#279
新たな一年は、劇的ではなく静かな夜明けで幕を開けた。
久方ぶりの制服に袖を通し、肩には鞄を掛けて玄関へと向かう。
玄関先には、一つの写真立てが飾られている。
母親、そして妹に写真を見せて、気に入ったのか玄関先で毎日瞳に映るようにしましょうと、置かれたのだ。
その写真に視線を向ける。
輝く笑顔を浮かべる少年、そしてその横で彼を横目で眺める少女。
二人の前には三人が並び、両脇の少女たちは手に持つ贈り物を大切そうに握りしめて、カメラに視線を向けていた。
そして、中央に座る少年、当時の俺はこうして振り返って見てみると、やはり表情に硬さは残っていた。
笑みもぎこちなく、だが作り物ではない。
自分の顔だからこそ分かる、純粋な感情表現の下手さ。
毎日、この写真を見て自分に少しだけ恥ずかしいと感じなくてはならないとは。
しかし、写真自体を気に入っているのは俺も同じなので、文句を言うこともなく、現状を受け入れた。
玄関先で外履きに履き替え終わると、一瞬だけ写真を見据えてそんなことを振り返りながら思う。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、ママは湊ちゃんがいないと寂しくて死んでしまうから放課後は早くかえって―――」
年甲斐もなく、恥ずかし気もなく、およよと泣いて見せる仕草を浮かべて見送る母さんの最後の言葉を聞き届けることなく玄関を閉める。
新年の風はいまだに冷たく、首元のマフラーをそっと口元近くまで上げる。
道路まで出ると、すでに見知った顔がこちらを見据えていた。
その数は四人。
彼らを目にして、隠した口元に僅かに微笑がこぼれた。
姿を確認して、嬉しそうに手を振る少女たちの近くへと歩みを進めて思う。
……君たち、家は俺とは反対方向とかだよね?
当然のごとく、登校風景に溶け込んでいる若干名を疑問に思いながらも、こういう場合は突っ込みを入れてはいけないのが、鉄則なのだと思い込む。
……いや、絶対に二度手間だろう。
そんなことを思いながらも、俺は彼らのもとへと歩み寄り、新たな一年で訪れた最初の登校日を過ごすのだった。
最終章 三学期編スタート
と、格好良く言いながらも次話は正月風景の振り返りなのですがね




