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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十三話 対面と思惑

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#161

 会長は一連の流れを説明した。

 それを静かに聞き終えてから、俺は問わなければならない言葉を口にする。


「それは……恋愛感情が多少なりともあると捉えて平気という事ですか?」


 話の展開を整理して、言葉を再度脳内で繰り返し検討してから問いかけた。

 多少なりとも恋愛感情を持っていると言われれば、今回の縁談を前向きに検討していることも納得ができる。

 だが、そうでないなら、俺が理解を示すのは難しい。

 

 大人の事情で、なんて言われたら流石の会長でも俺は断ることを辞さないと考えていた。


「いや、恋愛感情というのは申し訳ないが感じていない」


 俺の問いに、一瞬の沈黙の後に出たのは完全な否定の言葉だった。

 潔く、悪気もない事実。


 それ自体に悪い気分を抱くことはない。

 会長へのフラグを立てていた記憶などないし、そもそも俺がそう何人もの人間の恋愛的攻略が出来る主人公補正があると思っていない。


 だからこそ、聞いておきたい。

 何故、俺なのか。


「じゃあ……なんで俺なんですか?」


 容姿も学力も人望も、比べるに値しない絶対的な差がある。

 接点など生徒会だけ。


 プライベートでも会うほどの交友関係があるわけでもない。

 疑問を抱く俺に、会長は落ち着いた様子で話し始める。


「私はこれまでの人生で特定の相手を好きになるということに縁が無くてね、異性と交際したことは一度もない」


「……」


「興味がないわけではない……言ってしまえば条件が合わないという言葉に尽きるのだろう」


 普段、同じ生徒と思う事すらおこがましいと感じてしまう程の孤高の位置に君臨している会長も、年齢が一つしか変わらない多感な女子高校生。


 恋愛などの高校生が過敏に反応する話題に興味がないわけではないらしい。

 それはそれで、親近感が抱かれて良いことだとは思うが……。


 しかし、その条件が合わないという言葉には、俺の中で二つの選択肢が浮かんでいた。

 一つは能力的な問題。

 会長ほどの人が、自分と能力が見合わないからダメだとは考えにくいが、これも一つの選択肢だ。


 そしてもう一つは、人間性的な問題。

 主に性格などの外面的な部分や学力などの能力的な問題ではなく、一人間としての問題。


 今の状況的には二つ目の人間性的な意味で条件が合わないというのが妥当な気がした。


「そんなに気が合う人がいないですかね」


 自分の考えを踏まえての問いに、会長は微笑を浮かべた。

 それが何を意味しての笑みなのかは、会長が口を開くまでは分からなかった。


「真良は余計な言葉を言わなくても近しい答えに辿り着いてくれるのが非常に助かる……だが、少し違うな」


 そう告げると、会長は話を続ける。

 これまで聞いたことのなかった、柊茜のプライベートな話を。


「私は皆から頼られる、誰かのために何かをしたいという信条で生徒会長になった。その選択に悔いなど微塵もありはしない……今後もその在り方は変わらない」


 だが……、そう言葉を切ると少しの間が空いた。

 会長の口元から漏れた吐息は、疲れを吐き出すように聞こえた。


「家庭でもそんな自分でいたいわけではない……私の言う条件というのはそう言う意味だ」


「つまり……主夫が欲しいと?」


 なにそれ、働きたくない将来の第一志望を主夫って書いている人には最高の条件ではないか。

 これは、世間に広まってしまったら会長への求婚が後を絶えないだろう。 

 ……まあ、そんな意味ではないのだろう。


 会長は冗談半分で聞いた言葉を、首を横に振ることで否定した。

 ですよね、分かっていました。


「私は人生の伴侶に求めるのは安心だ……完璧な柊茜を求めない、一個人として扱い、接してくれる人間が好ましいと思っている」


 会長は自分の理想の相手について語ると、淹れてあったお茶を飲む。

 話を一度区切るという意味があるように感じ、俺も同様に目の前のお茶に手を付ける。


「これでも男性からはそれなりに人気があることは自負している、だが、特定の相手を見つけてこない私に父も心配をしての縁談という提案に至ったというわけだ」


「それで、父親同士の交友があって年齢も近い俺ってことですか」


「ああ……だが、他にも何人か候補がいたらしいが全て断らせてもらった。真良だから受けたのだと思ってもらって構わないよ」


 それは……なんとも光栄なことだが。

 会長の理想が特別高いわけではない。


 言ってしまえば誰でも言いそうな理想だ。

 家庭では安心したい。

 ごく普通の考えであるが故に、難しいと思ってしまった。


 柊茜は非の打ち所がない人だ。

 容姿も学力もおそらく家事全般も。

 それを踏まえて相手は会長を捉えてしまうだろう。


 言葉では、家では完璧を求めはしないと言われても、相手の人間性が不鮮明な相手との縁談を断りたい会長の考えが少しだけ分かった気がした。


 その点、俺なら学校でも見ている分、それ相応の評価は出来ているはずだ。

 だが、前向きに検討していると言われるほどでもない。


「なんで……俺なら前向きに検討するんですか?……正直、そこまで高く評価されることをしているつもりはないですけど」


 純粋な疑問を投げかけた。

 俺だって会長のことを完璧な人だと思っている。

 俺が見てきた人の中で、彼女より優れている人はいないだろう。


「君は誰が相手でも自身を貫く……憧れや尊敬、感情で接し方が変わる人ではないだろう?」


「何故だろう……褒められている気がしない」


「ふふっ、簡単に言えば君はどんな時でも君自身であり、自分の能力以上のことは避けてそれでもどうしようもない時でも、自分の出来る範囲で解決する自己完結タイプの人だ。決して人に依存しない、だが相手には自分の考えを強要しない」


 それは……単にコミュ力が欠けているのでは?

 なんて考えが脳裏をちらついていたが、甘んじて会長からの評価を受け入れよう。

 他者からの賛辞は素直に受け取っておく、それが真良湊君スタイル。


 冷静に語る会長とは裏腹に、言葉を聞き漏らすことのないように神経を研ぎ澄まして、同時に脳内で自分なりに解釈と回答を考えていると、完全に聞き役に徹した形となってしまった。


「簡単と言いつつ、面倒な言い回しになってしまったかな?まあ、人の在り方を否定も肯定もしない真良が私には一番安心できる相手だと判断したってことだ」


 そう言って会長は立ち上がると、部屋の戸に手を掛けた。

 振り返り、微笑を浮かべると最後にこう告げた。


「私も大学は卒業したいし、真良にも自分の進路は進んでもらいたい。だから今回の話はあくまで将来の可能性の一つだ。真良がその気さえあれは婚約者ということになるな」


 最後に珍しくからかうようなニヤけた笑みを浮かべると会長は部屋を後にした。

 おそらく、別室にいる家族とその他二名を迎えに行ったのだろう。


 一人、貸し切り状態となった個室で溜め息が零れる。

 一人になれたことで冷静に状況の整理が出来たが、同時にすぐ目の前にまで迫っている修羅場にも似た場面が想像できてしまった。


 たぶん……あの二人は納得しないだろう。

 

「はあ……面倒なことになった」


 無意識に、他意などなく漏れたのは、相も変わらず普段通りの自分の口癖の言葉だった。


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