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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十五話 開票と離別

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#190

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 放課後の学内は、既にお祭り騒ぎの様相を見せていた。

 特に、二年生の熱は激しく授業が終わると一目散に優斗が用意している演説場所に向かう生徒が多く見受けられる。


 そんな中、俺は一人一年生がいる棟へと向けて歩いていた。

 手には小泉から受け取った大量のプリントを抱え、カバンは教室で待機している雫と綺羅坂に預けている。


 生徒達が向かう先とは反対方向に進み、一年生と二年生の棟を繋ぐ渡り廊下で事前に打ち合わせしていた白石と合流して一年の最初のクラスの前で立ち止まる。


「本当にやるんですか?」


「……クラス委員にも話は通しておいてくれたんだろ?」


 白石を通じて、一年生の学年委員には一つのお願いをしていた。

 ホームルームが終了した後、ほんの少しだけ教室内で残っていてもらいたいと。


 理由は生徒会からのアンケートの配布と伝えてあるので、廊下の状況を確認しても大半の生徒がお願いを聞き入れてくれているのか室内に残っているように見えた。


「こればかりは事前に白石から話をしておいてもらわないと、数が集められないからな」


「でも、どうやって説明すればいいんですか?」


「その場のアドリブだ……」


 ノックを数回して、白石の準備が整う前に戸を開く。

 中に待っていた生徒から、一点に視線が集められるのを気にすることなく教卓の前にまで移動する。


 後ろから続いた白石の姿を確認した生徒達は、一様にクラス委員からの説明が本当であることを知ったような表情を浮かべる。


「……俺が本題は説明するから、一言だけ話しやすいように何か頼む」


「え、あ……私ですか!?」


 にっこりと、計算された微笑を浮かべて隣に佇んでいた白石の耳元で、周りには聞こえない程度の声量で告げた。

 それに、過剰な反応を見せてくれた白石を、一年生は変な奴を見る目で眺める。


「あああああ、あのですね、その、あれです……おはようございます!」


「放課後な」


「ここここ、こんちわっす!」


 生徒会長選で完全に気が緩んでしまったのか、普段通りのポンコツぶりを遺憾なく発揮する白石を、皆がおかしそうにして空気が和らぐ。

 彼らからすれば、普段頼りがいのある委員長が変なことを言っている程度の認識なのだろう。


 もしかしたら、場を和ます芸くらいに思っているのかもしれない。


 だが、これで話がしやすくなったのは間違いない。

 すかさず、頭を小さく下げて全員に聞こえる程度の声で話を始める。


「……今日から行われる役員選挙についての事前アンケートを生徒会で集計させてもらいたくて、今日は皆さんに時間を作ってもらいました」


 教卓に乗せた一番上の用紙を手に取って、実物を見せる。


「本当に簡単なものです……項目一には現在の投票予定の先輩に〇を、項目二には生徒会に今後何かしてもらいたいことがあれば記入してください。……学食のメニューが増えて欲しいとか」


 一例を挙げて、本当に簡単なアンケートであるということ、そして生徒会が行うアンケートであることを説明すると、一年生は怪しむことなく配ったプリントに記入をしてくれた。

