表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
番外編 平穏な記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

214/355

兄妹の時間

本編前の番外編です。

時系列的にはお見合い編の後らへんになります。

ちょっとした息抜き的にお読みいただければ幸いです!


 時代の変化を観察するのであれば、高校生と大学生に着眼して考えるといい。

 これは個人的な見解であるが、あながち間違ってはいないはずだ。


 義務教育から離れ、一番の多感な年代である高校生と時間と金銭面的に余裕も多い大学生は時代の流行に敏感だ。

 最近ではタピオカとかが爆発的な人気を獲得していたはずだ。


 ちなみに湊君的流行はコンビニに売っている駄菓子のラムネだったりする。

 手が汚れないことに加えて、ちまちま食べられるのが本を読んだりしている時に意外と相性がいいことに最近気が付いた。

 

 そんな不要な話は頭の隅に追いやり、論点を戻す。

 

 男子よりかは女子のほうが目に見えて変化があるが、流行というのは学生にとって重要な役割を担う。

 会話に始まり、交友の輪を広がるきっかけにもなる。


 そもそも、話題性についていけない時点で現代の学生間でのコミュニティーは成立しないまである。

 ……少し過大に言い過ぎた感があるが、それでも重要であることに変わりはない。


 俺のような流行に逆流する勢いで外にアンテナを張っていない人間にはたいして問題はないが、雫も優斗もそれなりに情報は仕入れているらしい。

 ファッションや食べ物、それにテレビ番組や雑誌……


 例を挙げればきりがないが、彼らも人間関係を円滑に運ぶ努力をしているのだとか。

 綺羅坂も食べ物とかにはたいして興味はないが、洋服などの身に着けるものはチェックしているらしい。


 正直、意外だと思ってしまったのは内緒だ。

 つまり、学生としてそれなりの交友関係を築いて学校生活を過ごしていきたいのであれば、情報は日々更新しなくてはならない……と、それなりに考えた今日この頃。


 昼休みを屋上で過ごしていた時に彼女達に向けて言った。



「パンケーキ屋に行ってみたい」


 別段、変な発言をしたつもりはない。

 だが、雫と綺羅坂は瞳をこれでもかとばかりに見開いて、こちらを凝視した。


「……」


 雫が無言で弁当を置くと、右手を自分の額に当て、反対の左手を俺の額に当てて体温を測る。

 毎回思うが、この計測方法で本当に熱があると分かるのだろうかと疑問に思ってしまう。


 まあ、熱があるわけでも何か突発的な欲求があっての提案ではないのだが……

 

「変ですね……熱も平熱みたいですし朝食も普通に食べていましたから」


「変じゃないから……」


「私の家でお世話になっている医者に連絡を入れるわ、大丈夫腕は確かだから」


「いや、病気でもないから……」


 冷静な表情な二人だが、行動には焦りに似たものを感じた。 

 何、俺がパンケーキって単語を口に出したのはそんなに珍しいことなのか。


 パンケーキパニックですか。

 一人嫌くらいに二人を眺めていた俺は、内心でそんなことを呟いていた。



 二人が精神的にも冷静になって、熱でもおかしな病気を発病したわけでもないことを理解してもらえてから、話を再開する。

 

「近くにパンケーキ屋が出来たんだろ?」


「湊君がそんな情報を知っているなんて、やっぱり熱ですね」


「間違いないわ完全に高熱ね、早急に対応したほうが良さそうだわ」


 ……俺も地元くらいは目を向けるよ?

 それに、これは今朝優斗が俺達と登校している時に話をしていたから知っているんだが……君達一緒にいたよね?


