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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十五話 開票と離別

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#191

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今回の話はのんびり気味です!



 屋上の柵に腕を乗せて身体の重心を預けるようにしながら、目下の光景に異様さを感じた。

 先日まで行われていた生徒会長選挙など、比べものにならないほどの生徒が一人の生徒の周辺に集まっていた。


『僕が生徒会に立候補したのは、皆さんがより良く高校生活を送っていただけるように、何か行動を起こしたいと思ったからです!』


 ……うん、絶対に言うと思っていたけど。

 イケメンとはなんて都合の良い生き物なのだろう、俺なんかが言っても鼻で笑われる内容でも皆が真摯に受け止めて真面目な表情で聞いていた。



 拡声器を手に持ち、協力者達が周りの生徒達に声を掛けて回る。 

 手伝ってくれている生徒の数は、ここから見てざっと……十人はいるだろう。


 初日でこれだ、明日以降はもっと増えてくるのは容易に想像できる。

 綺羅坂はその光景を視界に入れることはなく、柵を背もたれにして反対方向を向いていた。


 雫は俺の横で柵に手を置いて、驚愕の表情を浮かべて眺めていた。


「ほぇ……こんなに集まるんですね」


「初日で皆気になっていたんだろう……それに普段の教室の光景を見ていれば驚くことではない」


 自覚が無いのか、自分自身も普段は似たような状況にいることに気が付いていない雫は、少しだけ群がる生徒達に冷ややかな視線を向けていた。

 まあ、傍からみれば一人の周りにあれだけ人が群がる異様な光景をみれば、誰しも何かしらの感情を抱くのも無理はない。


 だが、今日はそんな光景を見に来ているのではない。

 彼が話す内容を聞いて、必要であれば対策を考えなくてはならない。


 一挙手一投足まで見逃さないように視線を一点に留めているが、正直これといった意外性を感じることはなかった。


「あれは余裕と取ればいいのか、それとも無策で人気で押し切ろうとしているの、どちらなのかしらね」


「……」


 反対を向いていた綺羅坂が、本を片手に告げた。

 確かに、言っていることは生徒のために学園づくりという点だけであり、今のところは何か特筆するほどのスローガンを掲げている感じは見受けられない。

 

「初日ですから、様子見をしているのではないでしょうか?」


「……かもな、これだと内容を確認して対策は―――」


 後日だな、そう告げようとしたとき優斗が手を挙げて周りを静かにさせる。

 ……あいつは、絶対に内心でアイドルしている。


 いや、もう絶対しているね。

 何なら、拡声器をマイクと仮定して、カラオケの十八番歌い始める勢いすら感じてしまう。


 なんて、思って下の光景を注視していると、優斗は静かになった広間で語り始めた。


『僕は、次期生徒会長が言っていた地元との協力を支持する、でもそれだけ留めていたらこれまでと変わらないと思いませんか?』


 優斗が出題者で、周りが回答者であるかのように優斗は周りへ問いかけた。

 賛同する声が多数を占め、優斗もまんざらでもない表情で頷く。


『だから、僕が掲げるのは地域だけでなく近隣高校との協力関係を築きたいと考えています!』


 そう語る優斗に、雨のような拍手が包む。

 彼らは、優斗が言っている言葉をちゃんと理解できているのだろうか。


 その場の勢いとノリで適当に賛同して、その気になっているだけなのではないだろうか。

 優斗が言っているのであれば間違いはないと、考えることを放棄しているようにすら、屋上から見ていると感じてしまった。




「……ふむ」


 優斗が掲げていくスタイルは確認できた。

 現状よりもさらに幅広い交流の輪を広げるということだ。


 町の中には楓の通う女子高しかないが、意外と近くに市をまたいで高校は点在する。

 そこら辺と交流を持とうというのが、優斗の考えなのだろう。


 互いが協力してイベントの運営をしていけば、今よりも大きな規模で質の良いイベントを行うことが出来ると言いたいのだろう。

 

「これって……なんだか」


「彼は自分がどの職で立候補しているかを忘れているのかしら?」


 雫と綺羅坂が同時に、今の話を聞いて感じたことを呟いた。

 確かに、優斗は立候補している役職とは遠いことを実行しようとしている。


 俺達が立候補しているのはあくまで生徒会長補佐だ。

 会長の補佐をすることが役目であり、会長の考えを否定するのが仕事ではない。


 立候補するのにあたって、自分自身の考えを口にして賛同してもらうことは重要であるが、今後の関係性を考えればいい手とは言えない。

 例え当選しても、会長達からは自分達の公約を否定している人物が入ってきたと思われてしまうのだから。



「小泉や白石が他校にまで言及をしてこなかったのは、それをすることでマイナス要素が少なからず存在していたからだ……例えばイベントの規模は拡大できても内容はありきたりなもので広くて薄い内容になってしまうとか」


