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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十五話 開票と離別

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#193



 放課後、会長宅で撮影したファイルを編集している時の出来事。

 俺が想像していた以上に女の子らしい部屋に通された俺は、デスクチェアに座る会長の横から指示を飛ばす。


「……文字は控えめ程度で、必要以上に演出などは付けないで自然体でお願いします」


「分かった、少し画面が暗い印象を受けるから明るめにしておく程度で抑えておこう」


 会長が俺の要望に沿った形の動画を作成していく。

 慣れた手つきでキーボードをたたく姿に、この人は何でも出来るのだなと再認識したところで、追加のお願いを申し上げた。


「……それで、この画像を使ってオープニング的なのも作ってもらえますか?」


 俺が会長にスマホの画面を差し出す。

 桜ノ丘学園の校章が描かれた画像が画面には表示されていた。


「構わないが、これを動画の最初に入れるのか?」


「……いいえ、違います。この動画を作成した後はアカウントは生徒会運営していこうと思うのでその時に使用してください、イベントなどの裏側を撮影して、生徒達に生徒会の活動とはどんなものなのか知ってもらう良い機会になる」


 そう言うと、会長は納得したように頷く。

 それを了承の意味と捉えた俺は、会長から用意された小さなテーブルで原稿を書いていた。


 他にもURLだけを掲示しても怪しまれるだけなので、その点を安心して見てもらえるように説明の文章も考える。


 明日使う原稿は、必要最低限の文字数で簡潔にこちらの考えを伝えなくてはならないので、少々苦戦していた。


「真良が私の部屋に来ているのに、生徒会の仕事をしていると普段と全く雰囲気が変わらないな」


「……なんかすいません、会長に頼ってばかりで」


「いやいや、そんなことないさ……むしろ頼られないほうが先輩として悲しいものだ」


 そう言葉を返すと、会長は椅子を反転させて振り返る。

 PCの画面を見ると、既に要望通りの動画が作成されていた。


「この後はどう進めていくのかな?」


 悪戯に参加する子供のように、口元をつがませて楽しそうに問いかけてきた会長は、何よりもこの状況を楽しんでいた。

 その期待に応えらえれるか、正直分からないが落胆させるような真似にはならないようにしたいものだ。






 役員選三日目。

 朝早くから俺は学校に登校して、掲示板に紙を貼って回った。

 昨日撮影して、編集してもらったばかりの動画を視聴できるようにリンク先を書いた紙を一つ一つ手作業で貼る。

 

 隣には説明書きと、この先とが安全であることを説明した文章を添えることは忘れない。

 苦情とか来たら怖いからね・・・・・特にPTA、あれは怖い。


 雫達も手伝うと言ってくれていたが、これくらい自分で行うと断っておいた。

 

 すべての掲示板に貼り終えたことを確認して教室に戻る。

 そして、何事もなかったかのようにクラスメイト達が登校してくるのを待っていた。


 少しずつ増えていく生徒達を、横目で細かく観察して彼らがスマホで何かしていないか確認する。

 誰も見てくれなかったら完全に無駄な努力で終わってしまう。


 そんなことをしている内に、雫と綺羅坂も登校してきて一日が始まった。



 昼休み

 弁当を食べる時間も惜しんで、席を立つ。


「用事かしら?」


 隣で本を読んでいた綺羅坂が訪ねた。

 少し先でも雫が立ち上がり、こちらに歩み寄る。


「放送室に用がな、二人も来るか?」


 二人に問うと、雫は頷いて答えて綺羅坂は無言のまま本を閉じて立ち上がる。

 付いて来るとの意味の慣れた反応に、何も言葉を投げかけることなく教室を後にした。


「動画のほうは順調に再生されていました、全校生徒の三分の二くらいです」


「上々だな」


 階段を下り、三年生がいる棟の一階に設置されている放送室前まで早歩きで進む中で、雫が気になっていたことを教えてくれた。

 それに安堵していると、目の前に放送室が写る。


 既に、教室前には会長の姿があった。


「一応、教員から許可は貰えたが時間は五分だけだ、手短に終わらせよう」


 会長が持っていた鍵を使い放送室の扉を開ける。

 中に入ると、放送器具が置かれた部屋があり、さらに奥にはガラス張りの個室があった。


 個室の上にはマイクが置かれており、初見ながらここがアナウンスする場所なのだと察した。


「私が合図したら話をして構わない、神崎は時間の測定を怜はこっちを手伝ってくれ」


 会長の素早い指示で、女性二人組が行動に移す。

 俺は、その間に部屋の中に入り、考えてきた内容を復習するように呟いていた。


「真良、始めるぞ」


 会長の言葉を聞き、開始の合図を待つ。

 三つ立てられた指が、一つずつ倒れていき、最後に握りこぶしになる。

 校内に放送開始の音が鳴り響き、収まったところで言葉を発した。


『生徒会役員選挙に立候補した真良湊です……本日は少しの間、お聞きしてもらいたいことがあり、このような放送させていただいております』



 校内に俺の声が鳴り響く。

 きっと、教室の中では生徒達の視線はクラスに設置されているスピーカーへと向けられていることだろう。

 分かる、見ちゃうよね。


 これで、目の前の友人の弁当のおかずをさりげなく食べて、相手が気が付いた瞬間に「これがミスディレクションだ」とかドヤ顔で言いたいよね。

 俺が仮に優斗達と昼を共にしている時に、この状況になったら間違いなく言ってたね。



 と、そんなふざけた情景が脳裏に浮かぶのを横に置き、本題を進める。

 時間は短いので、簡潔に済ませなくてはならない。


『本日、お伝えしたいことは二つあります。一つは掲示板に貼りだされていた動画サイトのURLについてです、ご覧いただいた人も多いかと思いますが、今回の選挙から生徒会のアカウントを作成しました……今後は皆さんが見てこれなかった生徒会の活動の裏側を撮影して少しでも興味、理解していただければと思っています』