 俺が今朝見た彼女達がドッペルゲンガーなのではないかと逆に不安が込み上げてくるが、仕方がないので二人にも情報を仕入れた経緯を話す。


「今朝優斗が言ってただろ……」


「あれ?そうでしたか?」


「……」


 雫は記憶を遡るように顎に手を当てて、綺羅坂にいたっては思い出す行為すら放棄していた。

 徹底して優斗に関しては興味ないのね、君は。


 結果、二人とも話を聞いていなかったという結論になったが、ともかく優斗が話をしていた店に興味が湧いたのが今回の話の本筋だ。

 少し遅めではあるが、テレビでパンケーキってものは見ていて興味はあった。


 だが、本音で言おう……ホットケーキとパンケーキとは何が違うのだろうか。

 二人なら知っていそうだが、知らないことを言ったら綺羅坂辺りにからかわれそうだからやめておこう。


 

 優斗から受け取っていた店のチラシを取り出し雫に見せてみるが、彼女は首を横に振って知らないと呟いた。

 ブームが完全に去ったわけではないが、それなりに時間が経過してのオープンだったからか雫もまだ訪れていないという。


 終わった……俺の狭い交友関係で女子力ナンバーワンの戦闘力を誇る雫も未踏の地なら、俺にはレベルが高すぎる。

 

「今日の放課後行ってみますか?」


「……優斗は行ったらしいから、あいつも誘ってみるか」


「私、目立つのは嫌なのだけれど」


 雫の誘いに頷いて答えると、二人に提案するが綺羅坂が即否定的な意見を述べた。

 確かに、この手の店は基本的に女性が多いはずだ。


 そんな場所にあいつを連れていくのは騒動の問題になることは容易に予想が出来た。


 それなりに来店していればいいのだが、初めて行くのであれば他に気を遣うのは避けたい。

 優斗には申し訳ないが、今回は同行リストから除外して話を進めることにした。


「おすすめとか聞いてみたかったんだがな」


「店員に聞けばいいじゃない」


「……結構この手の店って、店員のおすすめと実際に食べた人のおすすめは違うだろ」


 今回は失敗しないおすすめを知らなければならない。

 だから、初めては店員の質疑応答マニュアル的なおすすめ……などではなく実際に食べた人の感想を踏まえてのおすすめを知りたかったのだが諦めるほかない。


 とりあえず、放課後に店に立ち寄ってみることは決まったので、昼休み終了の鐘が鳴る前に荷物を持って腰を上げた。


「あ……」


 俺が立ち上がり、続いて雫が制服の皺を直していると思いついたように声を零す。

 

「あの人なら知っていそうですね」


 その言葉に、俺は誰なのか予想が出てこなかったが綺羅坂が少しだけ嫌そうな表情を浮かべたのだけは視線の端で捉えていた。






「あぁ、そこなら私も一度行ってみたことがある」


 放課後、三年生がいる棟の昇降口で目的の人物に話しかけたところ開口一番で告げられた。

 我が校の生徒会長、柊茜先輩である。


 さすが、なんでも知っているお方だ。

 二人とは見合いの一件で会長と少しだけギクシャクした関係が続いているが、日常生活では特に問題はなさそうだ。

 

 昔から付き合いのある綺羅坂に関しては心配はしていないが、付き合いが長いだけに俺達の知らない面を知られている分恥ずかしいところがあるのだろう。


「……今日は暇ですか?」


「時間はあるが……デートの誘いと受け取ってもいいのかな?」


 俺が声を掛けると、口元に微笑を浮かべて問いかけてきた。

 爆弾発言に、二人の女子生徒が面会謝絶ばかりに間に割って入る。


「ご一緒するだけです、私達もいますから!」


「放課後の暇つぶしよ、茜さんは勘違いしているわね」


「冗談だ、二人ともそんなに慌てないでくれ」


 ……面倒くさそうな組み合わせになりそうだ。

 完全に手玉に取られて遊ばれている二人に、溜息を零しながら適当に言葉を返す。


「なんでもいいですよ……とりあえず行きましょう」


 こうして、会長を含めた面々で放課後の町へと足を運んだ。

 生徒が多い場所では視線を大いに集めるが、離れていくにつれてその視線も減り店の前に着くまでにはほとんど周りからの目を感じることはなくなった。

 

 周りに人はいるのだが、目的はスイーツにあることから周りなど今は眼中にないらしい。

 それに、やはり予想通り来店している客の大半が女性で占められていたことも大きな要因の一つだろう。


 思っていたよりも列は短く、待ち時間も短そうだ。

 外で並んでいる間に店の外観に目を向ける。


 一見、普通の家のような作りで白色の建物で、木材で出来た小さな看板が外と扉の前に立てられている。

 テラスのような場所は無く、完全に室内だけの作りだ。


 営業時間外に近くを通ったら、完全に店だとは思えない作りが秘密基地に近い感覚を抱かせる。

 

