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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
番外編 平穏な記憶

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女子トーク

注意、湊君出てきません!

今回は女子の会話を主に書かせていただきました!



 とある休日、真良家のリビングにはまるでこの家にいることが当たり前のように居座る女性たちの姿があった。

 神崎雫と綺羅坂怜、白石紅葉の三名だ。


 キッチンでは楓が三人にコーヒーを淹れていて、湊は自室で昼寝をしていた。

 談笑とはいかないものの、殺伐とした雰囲気でもなく、普通の会話が広がっていた。


「お二人は休日はいつもこちらへ?」


 白石の問いかけに、二人は無言で視線を交わす。

 まあ、最近……特に夏休みに入ってからは用事が無い日はこうして湊の家に入り浸っている二人だが、それを改めて指摘されると言葉にするには少々恥ずかしい。


 どちらかが答えるのを待つように、二人の無言が続いている最中、答えはキッチンから飛んできた。


「そうです、基本的にはいらしてますね」


 お盆の上に四つのコーヒーカップと、おそらく兄の湊用と思われる冷えたココアが載っていた。

 一つ一つ、丁寧に三人の前に置いてから廊下に出て兄の部屋に向かう楓の姿に、白石は改めて出来た妹だと再認識した。


 兄があれで、妹がこれとは。

 逆に、兄のアンバランスを妹で補っているようにも見えた。


 そんな楓の背を眺めながら、白石は再度目の前に座る先輩二人に目を向ける。

 

「特に予定もありませんから、それに湊君のお世話を楓ちゃん一人にお任せするのも大変でしょうから」


「母親か……」


 完全にお世話する立場の人間のような発言に、小さくツッコミを入れる。

 隣の綺羅坂に今度は視線を移動させると、彼女は堂々とした態度で言った。


「私が休日をどこで過ごそうと勝手でしょ、ここが落ち着くの」


 優雅に淹れたてのコーヒーを堪能する姿には、さすがに白石でも言葉すら出ない。

 廊下から兄に声を掛ける楓の声だけがリビングに響き、無言の空間が広がる。


 本当に、おかしな人たちだ。

 白石はそう思いながら、目の前のコーヒーをチビチビと喉に流し込む。


 普段からコーヒーを飲むわけではないので、違いなどたいして分かるはずもないが楓の淹れたものは美味しいのは間違いない。

 


 状況的に、現在は桜ノ丘学園女性生徒三人のみ。

 タイミング的にも、ここしかないという場面で白石は二人に踏み込んだ問いを投げかけた。


「なんでお二人は真良先輩を好きなのですか?」


「……」

「……」


 純粋な疑問。

 神崎雫と綺羅坂怜の両名が優秀な生徒であることは疑いようがない。

 それに引き換え、真良湊は優れているかと問われれば、素直に頷くのは難しい。


 彼の世間的な評価は可もなく不可もなくだ。

 だが、白石は少なからず真良湊という人間に関わってきた。


 だから、彼に周りのような外見的な評価を付けるつもりは毛頭ない。


 でも、それでもこの二人が同じ相手を気に入る状況は不思議でしょうがなかった。

 神崎雫は幼馴染だ。


 だから、昔から親しくしていたからこそ惹かれた……分からなくはない。


 綺羅坂怜は恵まれた才能と環境であるがゆえに特別扱いをされてきた。

 ただ、唯一真良湊だけは彼女を特別な扱いや態度をすることなく一人の人間として接してくれた……まあ、分からなくはない。



 どれも、確かに惹かれる要因としては十分な要素ではあるのだが、それが真良湊であることが純粋に疑問なのだ。

 彼女達が惹かれた要因を上書きしていまうくらいに、彼にはマイナスな部分も多い。


 生活態度や習慣、人間関係、それに彼自身のやる気というか活力と表現すればいいのだろうか。

 それを感じない。


 確かに一度は惹かれる相手だったのかもしれないが、彼女達がここまで固執する理由がなんなのか、それが白石には分からないのだ。


「白石さんは今まで好きな男性はいましたか?」


 微笑んでそう訊ねてきた雫に対して、白石は一瞬の間を置いてから答えた。


「まあ、良いなって思う人は何人か……」


 過去の記憶からそう答えると、雫は次に苦笑を浮かべた。

 それが白石に対してではなく、自分自身に対してであることは聞かずとも分かってしまった。


「私は湊君だけです……初めて異性と知り合ったのも湊君が最初です」


「幼馴染ですもんね……」


 それなら当然知り合ったのが最初であることに疑問は抱かない。

 そう思いながら呟いた言葉に、雫は首を横に振った。


「いいえ、そういう意味ではなくて、湊君が初めてだったんです。私の手を嫌だと言いながらも拒むことなく掴んでいてくれたのは」


 彼女が向けた視線の先には、真良家の写真が数多く飾られている場所があった。

 その中に、幼少の頃の雫と湊の姿もあった。


 満面の笑みを浮かべ湊の腕に抱き着く雫に対して、カメラから目線を逸らして嫌そうにしている湊。

 何年たっても、あの先輩は変わってないんだなと白石は思ってしまった。


「湊君のように例えるなら言葉を交わしたから、一緒の場で遊んだから知り合いというわけではない……なんて言うと思います。だから、幼馴染みという関係だからではなく、初めて私を認めて手を取ってくれた人だからというのが本音でしょうか」


