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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十九話 タイムリミット

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#213

台風、気を付けてください!

ちょっとした時間つぶしになればと更新しました!


総合アクセス900万突破しました!



 桜ノ丘学園最大のイベント、桜祭。

 その実行委員達は、組織の長である白石の指揮の元で桜祭の準備に取り掛かっていた。


 生徒会役員からは小泉が生徒対応に、三浦が経理に周り実行委員会のサポートをしている。

 クラスから二名の実行委員を選出した他に、荻原優斗や神崎雫、綺羅坂怜などの有志での参加している生徒も数名いる中、順調とは言えないが懸命に各々の仕事に努めていた。


 そんな中、俺は何をしているのかというと……


「我が校には吹奏楽部が使用している大ホールがあります、そこで歌や楽器の演奏を披露しては?」


「なら……合同でやる意味はないでしょ」


「桜ノ丘学園の吹奏楽部とコラボというのは?」


「桔梗女学院の吹奏楽部って確か県内でも強豪の部活だったはず……こちらに合わせてレベルの落ちた演奏をしたら、余計にデメリットしかないのでは?」


 絶賛、桔梗学園の提案している合同文化祭についての批判中!

 なんて楽しい生徒会活動なんだ。


 俺に与えられた天職、それは批判家なのかもしれない。

 いや、昨今はネット社会だ、すぐに批判したコメントが晒されて炎上して悪い人間というイメージが定着しかねない。

 うん、これは辞めた方が身の為だろう。


 批判家、辞めます。

 というわけで、三秒ほどで批判家への道を閉ざした俺は、横目でいま俺達がいる教室内を見回す。

 

 前回とは違い、広さは小さいものの机や椅子、それにちょっとしたお菓子や紅茶を作るセットなどを完備した場所……そう生徒指導室を借りて対話を重ねていた。


 あのお菓子類は、職員が食べるものらしいが須藤先生に声を掛けて調達してきた。

 


 相手の生徒会長である瀬良は、出した案がことごとく否定されることに大いに頭を悩ませているようだった。

 別に、悪い案だったわけではない。


 彼女自身が考えて出している案であれば、俺が漠然と感じた否定的な案など、覆すようなアピールポイントなどがあったはずなのだ。

 自分で考えた案ではないから、否定されるとこうも脆い。

 

 俺の隣には雫と綺羅坂が座り、更にその横には会長が座している。

 話し合いが始まってから一時間、会長は最初の挨拶を交わしただけで何も発言はしていない。


 相手が自分達の考えを伝えてこない以上は、こちらも会長を出さない。

 これが俺達の出した対策だ。


 会長が先頭に立って相手の案に対して批判的なことを言うのは簡単だ。

 そして、何よりも効果的だろう。


 しかし、相手にも柊茜が批判しているだけという印象を与えてしまう。

 だからこそ、普通の生徒達でも感じている案に対する問題点を挙げていく方が後々の杞憂を考えれば最善策なのかもしれない。


 隣では雫が相手の出した案についてメモを取っていた。

 そこには、どれも似たり寄ったりの内容が書き記されている。


 あくまで吹奏楽や合唱と、祭りである桜祭とのコラボ企画というわけだ。

 だが、そのコラボの内容、過程に問題がありそうなものばかりで同意できるものがないのが実情だ。


「合同でというのであれば、我が校にも吹奏楽部は存在します。楽器も一通り揃っていますので、それを使い演奏というのは出来ないのでしょうか?」



 雫が静寂に変わる室内で口を開く。

吹奏楽部の生徒達も敷地内で店を構える予定だ。極力、移動するのであれば相手側に頼むのは致し方ない。


 しかし、相手はその提案に首を横に振って否定的な意図を示す。


「使い慣れた楽器でないと満足な演奏は出来ません、それこそ楽器全てを搬入するくらいの勢いでなければ」


「なら、搬入すればいいじゃない」


 瀬良の言葉に、綺羅坂が即答で言葉を投げかける。

 あまりにも即答過ぎて、そして彼女達の予想をしていない発言だったのか、口を開いて少しの間呆けていた。


「楽器の搬入がどれくらい大変なのかお分かりですか!? 数も多く学校のバスでは何度も往復する必要があります」


「なら、移動用のバスと人を集めれば問題ないのよね?私の家の使用人たちやバスを使っても構わないわ」


 淡々と、髪を払いながら告げる綺羅坂はまるで普段通りの様子で言った。

 流石は国内でも有数の大企業のお嬢様。


 それくらいは、楽勝といった感じですね。


 ちなみに、それはどれくらいの費用がかあるのでしょうか?

 割引券などはありますかね?肩もみマッサージ券くらいなら発行可能なのですが。


 当然、荻原優斗という腕利きが施工しますので。

 俺はやらん……ツボとかわからんし。



「……個人的な協力はお断りさせていただきます」


「あら、そう」


 喉の奥から絞り出すように低い声で瀬良は綺羅坂からの提案を断った。

 ここまでくると、何を目的として企画を提案してきているのかが分からない。


 ただ学校の入学希望者を増やすためなら適当にこちらの案も飲み込んで開催してしまえばよかろうに。

 誇示したい何かがあるのだろうか。


 それとも単なるプライドの問題か。

 学歴社会でもある日本では、確かに学校に誇りを持っている人も少なくないのだろう。


 だが、おあいにく俺にはそんな感情を学校に抱いたこともない。

 抱く必要もない。


 結局は人生の通過点に過ぎないのだから、過去を美化しておきたい人のエゴなのではないだろうか。

 


