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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第五話 週末の過ごし方

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#29

 


学生にとって平日とは言ってみれば出勤日であり、週末の土日が連休になる超ホワイト企業だ。

 残業もなければ、営業ノルマなんてものもない。


 ただ一つ、一定以下の成績を取らなければ基本的に問題ない。


 おまけに学生は長期休みや、イベントが盛りだくさんで、ほとんどの人が社会人になれば「学生の頃は本当に楽しかった」……なんて言うものだ。


 逆に学生の頃は、早く社会人になって自分で稼いだお金を自由に買い物などに使いたい、なんて考えるものだ。


 要するに無いものねだりだ。

 

 しかし、常日頃から学校に通うのは面倒くさいと思いつつ、さらに社会人にもなりたくないと考えている俺にとっては、休日は天国にも等しい。


 そんなことで本日は土曜日。

 学生が一週間の間で、最も持ち望んでいる日ではないだろうか。


 それは俺も例外ではなく、休日という時間を睡眠で有効活用する予定だ。


 なぜなら、生徒会の仕事を初めて体験して……といってもまだ昨日の一日だけだが、想像以上に大変だというのを痛感した。


 書記といっても、会長から簡単に伝えられていた書類制作や記録係の仕事だけでなく、校内の巡回や部活動への訪問、先生方と今後の話し合いなど、一日の間で想像の三倍程働いたのではないだろうか。


 肉体だけでなく、精神的にも疲労が溜まり休日である本日は家でのんびり休むと決めていたのだが……


「兄さん起きてください!」


「っんお!」


 我が妹の楓が、俺の部屋に駆け込んで来るとそのまま飛び込むように俺が寝ているベッドに突撃してくる。

 口元まで被っていた毛布を盛大に剥ぎ取ると、楓は口を開いた。

 

「早く起きてください兄さん!買い物に行きますよ!」


 馬乗りになり俺の体を揺らす楓は、やや興奮気味にそう告げる。

 俺は剥ぎ取られてしまった毛布を、足で巧みにすくい上げると、楓の乗っていない場所に掛けなおす。

 

「……買い物?買い物なら夕方に近くのスーパーですればいいだろ……」


「違います!明日着ていく洋服を買いたいのです!」


 ……明日の洋服?

 何か予定でもあっただろうか……


 俺は、覚めきっていない脳で明日に関する記憶を探り出す。

 すると一つだけ、俺の脳内カレンダーで毎週空欄のはずの日曜日が、明日だけ埋まっていたのを思い出した。


「……遊園地」


「そうです!遊園地です兄さん!」


 そう……遊園地だ。

 これは俺も後から優斗に聞いた話だが、先日の球技大会の日に優斗が雫を遊園地に誘ったらしい。


 春休みにあいつの気持ちは聞いていたのでたいして驚きはしなかったが、そのあとの優斗よ雫の会話の流れを聞いた時は少しばかり驚かされた。


 二人っきりで出かけようとしていた優斗とは真逆に、雫は俺や楓も含め皆で出かけるものだと思ったらしく、いつの間にか俺と楓、そして綺羅坂を加えた五人で遊園地へ行くこという話になっていたのだ。


 その話を聞いた時は断ろうかとも考えたが、楓はすっかり行く気満々で彼女達に楓を任せておくと何か良からぬことが起きそうなので俺も渋々参加することにした。

 

 そして、その日がいよいよ明日にまで迫っていた。

 ここ数日は、生徒会や後輩くんに関する問題が多くてすっかり忘れていた。


 明日は俺にとっては悩ましい日であるが、やはり楓にとっては楽しみの日であるらしい。

 買い物に行こうという妹の表情は、いつにも増して輝いていた。


「どこに行くんだ?」


 俺は、未だ体を揺らし続ける楓を少し後ろに押し込み体を起こすとそう聞いた。


「隣町に出来たショッピングモールに行きましょう!」


「……あぁ、あれか」


 最近、隣町で大型ショッピングモールが開店したそうで、チラシもよく見かけるし、日頃よく利用させてもらっている商店街でも話はよく耳にしている。

 