 あくまで、これは一例だが二人はマイナス要素は限りなく排除して自分達の能力に合った最大限の範疇を考えていた。

 優斗の場合は、自分の可能な範囲で物事を考える傾向があるので、地域とのコミュニケーションだけでは収まらなかったのだろう。


 いや、本当なんでコミュニティーを広げようと考えるんですかね。

 広げりゃいいってもんでもないだろうに。


 むしろ、俺みたいな人間から言わせれば、ただでさえ学内でも知らない生徒が多いのに、これにさらに完全な部外者まで増やされたらイベント自体を自主放棄しかねない。

 居心地が悪いのに、さらに変なのが加わるのだから当然だろう。



「荻原君の言いたいことも分かりますが……私はあまり賛同できない公約ですね」


「同感よ」


 二人は否定的な意見を持ったようだ。

 まあ、この二人は外面は抜いて考えると、俺のように余計な人間関係を良くは思わない人間だからそうなるのだろう。


 だが、目の前の光景は俺達とは違う反応だった。

 楽しそう、学生だからそれくらいやってみたい、荻原なら絶対成功する……と、その他にも似たような言葉は聞こえてきていた。


 楽観的で目の先の斬新さや楽しさを優先する学生達からは受けはいいだろう。

 他校との交流というのは、学生という生き物には効果的なフレーズだ。


「今日は演説しないで成功だったな……こんな状況だと俺の場所に人は来ないぞ」


 少し落ち着きのある明日からのほうが、まだマシな演説をすることが出来そうだ。

 今日ほどの賑わいもないだろうが、そのほうが都合は良い。


 

 これが優斗の言いたい、俺のような人種が楽しめる学園作りであるとすれば、的外れな考え方だ。

 イベントの規模を拡大して、参加人数を増やしたところで根本的なものは変わらない。


 能力が秀でた人間に頼り、自分達で実行することを避ける現状の学内での人間関係を変えない限り、いくら広げても意味はないのだ。


 しかし、今の優斗にその言葉を言っても伝わらないだろう。

 俺との勝負で結果を出してみるまでは、自分が正しいと突き進むのがあいつだ。


「綺羅坂なら優斗の演説にどう対応する?」


「隣に場所を確保して、彼が言った言葉を一つずつ論破していくわ」


 ……えげつないやり方ですね。

 だが、その光景を見てみたいと思ってしまった俺がいたのは言わないでおこう。


 次に隣の女性に視線を向ける。


「雫は?」


「私は……あくまで自分の役職の範疇で出来ることを伝えると思います」


「やっぱり、その手が一番だよな」


 溜息を零しながら、目下の光景を再度確認する。

 相変わらず人は多く、とても学生選挙とは思えない賑わい方だが、違和感を覚えた。


 そこに集めっている人の顔が何故だか見知った顔が多く感じる。


「一年生は意外と少ないのか……?」


「そうですね、二年生が非常に多いですね」


 俺の問いに雫は普通に返事を返す。

 初日であることから、断言はできないがそれでも見に来た成果はありそうだ。


 柵から手で体を起こして、出口に向けて体を反転させる。


「俺達は一年生を中心に票を集めていくか」


 後ろの二人にそう言って、屋上を後にしようと歩き出す。

 だが、後ろで今まで会話をしていなかった二人が急に会話を開始した。


「ところで神崎さん、私が一番でいいのかしら?」


「何を言っているのですか?私が一番であなたが二番です」


「……お前ら、何の順位を決めてんだよ?」


 二人にしか分からない順位付けに、そう問いかけると当然とばかりに雫が回答した。


「湊君の応援団としての順位です、私が一番で彼女が二番」


 自分を指差して、次に綺羅坂を指差す。

 そんな順位付けなど必要もないだろうに、と思っていたのだが彼女達には重要な順位らしく綺羅坂が反論を述べる。


「冗談も程々にしなさい、あなたは永遠の二番手よ」


「そうやってクールな雰囲気出して、実はスマホで撮影した湊君の写真を見てにやけているのを私は知っているんですからね」


「あなたこそ、この間真良君の家に行った時、彼が席を外したのを良いことに布団に潜り込んでいたじゃない」


 ……なんの言い合いなのでしょうか。

 知りたくもなかった事実を、間接的に聞かされてしまった時の心境だ。


「いいですか?生徒達にどちらが先に真良君の応援に就いたのか聞かれたら私が先ですからね」


「いえ、私は彼から離れないと宣言をしていたので、そこから一番であることが適応されるのよ」


 されねーよ。

 どんな適応方法だよそれは。


 後ろでまた言い合いを始めてしまった二人を、普段なら置いてしまうのだが協力してもらう関係上そのままにできず納得がいくまで二人の言い合いを眺めていることになったのは、ここだけの話だ。

 ともかく、主となる学年は一年、そしてあくまで補佐としての職を全うすることを前提として、優斗の言う公約は会長達と少し異なる道であることを指摘して様子を見るのが賢明だ。


 明日一日の方針は固まったので、あとは会長を筆頭に協力してくれる三人の報告と、後ろの女子二人が納得のできる彼女達なりの答えが出るのをここでも待つとしよう。



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