表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十七話 運動と労働

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/355

#202

体育祭です。

桜祭の主は文化祭になるので、番外編の続きくらいで見ていただけると幸いです。



 食欲の秋、スポーツの秋、そして体育祭の秋!

 昨今は、地球温暖化だとかで夏場の気温が半端じゃないことになっている。


 学校側も生徒の体調面を配慮して、体育祭が年々遅い時期に移り少しでも涼しく適切な環境で行事が行われるようになってきている。

 いや、本当に助かるわ。



 真夏の炎天下の中、学生達のむさ苦しい中に半強制的に巻き込まれて、なおかつ生徒会としての活動も行わなければならない。

 本当、秋とか最高だわ。


 むしろ春でも可。というか、体育祭とか希望制でもいいのではと思い始めた今日この頃。

 桜ノ丘学園では、毎年恒例の桜祭第一弾の体育祭が絶賛開催中だった。


 グラウンドでは、赤、青、黄色、緑、紫の鉢巻を額や首などにぶら下げている生徒達で埋め尽くされている。

 グラウンド外では、保護者や参観者で埋め尽くされていた。


 地元自体に高校が二校しかなく、開放的なのは桜ノ丘学園だけということもあり、地域のおじいちゃんおばあちゃんや、商店街のおっちゃん達然り、様々な人が訪れている。

 俺も知り合いに何度か話しかけられたが、決まってからかわれるような微笑を向けられた。


 分かる、分かるよ。

 俺がせっせと働いている姿を見るなんて初めてだろうし、いつもグダグダな姿だからギャップが凄いのだろう。


 魚屋のおっちゃんなんて「熱でもあるのか?」と言って豪快に吹き出していたからな……

 絶対、仕返しとばかりに今度あの人の真向かいにある魚屋で購入してやろう。 

 

 

 そんなわけで、現在は体育祭の中でも全体競技である100メートル走が行われていた。

 一年生の男子から女子、そして二年生の男女、最後に三年生の順である。


 一年生は既に走り終わり、今は二年生の順番だ。

 男子生徒が真剣な表情でスタートの合図を待ち、そしてゴールまで駆け抜ける。


 普段、全く活躍の場がなかった生徒でも足が速いだけで今日は人気者だ。

 状況が、雰囲気が生徒達の心を弾ませて、声援が飛び交う。


 もうそろそろ、学園のプリンスである優斗の番がくる。

 女子たちの期待は高まり、いまかと心待ちにしているようだった。


「……何事もなかったかのように平然と並んでいますが、先輩は足早くないんですね」


「言うな……」


 生徒会の手伝いとして、三位の生徒が並ぶ列の旗を持っていた白石が声を掛けてくる。


 湊君はどうなったのか……?

 もう走り終わって、順位も三番の場所に並んでいた。

 三番なら早いではないか、そう思うかもしれない。


 ただ、五人のうち三番。

 全員が運動部なわけではなく、条件も平等性などなく出席番号だけで相手を決められている状況で三位。


 まあ、早くもなく遅くもないというのが周りから見た客観的な評価だろう。

 白石はその点お世辞がないので、嫌な点を正確に指摘してくる。


 視線を合わせることなく、乱れた息を整えながら後続の生徒達の姿を眺める。

 終わっているから言えるが、表情で彼らの心境は大いに想像が出来る。


 余裕に満ちているのも、険しいもの、緊張のし過ぎでソワソワしているもの、誰かに手を振っているもの。


 おい、最後のは完全に彼女に手を振っているパターンだな。

 周りの男子生徒から憎しみに満ちた視線が向けられているぞ。


 あいつは完全に相手を本気にさせたな……

 そんなことを考えながら見ていると、声援が数段増しで学園内に響く。


「来たな」


「まあ、荻原先輩ですからね」


 俺達三組の次の走者は優斗だ。

 隣の生徒は確か陸上部の生徒だったはずだが、これは勝敗は決まっている。


 女子生徒がグラウンドのギリギリのラインまで応援のために近寄り、優斗もギリギリまで生徒達に手を振っていた。

 何、君どこかのアイドルですか?