 十五分ほど外で待っていると、女性の店員から声を掛けられて俺達の順番がやってくる。

 四人掛けの席に俺と会長が隣になり、向かいに雫と綺羅坂が座る。


 外で待っている間に席順を決めるじゃんけんが行われ、会長が勝利したことでこの配置となったのだが、二人は依然として不満そうにしていた。


 そんな二人を気にする様子もなく、会長はメニューを開くと視線を横に座る俺に向けてきた。


「おすすめを聞きたいのだったな?」


「はい、会長が知っている範囲で構いませんので」


 俺が頷いて答えると、会長は思案顔で視線を落とす。

 向かいの二人も覗き込むように各々選んでいる中、俺はポケ―っと眺めていた。


 いや、書いてある文字がカタカナ表記過ぎて頭が痛くなりそうだ。

 シュガーとかメイプルとかハニーとか、意味は分かるがイメージが湧かないので今回は完全にお任せだ。


「どれも捨てがたいが、個人的にはこれだな」


 会長が指さしたのは、店員おすすめと表記されている商品の隣にある和風パンケーキだった。

 洋風も和風もあるのかと一番最初に思ってしまったが、会長のチョイスなら間違いはないだろう。

 

 雫と綺羅坂も同様に会長のおすすめを選ぶことにしたので信じて店員に声を掛けた。


「和風パンケーキを四つで」


 代表して俺が店員に注文を伝えると、営業スマイル全開で女性店員が対応をする。

 注文の品が届くまでの間、話題は俺が何故パンケーキに興味を持ったのかというものだった。


「正直、私も最初に聞いた時は驚いたよ。真良が頭でも打ったのかと思ったくらいだ」


「なんで最初に一度は疑われるんですかね……」


 まあ、俺も先日のとある会話と今朝の優斗の話を聞かなければ訪れることはなかっただろう。

 でも、その理由を三人に話すのは少々恥ずかしい。


 だから、話を濁すように二転三転させて適当に返しているうちに目的の品が届く。


「お待たせしました、和風パンケーキでございます!」


 静かに目の前に置かれたパンケーキは、抹茶が混ぜ込まれているのか薄い緑色をしていて、あずきとアイスまで添えられていた。

 糖分過多ですね、これは。


 俺以外の女性は瞳を輝かせていたが、正直食べきれる自信がない。

 残しても大丈夫だろうか……なんて思いを抱きながら、人生初のパンケーキを口に入れたのだった。









 数日後の休日。

 俺は同じ店に訪れていた。


 前回とは違い、休日であるため人数こそ多いがそれでも開店に合わせてきたので前よりも早く案内されそうな位置に並ぶことが出来た。


「ここは和風がおすすめだ……」


「楽しみです!兄さんと二人でお店にくるのは久しいですから」


 隣には妹の楓が待ち遠しそうに店の中を眺めていた。

 最近、妹には世話をしてもらってばかりで何も出来ていなかったので、休日出勤もやむを得ない。


 並びを待っている間、たわいもない会話だが久々の兄妹二人だけの時間が訪れる。

 学校で何があったのか、楽しいこと、大変だったことなどを話す妹に静かに耳を傾ける。


 これが真良兄妹にとって普段通りの会話のやり取りだ。

 そんな中、先日会長から聞いた情報を自信満々といった様子で楓に向けて言い放った。


「知ってるか……クレープの生地もパンケーキの一種らしいぞ」


「はい、知ってます!」


「……」


 ……ですよねー。

 もしかしたら雫以上に女子力が高いはずの楓が、この手の知識で俺が勝ることはできない。


 俺限定で、少しだけ気まずい空気が広がったがそれでも楓のマシンガントークが再開したことでそれもすぐに消えてなくなる。

 その一日は、慌しい日常の中で久しぶりに訪れた平穏な一日だった。



 

書店アプリまいどくでオリジナル版を配信中

よければダウンロードしてみてください!

その他、ブックマーク、評価、感想などお待ちしております。

本編前のサイドストーリーで希望があれば……なんて思ってみたりしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