 名前も必要なく、完全に無記名で大丈夫なので個人的な意見であっても問題はない。


 その安心感を使わせてもらい、一年生には生徒会に対する断片的な要望と現状の生徒会に対してのイメージを把握することが出来る。


 一組が記入している間に二組、三組、という順番にクラスを回って、最後にまた最初のクラスから集めていく。

 この作業を単純に五クラス、計三十分ほど時間を使用して約百五十人の用紙を回収することが出来た。



「こんなの集めて役に立つんですか?」


 五組の用紙を回収し終えて後、二年三組に向かい歩いている時に白石が問いかけてきた。


「……分からん」


 こればかりは、実際に目を通してみてから出ないと判断できない。

 だが、まずは一年生に顔を知ってもらうことは出来た。


 そして、一年生の票の大まかな流れと生徒会への意見を集めることも出来た。

 優斗は既に公約を考えてきているのだろうが、俺には正直公約と言われてもピンときていない部分がある。


 しかし、生徒が望んでいるいわゆるテンプレートな演説をしたところで、俺の実績や能力では少々説得力に欠ける。

 一日目は一年生を、明日には全学年のアンケートを集めて集計する。


 そして、三日目からが本当の勝負になる。

 木曜日まで優斗に後れを取る形になるが、継続的な人気や票を集めることが難しい相手だけに、一発ドカンとではないが、強い印象が必要となる。



「戻りましたー」


 二年三組の教室へ白石が先に入り、俺が後から続いて入る。

 教室内には、雫と綺羅坂に加えて会長と小泉の姿があった。


 火野君と三浦にも立候補の説明をしてきたのだが、二人は別件で今日は放課後に時間がないとのことだったので、これが現状の俺の陣営になる。

 正直、豪華メンバーだ。


 現生徒会長、次期生徒会長、副会長、そして二年のお姫さまの雫に、女王なんて呼ばれてる綺羅坂。

 全員を全面的に頼って、演説から何からと手伝ってもらえば優斗といえども勝率はこちらが上回る可能性はある。


 でも、それだと意味がない。

 俺の言葉で、俺の行動で、俺のやり方で優斗に勝たなければ意味がないのだ。


「アンケートは集まりましたか?」


「案外白石の発言力は一年には効果的でな……ほとんどの生徒が答えてくれた」


 どっさりと抱えていたアンケートを机の上に置くと、感嘆の声が上がる。

 雫が適当に何枚か手に取って、内容を確認すると苦い表情を浮かべた。


「皆、荻原君に〇を付けていますね……」


「当然だろうな……これが単純に知名度の差だ」


 片や学園の王子様、片や学園の背景のように目立たない生徒。

 一年生の回答は、後輩の他学年だけに分かりやすい結果になった。


「大まかに計算して百三十対二十……仮に二年も同様に計算したら圧倒的な票差だな」


 会長が顎に手を当てて、思案顔で告げた。

 学生の選挙をこの中で一番長く見てきた会長だからこそ、この結果がいかに大きな差なのかを理解しているのだろう。


 小泉も、これには渋い表情を浮かべる。


「荻原君が相手だから仕方がないけど、僕が立候補している立場なら涙目だよ……」


「私なら完全に泣いてますね」


 小泉の意見に、白石流の同様の意見が零れる。

 しかし、それを気にする生徒は今はいなかった。



「しかし、この票数の差が生まれるのは承知の上で立候補したのだろう?」


 静まり返った教室内で、会長は毅然とした態度で告げた。

 その言葉に、間髪入れずに頷いて答えた。


「当然です……逆に思っていたより多いかもしれませんね」


 パラパラとアンケートを見返して、落胆することなく全員に向けて言った。

 雫と綺羅坂、そして会長は安心したように微笑んで、小泉と白石は驚いたように口を開けてこちらに視線を向ける。


 一年生からのアンケートの一項目目でなく、二項目目の生徒会への希望の欄をざっくりと確認してから、一年生の生徒会役員選挙に対する反応で一つ確信を持つことが出来た。


 たぶん、これは二年生でも共通している内容だと思うが、希望の欄には空白やありきたりな制服の廃止、全棟の屋上開放、学食のメニューの増加……

 真に迫るような、具体的な内容の回答はほとんどなかった。


 時間がない、回答までのリミットが目の前にまで提示されている時に、本当に望んでいることがあればそれを書いているはずだ。



 小泉が掲げるような学生主体で過ごしやすい、そして地域との交流。

 白石が挙げた個性のある生徒の選出など、明確な言葉があまりにも少ないのであれば、それだけ関心が低いことを表している。


 単純に、俺と優斗を比べた状況で、圧倒的に優斗の人気票が高いだけならまだ戦える。

 

「……小泉は選挙で必要最低限必要な物をまとめて連絡してもらいたい、白石には一年の各クラスでカーストの高い生徒を確認するのを、会長にはこちら側に票を入れてくれる可能性が高い先生から順にリストアップをお願いします」

 

 三人に頼むと、一様に頷いて教室から出ていく。

 会長がその間際に、手を振って別れの挨拶をしてきたのに適当に手をひらひらさせて返す。


 教室に残った雫と綺羅坂は、じっと俺の言葉を待った。


「真っ向から勝負を挑まなくても、優斗が何を語っているのかは確認して対策は用意しておきたい……」


「それでは、敵情視察ですね!今は中庭で行っていますが人の数も凄いですし……屋上に行きましょうか?」


 ……敵情視察とは、雫の中で優斗は既に敵と認識されているんですね。

 まあ、生徒会選挙の間限定のことかもしれないが、それでも意思に揺らぎがないのは心強い。

 優しすぎてしまう雫だからこそ、心配していたのだが杞憂に終わったようだ。


 最後に、綺羅坂に同意を求める視線を向けると、彼女は瞑目したまま口を開く。


「彼の演説なんて興味はないのだけれど……それを聞いた時の真良君の反応は面白そうだから行きましょうか」


 そう口元に悪い笑みを浮かべて綺羅坂は立ち上がった。

 興味は持ってね、お願いだから。


 教材など入っていないカバンの中にアンケート用紙を詰め込んでから席を立つと、教室の出入り口で待つ二人に続いて教室を後にした。




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