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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十四話 信用と信頼

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#167

更新の冒頭ですが、お返事を返せていなかった方への返事をさせていただきました。

ご感想の返信が遅くなり申し訳ありません。

万が一、お返事が抜けてしまっていたら大変申し訳ございません。

遅くなりましたが、最新話どうぞよろしくお願いいたします。


 どんな顔をして、目の前の少女に接すればいいのだろうか。

 人生において、人に頼るということを避けて生きてきた俺には、この場に相応しい表情というものがいまいちピンと来ない。


 俺の部屋なのに、俺の問題であるのに、神崎雫が話を始めるのを待っている自分がいた。



「とりあえず……全員を呼びましょう」


「……え、今?」


 雫との共同での問題解決に際して、まず最初に提案されたのが、今回の生徒会問題に関係している人物の招集だった。

 具体的には、まず綺羅坂と優斗、そして白石の三人を呼ぶこと。


 そこで具体的な話を煮詰めてから生徒会の小泉、三浦には個別でコンタクトを取り、白石の方向性と俺達の動き方を説明する流れだ。

 この場に小泉達を呼ばない理由に関して、雫に問うたが二人……特に小泉に関しては生徒会長の立候補という選択肢以外を本人が望んでいないことが挙げられた。


 確かに、彼は生徒会長の席以外を考えて行動はしていないだろう。

 次代の柊茜に少しでもなれるように、日々を堕落的に過ごしている俺には眩しいくらい、彼は一人の人物に対して羨望を向けていた。


 だから、この場に彼を呼ぶ必要性もないという事だ。

 雫の意見に納得したが、今日の今日呼ぶと言うのは早急すぎる気がした。


 というか、俺がそんなに一日をアクティブに動くことを避けたいのが本音だ。

 だが、頼んでいる立場上、そんなことは許されない。


 そうか……こうして、幼い頃から立場と否定を許されない環境を生み出すことによって、 上の立場の人間からの指示は、ハイと答えて実行する。

 社畜という日本社会の負の遺産が生み出されていくのか。

 結論、自宅での在宅業が最強で最高。



 なんて、毎度の卑屈を脳内再生を繰り返しているのを見透かしたように、少しだけ冷めた視線をこちらに向けた雫から視線を逸らして、楓に一言掛けにリビングに向かう。


「少し、人を呼んでも大丈夫か?」


「構いませんが……疲れていませんか?」


「平気だ……たぶんそんなに時間が掛からないうちに来ると思うから」


 帰宅早々、人を呼ぶのは流石に昔から妹として共に過ごしてきただけあって、心配そうな視線を向けてきた。

 それを安心させるかのように、頭を一撫でして大丈夫だと答えると、今一度自室に戻る。


「皆さんには私から連絡しておきました。荻原君も綺羅坂さんも幸い時間に余裕があるとのことでこちらに向かうそうです」


「仕事がお早いこと」


 褒めたつもりはない言葉だったのだが、その言葉に少し嬉しそうにしている雫は、ポケットから一つの小さな手帳を取り出す。

 どこかで見た記憶がある。


 俺も似たような手帳を持っていなかったかと、記憶を探っていると一つの答えに辿り着く。


「生徒手帳か」


「はい」


 紺色をして、金色の桜を模した紋章が書き記されたその手帳は桜ノ丘学園の生徒手帳だった。

 どうりで見た記憶があるわけだ。


 確か、俺の生徒手帳もカバンの奥深くに眠っているはずだ。

 まあ、年に一度写真と学年、クラスの情報が更新される際にしか見ていないので、記憶に薄いのも致し方ない。


 その手帳を開くと、雫は何かを探すようにページを捲る。

 生徒手帳の中には年間のカレンダー、学校の休校日、それに加えて校則が記載されている。

 

 本来、学校の校則をまじまじと確認することなど、ほぼ皆無だろう。

 誰だって分かっているような一般常識を、やたらと語彙力にステータス振りした人が書いたように、小難しい感じが羅列しているような文章だ。


 俺も読んだことがないし、知っている限り生徒手帳を読破した生徒は知らない。

 

「そんな物見て、何を探してるんだ?」


「生徒会選挙について書かれた項目です。確かこの辺にあったはずですが……」


 そう呟くと、雫は目的の文章を見つけたのか、あるページで紙を捲る音が止まる。

 電源が落ちたロボットのように、ピタリと動きが止まった雫を横目にこれから来るであろう人物たちが座るスペースをいそいそと空ける。

 

 そんなことをしていると、来客のインターホンが家内を鳴り響く。

 早いな……


 五分と時間が経っていないのに、もう来たのか。

 リビングから飛び出してきた楓を、部屋から出て制すと玄関の戸を開けてその人物を出迎える。


「遅いわ」


「いや、お前が早いんだよ」


 開口一番、愚痴を零す綺羅坂とその後ろには優斗と白石の姿もあった。

 どこぞの戦闘民族が敵の背後を取った時のようなセリフに、適当に返事を返すと三人を迎え入れる。


 優斗と白石が同じタイミングで来ていた理由については、彼女達の後ろに見える一台の車を見て、何となくだが察した。


 優斗が鼻歌を歌いながら、綺羅坂は我が家のように堂々と、そして白石は俺の後ろにいる人物に警戒するように静々と入る。

 

