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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十三話 対面と思惑
172/353

#162



 ふと、高校二年に進級してからの日常を振り返る。


 時間が経過して、今だからこそ分かる言葉の裏に隠された意味が多くあった。

 何を考えて、どんな意図で発していたのか。


 分からないことは、柊茜という人物がどのような心境でこれまでの日々を静観していたのだろうか。


 純粋に、自分に相応しい相手かどうか判断していたのだろうか。

 それとも、自分の理想とする人間と、俺の性格や行動を照らし合わせていたのだろうか。



 ……その両方だろう。


 最初から、あの人は真良湊という人間が自分の目で確かめるために手元に置いたのだ。

 学年という壁を押しのけて余りない生徒会という、彼女の縄張りに引き込むことによって。


 生徒会長枠なんて強引な方法で加入させた理由も、やっと納得することが出来る。

 胸の奥底に秘めていた疑問が、意外な形で解消されるとは……。


 

 一人、残された部屋で思考を巡らせる。


 ……ここから、どうしたものか。


 見合い相手がまさかの知り合いだった展開なんて、予想もしていない状況だ。

 知り合いだから俺の出した答えが変わることはない。

 だが、安易な言葉で対応することが難しくなったのは言うまでもなかろう。

 

 言えることは、適当な断り方をしても会長相手なら反対意見を反対に返される……なんて、力技をされる可能性すらある。


 こんな状況だというのに、脳裏に浮かんだのは近くにいて、この場にいない二人の姿だった。 


 きっと、今頃は別室に控えている雫達は驚愕の表情を浮かべているに違いない。

 いや、綺羅坂も驚いているのだろうか?


 二人は昔からの親しい仲だ。

 会長の親父さんを見て、気が付かないはずがない。


 もしかしたら、受付で綺羅坂は気が付いていたのだ。

 今回の見合い相手が会長であったことを。


 だが、あえてその場では言葉にすることを辞めた。

 状況を困惑させることがないように。



 結果、俺が会長と対面するまでは周りに別段混乱はなかった。

 だからこそ想像できるのは、あの凍てつくような鋭い瞳が更に冷気を帯びているか否か。



 今回に関しては、俺が悪いわけではないのだが、背筋がゾクりと寒気を感じた。

 怖いなぁ……雫も最近怖い要素が増えているだけに心配である……自分の身が。








「湊君……」


 最初に部屋に訪れたのは雫だった。

 慌てた様子で、だが状況が完全に理解できていないのか困惑した様子で、消え欠けそうな声を掛けてきた。

 