 一息つき、内容を整理する。

 ガラス越しの雫から、指が三本立てられあと三分だということが伝えられた。


『二つ目は、役員選挙についてです』


 正直、これが本題だ。

 これを簡潔に伝えられることが出来るかどうか、それで今回の放送が成功か否か分かる。


『先日、次期生徒会の会長、副会長が決まりました。そして、現在行われているのはその二人を支えるための役員選挙だと思っています』


 これは、俺自身の正直な言葉。

 思っていることを率直に伝えるだけの、いわば自己満足のようなものだ。


 生徒の心に響くか、問われたところで答えなど分からない。


『選挙において、公約を伝えることは当たり前であり、それを実行することが当選した人の役目なのだということは重々承知の上です』


 ガラスの向こうにいる三人に、この先の言葉を言ったら怒られるだろうか、呆れられるだろうか。

 クラスだけでなく、学校中の生徒にどのように思われようと別段どうでもいいが、何故だか彼女達、それに手伝ってくれている人たちには悪く思われたくないという感情が芽生え始めた。


 それでも、ここまで来たら言わなければならない。


『でも、俺達はあくまで会長の小泉と副会長の白石のサポートをすることが最大の仕事であり……二人が目指す生徒会にどれだけ近づけるか、それを叶えられるよう助力することだけが必要だと思っています……だから、俺個人の公約はありません』


 静かに、ただ力強くそう断言した。

 ここからでは、学校内の反応は分からない。


 だから、その状況を見て発言を変えることもできない。

 生徒と教員から聞いて、この言葉が吉と出るか凶と出るか、それを祈ることくらいだ。


『これは俺個人の意見であり、優斗……荻原には彼なりの公約があるはずです、それを否定するつもりもありません。ですから、今の俺の言葉を、そして荻原の言葉を聞いて皆さんが判断してください……』


 最後の言葉を告げたところでマイクの電源をオフにする。

 そして、椅子に体を預けてから安堵の息を零した。






 ……いや、緊張したわ。

 やはり、俺は表立った行動は苦手なのだと再確認できた。


 金輪際、この手の仕事はしたくない。


 俺が体を楽にしていると、会長と雫と綺羅坂の三人が中に入って来る。


「お疲れ様です!ちょうど五分くらいでしたね」


「真良君の声だとマイクが拾いにくいかと思ったけれど、案外いい感じに聞こえていたわ」


「そう……なら良かった」


 二人の言葉に適当な返事を返すと、会長に目を向ける。

 堂々と公約なんて無いと宣言してしまったから、何か小言の一つでも言われかねない。


「どのように行動して、発言しようと君の自由だ、私はそれを踏まえて手伝っている……だから、私から何か注意することなどないよ」


 そんなに不安そうな表情をしていたのだろうか。

 優しい微笑を浮かべて言った会長は、すぐに話を切り替える。


「大々的に打てる手はこれで終わりだ、あとは地道に集めるしかないな」


「はい……俺なりに頑張ってみますよ」


 会長の言葉にそう返すと、席を立ち放送室から退室する。

 会長とはそこで分かれ、教室までの道のりを三人で歩いた。




「小泉さん達のサポートですか……私はいいと思います」


 雫が隣で言った。

 目を向けると、彼女は微笑んで偽りなく言っているのが長年の付き合いで分かった。


「真良君が学園改革とか言い出したら気持ち悪いものね」


「酷いな……」


 綺羅坂も辛辣な言葉だが、否定的な感想ではなかった。

 俺を少なからず理解してくれている二人だから、この感想を抱いているだけで他は違うかもしれない。


 その不安は今も胸の中に残っていた。


「湊君は自分の思っている通りに行動するのが一番です……嘘がつけないんですから」


「そうね、誰でも分かる嘘しか言えないものね、あなたは」


 彼女達と俺の立場が未だにあやふやで、ハッキリとしない状況の中手伝ってくれている二人には頭が上がらない。

 この問題が解決したら、俺も何かわかるかもしれない。


 自分自身に変化があるかもしれない。

 そんな期待も同時に胸に抱いていた。


 だからこそ、二人の協力も無駄にしないために勝つ努力だけは怠ることだけはしないと決めた。


 まあ、なんか二人に手伝ってもらうのはここまで見たいな雰囲気で語ってしまったが、全然手伝ってもらうんだけどね。

 なんなら、この先のほうが二人にとっては面倒かもしれないんだけどね。



 でも、なんだか二人してやり切った感のある表情で軽快に歩いているので、今のところは黙っておくことにしよう。



今回は生徒に向けた言葉だったので、普段の湊らしさは抜いて真面目な感じを出してみました。

次話からはあいかわらずの湊くんに戻ると思います!

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