「どうした……妹にはさっきも会ったんだろ?」


「いえ……まあ、会ってますが、会ってるからと言いますか……」


 ハッキリとしない物言いに、理解できずに後ろを振り返るが楓は笑顔を浮かべて三人を迎えている。

 同い年どうし、何か通じるものがあるのか、とにかく三人を自室へと案内すると家主のごとく雫がそれを出迎えた。


「いらっしゃい!」


「まるで自分の部屋のように出迎えないでもらえるかしら?」


「お好きな所に座ってください!」


「俺のセリフだからね?……というか、俺の椅子まで勝手に座らないでね?」


 雫の言葉を聞き、遠慮なく白石が無言で俺の椅子に腰を下ろそうとしていたのを指摘すると、『びくぅ』なんて効果音が聞こえそうなくらい、体を震わせて近くの座布団に腰を下ろした。

 こいつ……相変わらず変な奴だ。



 全員が話を聞く準備が整ったところで、話の発起人たる雫が口を開く。


「本日は、生徒会選挙の件でお話がありお呼びしました」


 その一言で、三人の表情は僅かに真剣さが増す。

 特に白石は、思わず前のめりになりそうなくらい、雫の言葉に耳を傾けていた。


 事前情報は俺も無い。

 三人と同じ状況で彼女の言葉を、考えを聞くことになるのだが何を語るのだろうか。




「結論から言いますが、生徒会選挙は白石さんのお手伝いはできません」


 実に端的で、分かりやすい言葉だった。

 白石からすれば、判決を告げられた気分だろうが、雫の言葉はそれくらい感情を含まない一言だった。


 誰が聞かなくても、部屋の空気から雫に説明を求めていた。 

 それは俺も同じで、発言の裏にある意味を聞きたい。


「理由はいくつかあります。私達が生徒会に加入する意思が元々なかった点や、個人的な感情も諸々ありますが……一番の理由をあえて決めるのであれば校則でしょうか」


 開いたページを全員が見えるように机の上に差し出す。

 俺と優斗、白石がそれを上から覗き込む。


 綺羅坂は興味がないかのように、身動き一つする様子はない。


 生徒手帳には生徒会選挙についての原則という項目が存在していた。

 内容はおおむね会長が前に説明していた通りだ。


 生徒会選挙に立候補するにあたっての条件や、選挙活動についてのルール。 

 別段、目新しい内容は書かれていない。


「校則って……何か問題あったか?」


「さあ、俺も二、三回くらいしか読んでないからな」


 ……二、三回は読んでいるのね。

 意外と身近にこんな文章に目を通していた奴がいたとは。


 

 疑問に思っているのは俺と優斗だけで、白石は苦い顔をして静かに縮みこむように体を丸くさせる。

 そこに声を発したのは雫ではなく、綺羅坂だった。


「校則の第二十四条の三項目のことを言っているのかしら?」


 どこですかそれは。

 すぐに彼女が言った項目に目を向ける。


 本当に開いていたページは二十四条が存在しており、そこにある三項目の文章を黙読する。

 というか、こいつ生徒手帳の文章を暗記でもしているのか。


 完全に、記憶力の無駄遣いとしか思えない才能に若干の引きを見せつつ、優斗と共に内容の理解を進めた。


『生徒会役員の退任について、生徒会役員の過半数、および生徒会担当教員の承認を得て可能とする』


 そう、生徒手帳には記載されていた。

 まあ、生徒会の任命や、退任については明記されていて当然だろう。


 これに問題があるとすれば……分からん。


「あぁ、そういうことか!」


「……どういうことだってばよ」


 隣の優斗は、完全に理解したといった様子で声を上げる。

 この室内で、この状況に、雫の言う理由について理解できていない湊君は完全に孤立気味と言っても過言ではない。


「湊君も思い出してください、白石さんが最初に生徒会室に来て話をした時、生徒会役員の一新をすると言っていたのを覚えていませんか?」


「つまるところ、彼女が生徒会長になったとしても退任の権限は生徒会長には無いから、そもそも生徒会の一新なんて私達が他の役職に立候補することを前提としていないと無理な話ってことね」


 

 …………あぁ。

 そういう単純な理由があったのね。


 一新という言葉に意識が集中していたことで、そもそもの原則的な部分に視野が広がらなかった俺のミスだ。

 自分にも、それに雫の言葉を聞いて苦い顔をしていた白石は無論、承知の上で発言していたという事に溜息を零す。


 視線を白石に向けるが、瞬時に逸らされる。

 完全に目を合わせる気がない……。


 だが、これで万事解決……なんて、簡単に事態が落ち着けば問題にはなっていない。

 白石は突然机を勢いよく叩いたかと思えば、大胆不敵に宣言した。


「勝負です!」


 この発言が、今後の面倒な夏休みを展開することになったとは、その時は想像もしていなかった。



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