#251
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中学と高校に入学したばかりの頃は、似たような頼みを告げられたことがある。
単純に、仲介役として声を掛けられることもあれば、俺達の交友関係を知っていた上で一言彼らに自分のアピールポイントなどを事前に伝えてもらいたいなど。
すぐに思い浮かぶような内容の頼みなら、十は軽く超えている。
だが、頼む時点で脈などないのだ。
自分で自己アピールが出来ない人間に、彼らは惹かれることはない。
引く手数多の相手に好意的に思われたい、関わりたいと本気で願うなら、自ら行動しなくては意味がない。
でも、それでも頼むのだ。
告白という人生でも大きな舞台で、成功の確率を上げるためには視野が狭まり方法が単純化される。
むしろ、悪い印象を与えてしまうのではないだろうかと、俺には思えてならない。
宮下彩に心境を告げられた際に、これまでの生徒達と同じなのか、そう思った。
「なんで俺に頼むんだ……」
この手の状況になった時、いつも聞く質問を投げかける。
仮にも相手は真面目な頼みを告げているのだ、理由も聞かずに無碍には出来まい。
宮下は予想していた返答とは違う回答を口にする。
「荻原君の友達は真良君だけだと思ったから」
「……」
何を血迷ったことを言っているのだろうか。
荻原優斗のフレンド欄は、既に上限を超えてインフレすら起こしていると巷では有名なはずだ。
少々……いや、かなり危ぶんだ瞳をしていたのだろう。
宮下は補足するように言葉を紡ぐ。
「いや、悪い意味とかじゃなくて……本当に仲が良いのは二人くらいだなって」
「いやいやいや……」
周囲からは、そんな風に見られていると思うとなんだか仲良すぎる二人組みたいで気持ち悪いまである。
首を横に振って否定すると、それを見て宮下は笑いを零す。
少しだけ緩んだ雰囲気も、すぐに引き締まったものへと変わる。
冗談で終わる話ではない。
「俺が手伝ったとしても成功率が高くなるわけじゃない」
「分かってる、ただ二人きりで話ができる状況を作ってもらいたいの」
それなら、俺が手伝う必要性がないだろう。
思って口に出す前に思いとどまる。
浮かんだ情景は、首里城で宮下の意見に聞く耳を持たずに進んでしまった中山の姿だ。
彼女が何かしらの理由を作って二人きりの状況を作ろうとしても、あいつは頷くことはないだろう。
でも、女子生徒に頼らない理由だけは、確認だけはしておかなくてはならない。
「中山達に頼る選択肢だってあるはずだ」
「それこそ頼めないよ、話をすれば仲間に入れてもらえないもの」
重みのある一言は、俺が想像している以上に女子生徒の交友関係の複雑さを滲ませていた。
みんな、憧れの王子様だからみんなで共有しようとでも思っているのだろうか。
手伝う理由も義理もない。
下手に強気に出てこない宮下の姿勢を見るに、断られるのは考慮の上での頼みであるはずだ。
修学旅行に来てまで、ややこしい人間関係に足を踏み入れたくないのが本音だが……
考えて一つだけ感じたものがある。
……雫と優斗の関係性をあるべき姿に清算するきっかけにもなるかもしれない。
理由はどうあれ、俺にも関係している問題だ。
二人は、曖昧な状況のまま平行線で付き合いを続けている。
本人達ではなく、第三者からの介入が必要なのかもしれない。
だが、修学旅行では原則班行動で縛られている。
俺一人、厳密には当の本人である宮下の働きも鑑みても、合計して八人の意思を操って物事を運ぶには些か人手不足だ。
「俺だけじゃ無理だ、もう少し状況を把握している人がいれば班行動でも会話の時間は作れるかもしれないが……」
提案すると、宮下は思案顔を浮かべて黙り込む。
俺の人脈などたかがしれているので、頼れる人など限られている。
宮下もそれは分かっているのだろう、一考したのち頷いた。
「綺羅坂さんには別に話をしても構わない、ただ気になるのは神崎さんと荻原君って……」
「下手な心配する必要はないと思うがな……確証がなければそもそも俺に相談なんてしてこないだろ」
そう言うと、少しだけ口角を上げて宮下は微笑んで見せた。
瞬間、口を滑らし過ぎたと自覚する。
この話の本当の理由でさえ、雫と優斗の付き合っている噂が真実か否かを知っている人物に確認するための理由作りにすら思えてきた。
……思っていたよりしたたかな女生徒だこと。
でも、それくらいに腹黒い人でなければ優斗と付き合うのは難しいのかもしれない。
あのお人好しのフラフラ王子様だ。
引っ張るくらいのほうが見ていて安心する。
首を突っ込む理由作りは出来た。
あとは、本当に俺が関わる必要があるのかどうか。
また、理由を最初に作ってから自分の感情に向き合っていることに気が付いて苦笑が零れる。
それを不思議そうに見つめる宮下に、「なんでもない」と言葉を挟んでから再び思考に更けくれる。
一度、人の恋愛成就の為に協力することは、自分自身が理解できていない何かに気が付くことができるかもしれない。
なら、性分に反しても行動を起こしてみるのも間違いではないのかもしれない。
「……分かった、手伝うよ」
「よかったぁ……ありがとう」
宮下はほっとしたのか、安堵の息を零して強張っていた体を脱力させる。
ろくに会話もしたことのない相手に、意中の相手について話をして、尚且つ相談を持ち掛けるというのは確かに気が張ることだろう。
そんな最中の彼女には悪いが、一言続けざまに言い放った。
「早速だが、最初に一つ提案がある」
「え、もう?」
戸惑い慌てふためく状況の中、最初の一手について話を進めるのだった。
ちょっと短めです