 生徒全員が準備を整えたところで、スタートの音が鳴り響く。


 流石は陸上部、抜群のスタートダッシュを決められたはずなのだが、隣では同様に陸上部顔負けのスタートをする優斗がグングンと生徒達との差を広げて走る。

 陽の光で輝く茶色の髪の毛、そして汗、それに普段とは違う真面目な表情で断トツの一位で優斗は駆け抜ける。


「……」


「……」


 ゴールをして生徒達から賞賛の言葉をかけられる優斗に対して、俺と白石は無言でその光景を眺めていた。

 まあ、分かるよ。


 凄いよね、確か生徒会選挙の時にも訪問したので分かるが、陸上部の生徒は短距離だった気がする。

 そんな生徒よりも早くゴールしたのだから、それは確かに凄いのだが……


「あの人が凄いことしても、なんか感動できないですね」


「分かってきたか後輩……これがあと一年は続くと思え」


 入学して約半年で中々センスがあるそうだ。

 白石はすでに遠い目をして優斗達を眺めているが、これが当然だというのは今のうちに知っておくと心が傷つくことがないぞ。


 男子生徒の目玉が終わったのか、急に女子生徒達は自分達の席に戻っていく。

 次の走者達以降が複雑な表情を浮かべているのは気のせいではない。


 露骨にやる気が無くなった生徒達は、次々と走っていき二年生の女子の番になった。

 白石と変わるように今度は俺が旗持ち係を務め、俺は一番の旗を持って待機していた。



 順々に生徒達が走る中、一位の生徒の確認を俺がして後ろにいる実行委員の生徒が点数付けのために名簿に順位を記入してから女子生徒は去っていく。

 この繰り返しをしている間に、今度は男子生徒の熱狂的な声援が上がる。


 無論、その理由は分かっている。

 次は雫が走り、そのすぐ後に綺羅坂が走るからだろう。


 一位の女子生徒への対応を終わらせて視線をスタート地点に向けると、雫が男子生徒に恥ずかしそうに手を振っていた。

 そして、スタートの前に俺が立つゴールに向けて胸元で小さく手を振る。


 それに軽く手を挙げて答えると、微笑んでいた表情が真剣なものに変わる。

 勝負には手を抜かない、良いことだと思います。



 まあ、語る必要もなく一位だった雫は誇らしげに胸を張って俺の前に立ち止まる。


「どうでしょうか!」


「まあ、そうだろうなとは思ってたけどな」


 同じ順番だった生徒が可哀そうなくらいに予想通りだった。

 女子生徒の中には本気で走ることをダサいと捉える生徒も少なくないが、彼女に関しては一切の手加減なく男子生徒顔負けの速度で駆け抜けていたからな。

 


 初めての全力疾走を目にした一年生とか、目を見開いて唖然としてるぞ。

 まあ、後輩からすればうふふって言いながら可愛らしく走る姿を想像していたのかもしれない。


 想像することは悪くはないが、それを相手に対して求めてはいけない。

 

