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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十三話 対面と思惑
173/353

#163



まるで、姉からの助言のように雫と綺羅坂の二人に向けて会長は言葉を投げかけた。

 静かに耳を傾けていた二人は、自然と視線をこちらに向ける。


 だが、その視線への答えを俺は持ち得ていない。

 そして、会長の言葉が正しいとも感じてしまった。


 純粋に他意はなく、今のこの状況がいつまでも続くものではない。

 俺が、もしくは彼女達がいなくなってしまう状況が起きても不思議ではないのだ。


 ただ、現状の環境に甘えて、行動に移せていない俺と、停滞した関係を良しとする彼女達の現状を会長は鋭く指摘して突きつけるのだった。

 

 現に、停滞していた関係の後に起こってしまったのが、今日のこの場だ。

 俺にも、彼女達にも言い返す言葉が見当たらないのだろう。


 渋い顔をして会長の言葉を静かに聞いていると、


「会長は将来の相手として、完璧を求めない人と言いましたけど……そんなの俺でなくとも沢山いそうですけどね」


 事実、探せばいくらでも見つかりそうな条件だ。

 それに、会長に惹かれていて、その背を追っている一人の生徒の姿が脳裏をちらつく。

 

 あいつは、ダメなのだろか。

 おそらく、会長の求める条件とは違うとは思うが、それでも浮かんでしまった。


「君が思い浮かべた人物に心当たりがある……だが、それではダメだ」


「……」


 首を横に振り、暗い表情で告げた。

 明確な否定が、可能性という芽を摘んでいく。


「憧れや羨望は私にとっては一番条件から遠い場所にある。純粋な恋愛感情を持たれている相手よりも更に遠い場所だ」


 そう言葉を語り始めると、会長は言葉を紡ぐ。

 これまで聞いたことのなかった、会長の、柊茜個人の意思を語り始めた。


「根底にある感情は、無意識に行動や言動に現れるものだ。本人が自覚していないだけで相手には伝わってしまう……だからこそ、私が述べた条件に当てはまるのが君だけだったんだ」


「……俺だって周りと会長への印象の持ち方に違いはないと思いますけどね?」


 謙遜などではなく、純粋な疑問。

 俺だって会長を学園一の完璧な生徒だと思っている。

 常に冷静で生徒の模範で、その言動に間違いはない。


 歴代最高の生徒会長であることは、否定のできない事実である。


 だからこそ気になる。

 会長の言う条件で、何故俺だけが通過しているのか。


「簡単だ、君は私に対して特別何も感情を抱いていなかったからだ。言ってしまえば完全な無関心、眼中にも入っていないなんて言葉では言い方が悪いかな?」


 言葉とは裏腹に明るく笑って見せる。

 ……えっと、これはどう反応して見せたらいいものか。


 会長の言葉の意味が分からずにいたのは、室内で俺だけだった。


 雫も綺羅坂も、何か心当たりがあるのか僅かに体を震わせる。

 表情が、息遣いが、雰囲気が僅かに変化したのが見て取れた。


「真良には分からないかもしれない……だが、それが君の魅力であり、私達が惹かれる理由でもある」


「冷たくされるのが好きって聞こえてしまいますよ……」


「君は自分を好評価されると捻くれる傾向があるな」


 会長は溜め息をついて言った。

 けど、俺には捻くれて捉えてしまうには十分な年数を過ごしてきてしまった。


 人の評価は、結局他者が付けるものだ。

 そこに本当の意味での平等性などない。


 個人の価値観や考え、周りへの配慮

 だからこそ、言葉の裏を探ってしまう。



「周りから完璧を、才能を、生まれ持った物を特別視されてきた人間にとって、君はこれ以上にない安らぎを与えてくれる……無関心や特別扱いをされないのは、人によっては嬉しいものなのだと、参考程度に覚えておきたまえ」


「……」


 その言葉を聞いて、無意識に綺羅坂に視線が移っていた。

 生まれ持った才能と家柄の為に、努力も何も見てもらえず特別の一言で片づけられてきた彼女は、特別扱いを嫌った。

 

 その結果、学園での孤高の存在となり、会長と似たような理由から俺に興味を抱いたと言っていた。

 雫にしてもそうだ。


 周りからの期待に必要以上に応える為に、自身の意思を押し殺して皆の求める神崎雫を常に振舞っていた。


 本当に才ある人間は、純粋な普通の日常を求めているのだろうか。

 周りは些細なところに気が付かない。


 いや、気が付いていても目を逸らす。

 彼女達ならこれくらい当然だと、自分の能力と比較して逃げ道を選択してきたのだから。


「とにもかくにも、これで役者は全て揃ったことになる。そろそろ始めるとしよう……非凡な私達が平凡な男の子を求める競争を」


 不敵な笑みを浮かべて会長は宣言した。

 雫と綺羅坂も、その言葉から逃げるようなそぶりは見せず、正面から受け止める。



 ……俺は?

 俺は完全に空気になっていないでしょうか?


 一応、今日は俺と会長の見合いとなっていたはずなのだが……

 もしかして、二人がこの場に同席することを知ってから、この展開を予想していたのですかね?


 女性同士の静かな戦いの幕開けに、完全に空気と化している真良湊君です。

 そうです私です。



 そんな俺に、会長は告げた。

 

「さしあたって、真良に私から求めることがあるとすれば……」


 会長は顎に手を当てて思案顔で暫し考える。

 そして、思い付いたのか言葉に出して声高々に宣言した。


「生徒会の活動の後にお茶に付き合ってもらうとしよう、無論、生徒会室でだ」


「……地味っすね」


 今どき、お茶と言えなオシャンティーな喫茶店もどきで呪文のようなトッピングを頼んでノートパソコンを開いて、カタカタ言葉を並べて会話するものだと思っていた。

 会長……地味っすね。いや、渋いですね。


 

 こうして、新学期から始まった謎の意味が分かり、新たな問題の幕開けとなる一日となった。



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