあれば、間違いなく交渉は決裂に終わる。

 でも、だからこそ自分のスタイルを崩すことは無い。


 下手に出て、笑みを浮かべて好印象を取る……そんな人間関係を嫌って過ごした人生で、学内カースト上位の相手に対してやり過ごす自信はあいにく持ち合わせてなどない。


「将来、見返した時には拙い編集でも良い思い出になるかもな……でも、俺が欲しいのは目先の成功だ、クオリティーを落として誰でも出来ると言われたくない」


「私が手伝う理由になってないわよ……」


 溜息を零して、会話を終わらせてこの場から立ち去ろうと中山が体を動かす。

 それを静止するように、言葉を矢継ぎ早に紡いだ。


 

「可能性は無限大……なんて言葉は詭弁だ、可能性は有限で目の前に落ちてきた小さな欠片を拾い集められない人間には無限の可能性なんてありはしない」


「……何、急に説教?」


「捻くれ者の独り言だと思ってくれ」


 苦笑を浮かべて言ってみると、中山は溜息こそ零してみたが遮ることなく聞きに徹する。

 意外と聞き上手なのかも、なんて思いながらも意識を話へ戻す。



 高校生は可能性の塊、大人たちは一様に言うが本当にそうなのだろうか。

 実際は、小さく細い選択肢の中で最善を模索しているだけに過ぎないのではないだろうか。


 




 

 たとえ、正しいことだとしても善行だとしても人は理由を求める。

 無償の奉仕を偽善と謳い、有償の奉仕を当然と語る。


 俺達高校生なら、尚更理由を求める答えを求める。

 人がやらないことを、自分一人が行うことが孤立だと捉えてしまうからだ。



 人の中で馴染み過ごしていくなら正解なのだろう。

 周りが何を考えて、どのように行動を起こすのか捉えることができる。


 自分も歩幅を合わせて進むことができる。

 集団という生き物で必要な素質だ。



 だが、歩幅を合わせるなら立ち止まるときも、一緒に立ち止まる。

 間違っていると頭の中では分かっていても孤立を恐れる、孤独を恐れる。


 正しいのに、周囲の中から一歩先を進むことは断じてならないと、言葉なき周囲の視線が告げるのだ。


 

 だから、俺は中山に告げればいい。

 大義名分を、彼女が手を差し伸べても良い周囲からの理由を。


 彼女が協力することで、彼女の評価が僅かでも向上するのであれば、この場合は正しい選択なのだ。

 そこに、彼女が食いつきそうな好物を少し垂らして上げれば、何も問題は無い。



 ならば、彼女が求める物は何か?

 金銭か、人望か……


 答えは簡単、数字だ。

 創作をするのであればついて回る問題、越えなければならない壁は数字だ。


 自分を支持する、応援する人の数がどれだけ増えるのか、それが己のアイディアやセンスを頼りに顔を向かい合わせることのない創作の世界で唯一無二の指標なのだろう。



 ネットを得意ではなく、別段興味も薄い俺でも調べれば彼女の活動情報は把握できるくらいには、彼女は活動に対してオープンな性格なのだろう。

 人は見かけによらないという言葉を今日ほど感じさせられるのは、この先の人生においても早々無いだろう。


 なら、交渉材料は単純明快、直球勝負だ。


「隠してないなら出せばいい、学校の卒業動画の制作に携わったと学園の生徒に公表すれば、人によっては些細なレベルと言うかもしれないが数百規模の宣伝効果はある」


「はぁ? そんな恥ずかしいこと私がするわけないでしょ」


「さっきも言っただろ、これは偶然落ちてきた可能性の欠片に過ぎない、拾うも捨てるも自由だ」


 中山が反論の言葉を口にしようとしたところで、俺は直筆で数字を羅列したメモ用紙を取り出す。

 付け焼刃の情報だが、現代の学生のどれくらいがネットに関り過ごしているのか。


 そして、生徒総数と年間の行事内容。

 その月度と来場を自由としている行事に関しては来場数の直近三年間の数字だ。


 授業中に会長に頼んで記憶の範囲で構わないからと頼んで準備できた、根拠のない数字達。


 でも、これはビジネスではない。

 大人たちが行う交渉の模倣。


 すべての裏どりを行う必要はない。

 示した可能性に信ぴょう性を感じさせることが出来れば、その時点で成功まであるのだ。



「今後もある学校行事も動画の企画にすればいい……生徒会には俺も話を通すし、生徒の夢に理解ある学園ってキャッチフレーズなら学園側は余計な口出しは出来ないだろうからな」


「企画……んー」


 動画投稿をするものであれば食いつきそうなフレーズに、彼女は見事に反応を示す。

 しかし、それだけで即答するほど効果的ではないようだ。


 ……あまり、こういう使い方をしたくはないが。

 

「手伝ってくれる生徒の中には優斗もいる、一緒に過ごせる可能性も小さな物のうちの一つだな」


「えっマジ!?」


 俺の言葉に想像以上の食いつきを彼女は見せる。

 学園の王子様って存在は、俺が思っている以上に希少性があり欲するものなのだろう。


 垂らす好物に間違いはなかったなら、あとは彼女が考えて判断するターンだ。

 余計な一押しは、かえって悪影響になるかもしれない。


 今の良い流れのまま、彼女に選択肢と少しの制限時間を与えれば話は好転する。


「じゃあ、俺が話したかったのはこれで全部だ……もし手伝ってくれるなら明日の放課後教室に残ってくれ」


「本当に一方的に話して終わりって、アンタ友達少ないでしょ」


 否定のしようがない事実に、俺は肩をすくめた。

 彼女みたいな生徒からは考えられないのだろうが、友達なんて数えられるくらいだ。


 それが良いのか悪いのか、本人次第で俺は今の環境は好きだ。


 だから、中山からの問いに対しては答えることなく来た道を戻る。

 今からなら、十分に放課後の活動に参加できるだろう。


 


 答えを聞きたいと急く気持ちを抑えながら、学び舎へと歩みを再開させた。





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