 全国でも同様のショッピングモールがいくつも存在する巨大グループで、その影響で客足が激減したとこの間買い物に行ったときに魚屋のおっちゃんが嘆いていた。


 ショッピングモールには、様々な食料品も当然取り揃えてあり、開店セールを大々的に宣伝していたのもあってか駅前商店街はいつもの半分くらいお客が減っているらしい。


 商店街は小さい頃からよく足を運んだ店ばかりで、俺達兄妹はこれまでと変わらず買い物をしているが落ち着くまでは赤字は避けられないだろう。

 

 この前学校帰りに通った時なんて、商店街がガラガラだったからな。

 その光景を見た時は、ついにこの商店街も終わりか……なんて思ってしまったものだ。

 

 と、少し話がずれたが、そのショッピングモールに今日は赴こうというわけだ。

 確かに服を買うなら、そこくらいなもんだろ。


 ハッキリ言って神奈川の中でも田舎に分類される俺達の町には、女子高生向けの服なんてそうそう置いてない。

 あるとすれば、地味な服ばかりでおばちゃんたちが好みそうな店ばかりだ。


 なので、ここら辺に住む若者たちは、少し離れたところまで電車を使い服を買いに行くのが当たり前のようになっていた。

 

 だが、隣町に出来たそのショッピングモールなら嫌というほど洋服を取り揃えているだろう。

 楓が買い物をしたい理由を把握したところで、俺は枕元の目覚まし時計で時刻を確認した。


 現在六時三十分


「……早すぎるだろ」


「早起きは三文の得です!」


 どこかおばあちゃんが言いそうなセリフを言う楓に、内心苦笑いせざるを得ない。

 いつもとは違い高すぎるテンションに、明日に対する自分との温度差を感じる。


 妹のおかげで完全に目が覚めてしまった俺は、しぶしぶベッドから起き上がるとリビングに向かう。

 テーブルの上にはすでに朝食が準備されており、俺がいつもの椅子に座ると楓がすかさずコーヒーを前俺専用のカップに注ぎ、目の前に置く。


 淹れたてのコーヒーを一口に飲み、視線をテレビに映る朝のお天気お姉さんの天気予報に向けると……


『明日は最高のお出かけ日和でしょう!』


「……ふざけるな」


 わずかに期待していた悪天候により中止という展開を、朝一番にお姉さんが見事打ち砕く。

 これからはこのチャンネルの天気予報は信じないことを心に決め、チャンネルを変更する。



「兄さんは服とか買わないんですか?」


 隣に座る楓が、朝食の焼き魚を食べている俺にそう質問をしてくる。

 俺はこんがり焼き目の付いた焼き魚を堪能しながら、ふと買いたい物を考えるが特に思いつかない。


 洋服も特に欲しいわけではないし、出かけるときは基本的に楓にチョイスしてもらっている。

 きっと楓が気に入った服があれば買うだろうし、俺が何か買うというのは少ない。


「……いや買わないな」


 俺がそう答えると「じゃあ良いのが合ったら一緒に買っておきますね」と、楓が答えるのを聞いて俺は再び目の前の魚を頬張る。

 

 日によって変わるが、真良家では和食が出ることが多い。

 兄妹共に和食が好きなのもあるが、母親が昔から和食ばかり作っていたのも理由の一つだろう。


 俺は、焼き魚と共に食卓に置かれた味噌汁を一口すすると「百点」と点数を付ける。

 隣に座る楓が俺の点数を聞き、満足そうに頷いていることから、自分でもうまく作れたと思っていたのだろう。


 そのあとは、俺と楓は特に話をすることもなく朝食を食べ進めていると家の電話から着信音が鳴り響いた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 90点で10点マイナスなのに満足そうに頷くなんてちょっと分からない…w 一般的に見たら高得点だけど、愛する妹の手料理で減点する人はちょっとね
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