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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十五話 開票と離別

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#172



 年に一度、新学期の初日にしか集まることのない正門前広場に、生徒達は群がっていた。

 そこには、学校に関する情報が貼りだされる学内掲示板が設置されている。


 その掲示板にこんなにも生徒が詰め寄っているのは、今しがた貼りだされた情報が、生徒達からすれば予想外の出来事だったからだろう。


 桜ノ丘学園生徒会選挙 

 その第一陣となる、生徒会長選挙の立候補者がこの瞬間、目の前で公表された。


 今日まで、生徒会役員とその関係者である数名にしか公表されていない予想外の対決が幕を開けたのだ。


 現生徒会副会長の小泉に相対するのは、期待の一年生である白石。

 皆が次の会長は小泉が引き継ぐのだと思い込んでいただけに、この情報は校内を大いに賑わせることになった。


「……」


 俺も、正門前にある掲示板の前にまで足を運んでその光景を少し慣れた場所から見ていたが、この光景を一言で表現するのであれば衝撃といったところだ。

 でも、俺が想像していたよりも学年ごとで反応は異なった。


 上級生のほうが驚いたように見えて、下級生のほうが期待の眼差しを向けていると表現するのが正しいのだろうか。

 固定観念とまではいかないが、必然的に小泉が会長になると思い込んでいただけに、上級生のほうが衝撃は大きかろう。


 だが、自分の問題ではないので、あくまで他人事として驚いている。

 

 それにしても、立候補者の二人の写真がでかでかと貼りだされているが、この時点で大きな差が生じている。

 端的に言えば、ビジュアル面で大きな差が生まれた。


 小泉はいつにも増して緊張した面持ちで、セオリー通りの真面目感の溢れる写真で。

 対する白石は、自分の魅力を最大限活かせるような計算されたアングルで撮られている。


 最近はSNS映えなんて気にした写真が多く出回っているが、これは完全にアナログの写真ですら負けていますね……小泉副会長。

 生徒会室を背景に、制服をキッチリと着て直立した姿勢。

 表情も硬く、良くも悪くも真面目な印象だ。


 正式……本当に現実での選挙であれば小泉の真面目な印象はプラスになるが、学生の模倣的で、それでいてどこか学生の遊び感覚に似た環境では一概に良いとは言えない。


 その点、白石の写真は学生たちに悪い印象はないだろう。

 中庭の芝生を背景に、陽の光も相まって明るい印象だ。


 微笑んでいる表情も彼女の計算の上でだろうが、それは傍から見ていると分からない。

 生徒達も俺と似たような印象を持ったのだろう、写真での印象に関しては白石を推す声が多い気がする。


「あれは誰かしら?」


 白石の写真を見て、綺羅坂が呟いた。

 

「白石さんの本来の姿を見ているだけに、何故だか計算された何かを感じますね……」


 俺を挟んで立つ雫が言った。

 ……確かに。


 俺達が夏休みを通して見てきた白石は別人だな。

 そんな感想が漏れ出るくらいに写りが良い。


 周りとは違い、苦笑が含まれた表情で視線を掲示板に向けていると、その下には小さく次の生徒会役員についての記載がしてあった。


『次期生徒会役員立候補者は今週中に生徒会室までお越しください』


 その一文は、控えめに書かれていた。

 火野君が来年も生徒会に在籍しているのか分からないが、それでも会長が抜ける分、人手は足りないはずだ。

 

 一年生だけでなく、二年生からでも役員は補強したいのだろう。



「湊君は選挙には出ないんですか?」


 雫の問いかけに、幾度となく聞かれた問いだった。

 何度聞かれても、答えは変わることはない。


「……出ないよ」


 仮に、もし仮に俺が生徒会に残る可能性があるとすれば、白石が副会長になり小泉が会長になった場合だろう。

 それでも可能性は低い。


 白石が会長になった場合、彼女は能力重視の傾向がある。

 当然、彼女が理想とする生徒会の役員にはそれ相応の能力が求められる。


 つまり、俺のような特筆する点がない生徒には居場所はないというわけだ。

 小泉が会長になった場合でも、その例外ではない。


 だが、彼とは少なからず役員として少しは同じ環境で過ごしてきた。

 

 同情、と言われればそれまでだが、継続して役員を続けないかと提案があった場合くらいが可能性として残っているのではないだろうか。

 それ以前に、俺の心境に変化がない限りは考えることすらおこがましい限りだが……


 

 見たいもの見れたので、踵を返して校内に戻る。

 途中、俺達が進む反対方向、掲示板のある方向に走り向かう生徒を多く見たが、彼らの顔には一様に笑みが浮かんでいた。


 新しく始まった新学期で、かつ生徒会選挙というイベントが、彼らの心境を高ぶらせているのだろうか。

 横目に観察をしながら歩いていると、校庭に繋がる通路の先に二人の人影を見据える。

 

 互いに襷を掛けて、各々が生徒達に声を掛けていた。


「よろしくお願いします!」


「白石紅葉です、お願いします!」


 その二人の姿を見て、実感した。

 夏休み前から始まっていた生徒会選挙についての一連の騒動が、本格的に動き始めたことを。


「湊は小泉とか白石さんの手伝いをする予定とかあるのか?」


 腕を頭の後ろで組んで、大した興味もなさそうに優斗が言った。

 それに首を横に振ることで答えとした。


 彼らがもし、何かを相談をしたり、用事があると言われればその限りではないが、俺の方から名乗り出て手伝うことは必要ない。

 本人達が考えて、必要とあればその人物に声を掛けるはずだ。


 自ら手伝うと名乗り出るのも、時と場合によっては邪魔にもなる。

 差し出がましいと思われたくはない。


「ま、声だけは掛けておくか」


 でも、知らない仲ではない。

 どちらに肩入れすることは出来ないが、少なくとも二人に応援がてらの声かけくらいはしてもよかろう。


 そういう意味で三人に告げると、ニヤニヤと笑いを堪えるような表情を三人全員が向ける。


「意外と面倒見が良いわよね、真良君」


「……うるさい」



 笑みの理由が分かってしまっただけに、若干恥ずかしさを抱えて、少し先で活動に励む二人へと歩み寄った。

 誰かに頼る戦い方ではなく、自分の力でこの生徒会選挙が行われれば、二人が後悔することもなく終わるはずだ。


 会長もそう願っていた、そして夏休みの小泉を見て白石はその一片でも伝わってくれただろうか。

 歩きながら、そう考えるのだった。



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