 傍から見れば、あからさまに手を抜いている人よりも、むしろ彼女のように真剣に取り組んでいる方が好感を持たれる。



 そんな視線を向けられたくないのであれば、俺のようなサボリストにならないと難しいだろうがな。


 雫達には気が付かれるだろうが、周りには気が付かれない自信がある。

 流石俺、サボりに関しては一級品だ。


 体育祭の種目で上げるなら、綱引きとか玉入れとか得意。

 全力で引いている雰囲気出して適度に力抜いているし、玉投げるのも狙いを定めず適当に投げているまである。


「湊君が見ている以上、恥ずかしい姿は見せられません」


 息を切らすことなく、当然というように佇む雫に苦笑を浮かべる。

 褒めてもらいたいのだろうか、その後もじっと視線を向けてくる雫から目を逸らす。


 周りの目があるところで褒めるとか、俺にはハードルが高すぎる。

 ちょうど、次の走者の綺羅坂が準備しているので、それを理由に雫に言った。


「ほれ……綺羅坂だ」


「……どうせ一位ですよ」


 まるで興味無さそうな表情へと変わり、俺と同じスタートラインに目を向ける。

 綺羅坂と争う生徒達は、何人か運動部がいるみたいだが十中八九綺羅坂が勝つだろう。


 主に男子生徒からの熱い声援があるが、完全な無視で反応すら示さずに合図を待っていた。

 教員が手を挙げて、大きな炸裂音が鳴り響くと誰よりも早く綺羅坂がスタートする。


 反射神経と本来の高い運動神経から他の追随を許さずゴール付近では軽く流してゴールテープを切った。


「……」


「何か言えよ……」


 綺羅坂は何も言わずに目の前で佇む。

 雫にように自信満々で来られるのも困るのだが、綺羅坂のように無言で目の前に立たれるのも非常に困るのだが……


 自慢したいのか、それとも褒められたいのか。

 表情から心境を読み取るのが難しい彼女だけに、無言が続く。


「はいはい、凄いのは分かりましたから……期待するだけ無駄ですよ」


 後ろから雫が綺羅坂の背を押して旗の前からどかすと、二人して冷たい視線を向けてくる。

 俺が悪いみたいな目が、背中に突き刺さるのを感じて思わずため息を零す。


「……凄いよ、おめでと」


 小さく、そう呟くと前に視線を戻して次の生徒が来るのを待つ。

 後ろで彼女達がどんな表情をしているのか、それは分からないが少なくとも冷めた視線は向けられることはないだろう。





 イベントの競技は進み、三年生も会長が圧倒的な一位を獲得したことで次へと進行していく。

 ムカデ競争や障害物競走などが進む工程を、生徒会用のテントの下で眺めていると、今回も当然のように自分達の席を用意していた雫が口を開く。


「楓ちゃんも来れたらよかったのに」


 そう呟いた一言に、正反対の位置にある女子高にいるはずの妹の姿を思い浮かべる。

 

 今日は週末の土曜日だが、桜ノ丘学園だけでなく楓の通う女子高校でも同じく体育祭が行われていた。

 だから、この場には楓の姿は無い。


 親父と母さんも海外から休みを取って帰国しているが、楓のほうへ行ってもらっている。

 娘の高校で初めての体育祭だ、優先度は妹にある。


 というか、優先度云々ではなく楓のほうに行ってもらいたい。

 俺の方とか、来たところで不甲斐ない姿を見せるだけだ。


 そんなことで、親の目がないので周りよりかは楽なモチベーションで挑んでいるからこそ、こうして適度な力加減で取り組んでいる。


「兄貴のふがいない姿を見せなくて安心してるよ……まあ、俺はお前らが面倒なことに巻き込まれていないことに安堵しているがな」


 現在、目の前の種目が進行しているのに雫もその後ろに綺羅坂も座っているのでお分かりかもしれないが、彼女達は自分達の希望通りに種目は限定して行う運びとなった。

 クラスメイト達の心境の変化もあるかもしれないが、優斗が代わりに多くの種目を兼任すると言ったのが大きい。


 結局、生徒からすれば勝てれば問題はないので、優斗もそれを踏まえて提案したのだろう。

 優しきかな荻原優斗。


 生徒会役員選挙で負けてから、何かと周りへの配慮を気にしている優斗は少しは変化があるようだ。

 ただ、俺達との付き合いに関してはまだ距離感を掴めていないのか、少し控えめなところはある。



 そんな中、生徒会としても色々と雑務をこなしている中、三浦の声でアナウンスが響く。


『次は借り物競争です、参加予定の生徒は所定の位置まで移動をお願いします』


 「あら、もう時間なの?」


 俺の席の後ろで、今日も変わらず本に夢中の綺羅坂は、しおりを挟むと無言で本を差し出す。

 そして立ち上がると、何も言わずに移動を開始した。


「……何これ?」


「これは……」


 綺羅坂が読みかけの本を受け取ったが、その表紙に目を向けるがそこで言葉が止まる。

 隣の雫も同様に、言葉が止まり表紙に釘付けになっていた。


 ”男を支配する方法”


 ……。

 怖い、あの子はついに精神的にも支配する側の人間へと変貌しようとしているのだろうか。

 

 遠ざかる背を雫と共に恐怖の目を向けて見送ることしかできなかった。



体育祭編はかるーく短く必要な内容だけは必須で書いていこうと思います。

文化祭に必要な会話はあります!


ブックマーク、評価などいつもありがとうございます。

書店アプリ「まいどく」で平凡な俺と非凡な彼ら配信中!

よかったら見てねー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