「……」


 そして、その後ろからやってきたのが綺羅坂だった。

 言葉は発することなく、ただ瞑目して佇んでいる。


 しかし、醸し出す雰囲気は普段よりも張り詰めていた。


「悪いな……俺もまだ頭の中で整理している途中だ」


 いまは、彼女達を安堵させる言葉が見つからない。

 ただ、できることがあるとすれば、一貫して変わることが無い心境を伝えることだろう。


「会長が相手でも、答えは変わってない」


「そ、そうですか……そうですよね」


「まあ、真良君ならそう答えると思っていたわ」


 雫は自分に言い聞かせるように、そして綺羅坂は当然のごとく呟いた。

 だが、二人の肩が少しだけ落ちたように見えたのは、安心からだろか。


 そんな二人に苦笑を浮かべていると、問題の人物である会長が姿を見せた。


「悪いとは思っている……縁談が確定しているわけでもなく、問題が私個人ではないだけに、言うことが出来なかった」


 その言葉は、特に綺羅坂に伝えているように聞こえた。

 妹のように慕っていると、前に話していたほどの二人の関係だけに、衝撃は大きかろう。


 一瞬、表情を厳しくした綺羅坂だが、すぐに普段通りの澄まし顔に戻ると、興味なさげに告げた。


「別に気にしていないわ……茜さんが私に黙って、私の真良君を横取りしようとしていたことなんて、これっぽっちも、微塵も気にしていないわ」


「凄く気にしているではないか……神崎もすまない」


「いえ……ですが、会長がお相手だとは……でも、湊君には伝えても良かったのではないでしょうか?」


 当然の疑問を雫は投げかけた。

 俺も、そこについては問うつもりでいた。


 理由が分かっていれば、それ相応の対応をしていた可能性だってある。

 可能性だって……ある。


 もしかしたら、変わっていないかもしれないが、あるものはある。



 雫からの質問を聞くと、会長は考える素振りも見せずに答えた。


「最初は真良がここまで一貫した生徒だとは想像していなくてな。下手に繋がりを見せて人が変わったら苦労して君を生徒会に加入させた意味がない」


 つまり、それは俺が頑固だと受け取ってもよろしいのでしょうか?

 私情だけとも言える単純な理由だが、それ故に渋々だが納得する点もあった。


 俺でも自分の相手がどんな人間か、身近で観察しておきたいという気持ちは芽生えるだろう。

 だからこそ、似たような考えが頭に真っ先に浮かんでしまったからこそ、余計な言葉を口挟むことはなかった。


 でも、雫と綺羅坂は例外で、会長の言葉に完全に納得している様子はない。

 それを見た会長は、補足で言葉を続ける。


「これは完全に私情であって、理由を説明していなかった私に非がある、申し訳ない。だが、将来の伴侶となる人間を近くで見てみたいという乙女心を少しは分かっていただけると助かる」


 その一言に、場の空気は凍り付いた。

 一人だけ変わらぬ微笑を浮かべている会長。


 そして、固まった笑みで完全に停止してしまった雫。

 眼光で今にでも会長を貫かんとするほどの視線を向けている綺羅坂。


 状況は最悪だ。

 というか、あの人まだ可能性だけで、今回は確定ではないと言っていたではないか。

 二人を発破するための言葉だとすぐに察することが出来たのは、その事前の会話があったからだ。



「それは……」


「どういう意味かしら?」


 二人の言葉は同じで、会長に怒気を含めた問いかけを投げかける。

 それを正面から余裕の笑みで会長は受け止めた。


「言葉通りの意味だ、親も公認している縁談なのだ。近い将来関係が発展するのは必然だろう」


 会長の一言で、完全に場は崩れた。

 雫はガクリと膝を落とし、綺羅坂もふらりと体を揺らして、戸に体を預けている。

  

 想像以上に、彼女達へのダメージは大きいらしい。

 それを見て、会長はどこか楽しそうにしていた。


 お姉さんが、妹達をからかっているように。

 雫と綺羅坂には申し訳ないが、俺には二人をからかっているようにしか見えない。


 会長の真意は、他にあり今はこの可愛らしい後輩をいじって楽しんでいる。

 そんな風に見えてしかたがない。



「会長……俺の親父と会長のお父様は?」


 二人を見て、楽しそうにしていた会長に言葉を掛ける。


「あぁ、二人なら別室で話をしている。二人は旧知の仲だし本人や子供同士で話し合ってくれれば構わないと楽観的に見ているからね」


 あぁ……なるほどね。

 親父があまり気負っていない理由が分かった。


 会長の言葉に納得して、一歩引いた位置に戻ると、会長は二人に向けて再び口を開いた。


「真良は君達が隣にいる状況が当たり前ではないと知ったらしいな……だが、君達のほうこそ、彼がいつまでも自分達の近くで歩んでくれるとは限らないのだぞ?」


 声音は優しく、表情も微笑を浮かべていた。

 しかし、言葉にはどこか重みを感じる。


 雫も綺羅坂もそれを感じたのは、息を呑むように体に一瞬の硬直が走る。

 同時に二人に表情も、優れていない。


 何か、否定することのできない事実を突き付けられ、それを再確認したように傍から見ていた俺には見えたのだ。


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