 こんな話し合いが昨日と今日の二日間行われていた。

 期限とされた週末まであと二日。


 日曜は両校の生徒も都合が悪いから土曜までがリミットだ。

 平行線をたどる話し合いに終止符が打たれるのか否か、正直今の段階では難しいだろう。



「桔梗女学院ではどのような合同企画をやりたいのだろうか……いまだに私には鮮明に見えてこない」


 これまで黙り込んでいた会長が、話し合いが終わりそうな雰囲気を醸し出した時に問いかけた。

 漠然的に、吹奏楽部と合唱でコラボしましょう!と言われても、具体案やスケジュール、それに集客効果なども提示してくるわけでもない。


 こちらとしては、既に桜祭に関わる業者との話も済ませてしまっている。

 機材のレンタルから、ステージの設置など。


 それらを今更キャンセルしては、余計な経費を掛けるだけだ。

 開催会場の変更は、どう考えても不可能に近い。


 だからこそ、相手が想像している合同文化祭の想像図が共有できれば、それなりに形として作れるのか、はたまた各校で行いましょうとなるのか明確にできる。


「ですから……我が校の伝統的な―――」


「それは重々理解している……だが、合同というならば伝統の歌や演奏も一企画であって全てではないはずでは?」



 会長の一言で、瀬良は黙り込む。

 彼女を取り巻く生徒会の面々も、自分達の長の姿にただ不安そうに見守るだけだ。


 これだけで、彼女が学内でどのような立場なのかが伺える。

 生徒からの人望もあり信頼される生徒会長なのだろう。


 その生徒会長が押し黙ってしまう状況だからこそ、周りの生徒は何も言えないのだ。

 しかし、俺達も相手をただ言葉で攻め立てたいわけではない。


 正直に言って、合同企画については賛同できないのはいまでも変わらない。

 だが、避けられようのないのなら、それなりの妥協点を見つけなければならない。


 大人たちが考えた通りの都合の良い文化祭にはしたくない。

 これは生徒達の祭りなのだ。


 だからこそ、互いが理想とする文化祭の図を共有して案を練りたいのだが、それが出来ていない。


「今日はここまでにしよう……明日も放課後でいいかな?」


「はい、こちらでも案を再検討してまいります」


 瀬良と会長が最後の言葉を交わして本日の会議は終了となった。

 生徒指導室を出て、会長が見送りのために桔梗女学院の生徒達を離れていくのを見送りながら、綺羅坂が呟く。


「伝統、誇り、そんな言葉しか出てこなかったわね」


「……これまでが伝統行事だったんだ、合同で何をやればいいのか彼女たち自身が考えられてないんだろ」


 姿が完全に見えなくなってから、身を翻して答えた。

 向かう方向は視聴覚室だ。


 今まさに、実行委員会が桜祭についての話し合いを行っている。

 

「でも、綺羅坂さんからの提案も断るのはなぜでしょうか?」


「それは知らん……出来ない理由があるのか、それとも学校側からの何かしらの指示があるのか……」


 合同というには、自分達の学校の色、特色を出したいという欲が強すぎる気がする。

 やはり、お祭りで集客率の高い桜祭を使って自分達の高校についての宣伝をしたいのが見え透いている気がするのだが……



 学校も言ってしまえば組織の一つだ。 

 上から指示があり、末端がそれをこなす。


 上が欲を出せば、下も当然欲の出た行動をしなくてはならない。

 相手に見透かされないようにするのが当然なのだが、高校生同士で話し合いをするのなら、それは難しい。


 十数年しか生きていない若者には、交渉は荷が重かろう。

 桜ノ丘学園が生徒主体で自由な校風であることに合わせて、相手も生徒会を出してきたのだろうけれど、それがあだとなっている。


 面倒だ、そう思いながら嘆息をついて視聴覚室の扉を開く。


「あ、先輩!」


 開いた瞬間、待っていたと言わんばかりの声が教室内を響き渡る。

 声を上げたのは白石だ。


 手に持っていた書類を目の前の男子生徒の投げ渡すようにして、こちらに駆け寄る。

 俺の隣の女子生徒二名が、彼女の前に壁となって立ちはだかろうとしているのを押さえて要件を問うた。


「何……」


「ある団体が予算を超えてしまうのを許可してほしいって言ってきて」


 やはり問題事か……

 溜息を零して一度視線を下に落とす。


 白石の後方から足音が近づいてきていたので視線を戻すと、優斗が後ろで苦笑を浮かべていた。


「お前でも説得できなかったのか?」


「いや、あれは特殊というか……」


 学園の王子様、コミュニケーション能力の塊、陽キャの権化とも言われた荻原優斗でも説得が出来ないとは情けない!

 なんて、思いながらも白石が持っていた用紙を手に取る。


 そこにはどこの団体が予算の申請を出しているのかを書かれた紙があった。


 団体名は……


「野球部がコスプレ試合をどうしても行いたいって!」


「却下だ」


 アホか……

 こんなところで面倒事を増やすな。


 思わず申請書を真横に切り裂いてしまったが……大丈夫だよね?

 

書店アプリまいどく版の平凡な俺と非凡な彼らもよろしくねー

いつもブックマーク、評価、ご感想ありがとうございます。

総合アクセス900万突破、ありがとうございます!

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