 言い終わると、頬を赤く染めて恥ずかしそうにする雫の姿に、隣の綺羅坂が溜息を零す。


「それだと説明が不十分なのではないかしら?」


「なら、あとはあなたが補填してくださいよ……二人に聞かれているんですから」


 綺羅坂の言葉に、雫は不満そうに顔をしかめる。

 やれやれといった様子で、肩を落としてから綺羅坂は目を細めて考える。


 思案顔すら美麗で羨ましく感じてしまう白石をよそに、綺羅坂は自分の言葉を紡いだ。


「私達が周りから自分達とは違う存在だと思われているように、彼も私達から見れば違う人間なのよ」


 意外な一言だった。

 淡々と、気にする様子もなく告げた綺羅坂の言葉を静かに白石は聞く。


「どの色にも染まらず、馴染まず、一定の距離を保ったまま常に傍観者である……本当の意味で孤独なのは彼なのかもしれない」


 そう語る綺羅坂の瞳からは、何か悲しい感情が伝わって来る。

 白石も、綺羅坂の言葉には少なからず通じるものがあった。


 あの人はこの時代において、学生という存在の中では別の意味で異質な存在だ。

 皆が前を向くのに対して、簡単に反対に背を向けることが出来る。


 それは孤独を好むとか、思春期だからこその反発心などではなく、彼本来の人間性なのだろう。

 真良湊は集団に馴染もうと思えば可能なのだ。


 可もなく不可もなく、それは言い換えればどんな場所にも適応可能な人材であるという事でもある。

 周りから疎まれることなく、そして蔑まれることなく中間の位置を歩むことが出来る。

 

 それを、真良湊はしない。彼の人間性がそれを拒む。


「湊君は本当は優しい人なんです……それを周りに気が付かれないように、気づけないようにしてしまっている」


 雫も同様に、表情では微笑んでいるが瞳の奥には悲しさがにじみ出ていた。

 本当は、真良湊のことを誰よりも評価していて、それを周りが認めることを心から望んでいるのが彼を最も近くで見てきた彼女なのだ。


「私達は周りが思うような完璧な人間でも何でもない……それを誰よりも理解してくれているからこそ真良湊という人に惹かれるのかしらね?」


 最後に疑問符が付く様な言葉を白石に言った綺羅坂は、カップに残ったコーヒーを流し込む。

 綺羅坂の隣では雫が相も変らぬ表情で、付け足すように言った。


「実際のところ、私達も人に理解してもらえるような言葉が思いつかないのが本音ですから……参考程度のつもりで受け取ってください」


 雫の言葉を最後に、白石から発せられた女子会的なトークは終了を迎えた。

 訪れたのは何とも言い難い気まずい雰囲気だった。


 それを打ち消すように耳に届いたのは、楓が湊の部屋からリビングに戻る小走りの足音だった。

 お盆を脇に抱えて戻ってきた楓は、既に中身が無くなってしまっていたカップを見て焦りながらキッチンへと戻る。


「すみません、もう飲み終わってしまっていましたか」


「いえ、気にしないでいいわ。私達が少し話し過ぎていただけだから」


 綺羅坂が今日初めて見せた微笑に楓も笑みを浮かべておかわりを注ぐ。

 

「そういえば湊君はどうでしたか?」


 雫がふと楓に聞いた。

 自室で今もなお出てくる様子のない湊が気になり聞いたのだが、楓の口から出たのは彼女達が思わず顔を暗くする言葉だった。


「いえ……何故だか兄さんは「白石もいるしあいつらのことだからキャラにもない言葉で青春してそうだから部屋から出ない」って……」


 楓から出た湊の代弁を聞くや否や、雫と綺羅坂は腰を上げる。

 表情は暗く、拳は強く握られている。


 その先輩二人の姿に、恐怖すら感じる後輩二人は黙ってその先の光景を眺めていた。


 早足でリビングから出て、湊のいる部屋に声を掛けずに入り込む。

 閉じられたドアの先から最初は文句のような言葉が聞こえ、その先は絶叫が響く。


 ガタガタと体を震わせてその光景を眺めていた白石は、この先輩たちは怒らせてはいけないと痛感させられたのだった。



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