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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第三十四話 クリスマスの願い

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#275

クリスマス前の小休憩がてらの話になります。


 桜ノ丘学園の体育館では全校生徒が集まり、視線を壇上に立つ小泉に向けられていた。

 生徒会を代表して全校生徒の前に立つ小泉は、在校生へ冬休みに際しての諸注意を告げる。


『本日で年内の登校は最後となります、年末年始で実家へ帰省する人も多いと思いますが体調を整えて―――』


 十二月二十三日の午前、年内最後の登校日である本日は、終業式が行われていた。

 壇上に立った新生徒会長の小泉は、模範的な立ち振る舞いで語る。


 教員と生徒会が並ぶ体育館の壁際でたたずみ、その姿を見届けると、年内の生徒会役員としての活動が終えたことに一安心の息を零す。

 冬休みはほんのわずかの期間で、年始にはすぐに三学期が始まる。

 

 あっという間に三年生を卒業式で送り出し、そして俺達が三年へと進級する。

 振り返ると時間は早く経過していて、特に高校は部活動に参加しているわけでもなかったので尚更短い期間に感じてしまう。


 一人、人間の体感について考えていると、隣で白石が呟く。


「先輩、ちゃんとクリスマスは雫先輩達のお誘いを受けたんですか?」


「受けた受けた……毎年楽しみのクリスマスチキンをキャンセルして参加だ」


 楓と母さんにクリスマスは宮下の家でパーティーなるものを開催することになったと伝えたら、二人は大層喜んだ。


 ええ、それはもう奇跡でも起きたのかと言わんばかりに驚愕しておりましたよ。

 誰かと遊ぶということに対してではなく、クリスマスに女子とパーティーというフレーズが何よりも意外性を生んだらしい。


 確かに、どこの学内カースト上位のスケジュールだろうかと自分でもカレンダーを見返して思ってしまうくらいには、イレギュラーなイベントである。


 白石に適当に答えると、不服そうに顔をしかめる。


「当日すっぽかしは論外です、人間として」



「……前提として俺がすっぽかしをすると思われていることが心外だ」


 全力で断ることはするが、当日に無断で欠席することは流石の俺もしないぞ……

 一言、喉の調子が悪そうに声を低くして体調が悪いと装うことはするかもしれないが。


 社会人になったらその辺のスキルも向上させておかないといざ面倒で休みたくなった時に通用しない可能性がある。


 これは、欠勤マスターを見つけてでも向上させる必要性まである。

 むしろ、俺が一人でスキルを会得して講師になろうかな。


『これで誰でも会社を休める! 欠勤時の対処方法マル秘テクニック!』的な動画をネットにアップして、大多数からバッシングを受ける未来まで視えた。


 ……やめておこう。

 

 滞りなく式は進行して、最後の最後に学長のありがたいお言葉が三十分以上続き、当初の予定時刻を大幅に超過したトラブルはありながらも、終業式は終えた。


生徒会室へ戻る道中の学内は、拘束から解き放たれたような解放感で溢れていた。

 正午の鐘が鳴り響く中で、この後にファミレスで食事に行く話をする生徒や、二日後に迫ったクリスマスについての最終打ち合わせ、年末年始の予定を互いに情報共有を交わすなど様々だ。

 

 

 中には、チャイムと同時にダッシュで即帰宅する生徒も多く見受けられた。

 何かの発売日なのかな?


 ゲームかな? ゲームでしょ。

 彼らを待つのはゲームの画面とそのアイテムたちであり、学友との時間ではないらしい。


 付き合い方や熱を入れる分野は人それぞれなので、そんな全力ダッシュをする生徒にお願いだから下校時に慌てすぎて交通事故など起こすなよと念を押しながらも生徒会室の扉を開く。

 

 室内にいたのは小泉だけで、俺の姿を見ると笑みを浮かべて迎え入れる。


「お疲れ様、生徒会長としての振る舞いは出来ていたかな?」


「大丈夫だろ……俺なら最初の一文目で噛んでいたところだ」


 きっと、彼の言葉と立ち振る舞いを見て会長にふさわしくないと思う生徒は一人もいないだろう。

 心配など不要なのだが、全校生徒の前で終業式の壇上を経験したことが初めてだからだろう、心配そうに声を漏らす。


 小泉が一人で整理していた書類の一部を引き受け、各々のファイルにしまい込む作業を黙々と手伝う最中、小泉が言った。


「クリスマスは大丈夫そう?」


「皆心配しすぎだろ……」


 ごめんなさいね、心配されるような人で。

 思わず苦笑が零れて本音を零すが、小泉も同様に苦笑を浮かべる。


「この間は思わぬ飛び火を受けたけどね」


「結局、三浦は大丈夫だったのか」


「うん、まあ当日は打ち合わせが入ったから他の人からのお誘いは断ったんだ。年始に学内を使用できれば炊き出しで新年のお祝いをしようかと計画していて、その打ち合わせをしようと彼女に提案したら機嫌が直ったみたい」


「……」


 小泉が苦笑を浮かべながら言う。


 なにそれ、そんな計画初めて聞いたのだが。

 もしかして、年始から休日出勤ですか?


 おいおい、どこのブラック企業だこの生徒会は。

 それに、三浦も三浦だ。

 俺が言うのもお門違いだろうが、クリスマスに生徒会の打ち合わせで妥協してしまうもはよろしいのだろうか。


 あれか、他の女子のところに行かないのであれば問題ない的な。

 むしろ、クリスマスを共にできる時点で彼女からすれば上々なのか。


 その辺は、白石に適当に話を吹っかけて女子トークに持ち込んでもらえば簡単に知ることが出来そうなので俺から小泉や三浦に口を突っ込むのは辞めておこう。


 

「二学期もあっという間に終わっちゃったね……三学期には茜先輩も卒業か……」


 少し、寂しそうな表情を浮かべて小さく呟いた小泉に俺は首を横に振る。


「しんみりするのはまだ先だ……心配して学園を去られないように努力するしかないだろ」


 それが後輩の務めであり、世話になったせめてもの礼なのかもしれない。


 気が付けば二人で作業を進めていた書類整理は終了しており、他の生徒が来る前に今日やるべきことは片付いてしまった。

 俺が整理していた分のファイルを小泉に手渡すと、俺は彼に残りの仕事がないかを問う。


 しかし、小泉は首を横に振り年内に残された仕事はないことを告げる。

 ……なら、帰りますか。


 雫と綺羅坂に作業が終えたことを連絡してみて、どうせ昼食を食べに行きましょうとか言われるのだろう。

 楓に昼は不要と連絡を入れていると、言い忘れていたことを思い出し小泉に視線を向ける。


「じゃあ、年始の活動が確定したら連絡してくれ」


「うん、必ず連絡するよ、真良君もよいお年を迎えられるように頑張ってね」


「あぁ……よいお年を」


 頑張っての言葉に、クリスマスが含まれていることは分かり切っていた。

 君には年末年始の前に、まだ重要なものが残っている、そう言われている気がした。


 しかし、言葉にせずに曖昧な表現で言葉を交わすと、俺は苦笑を浮かべながら返事を返す。


 荷物を肩にかけ、振り返り小泉に別れの言葉を告げる。

 次に会うときは新年を迎えた時になるだろう。


 最後に、生徒会室を一瞥してから、俺は年内最後の活動を終えて帰路に就くのだった。

 


次回、クリスマス当日!

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