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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十二話 父親と息子

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#152


 後日談というか、これといった進展はなかったのだが、その後の話をしよう。


 あれから、一週間が過ぎた。

 夏休みは序盤こそ慌ただしい日々であったが、今は予定通り静かな日々を過ごしていた。

 

 白石との一件は、早々に答えが出る問題ではない。

 彼女自身が納得をして、どのような選択をするのかを待つしか、今の俺には出来ることはないだろう。


 彼女の当初の目的の生徒会長になることを貫くのか、はたまた実行委員を選ぶのか、もしくはそれ以外の第三の選択肢を選ぶのか。

 一人、考える時間が必要だ。


 ただ待つだけで良いものか、最初は考えたが白石も連絡をすると言っていたので、今はこの生活を充実するのも悪くはない。

 久々に訪れた、何も気にせずゆっくりと過ごしている休日は、あまり長くは続くことはなかった。




 昼下がり、リビングのソファーに妹と並び読書に更けこんでいた。 

 楓は隣で家計簿を書き、暇を見ては編み物をしたり、俺が読んでいる文庫本を覗き見してきたりと、ありきたりな日常を過ごしていたはずだった。

 

 今日の夕飯は何か、なんて考えをしているとリビングに設置された電話が着信の音を響かせた。


「私が出ます」


「ん……任せた」


 隣で楓が立ち上がると、トコトコと電話機に駆け寄ると受話器を耳に当て電話に出る。

 その様子を横目で確認してから、再び視線を目の前の文章に落とす。


 この本も何度か読み直しているので、そろそろ違う本でも持ってくるかと腰を上げると、楓が珍しく驚いたように声を荒立てた。


「お、お父さん!?どうしたんですか、急に電話して……」


「親父……?」


 電話の相手が父親であることを知ると、半ば立ち上がっていた腰を再び下ろす。

 あの人は電話をすることは珍しい。


 本当に用があるとき以外は絶対に電話をしないからこそ、その要件が急を要するものなのだとすぐに察した。


「はい……いますけど」


 楓は目線をこちらに何度か向けているのを見て、傍へと歩み寄る。

 そして、受話器を無言で受け取ると耳に当て、言葉を発した。


「久しぶりだな……親父」


『湊か、久しいな』


 久々の親子の会話は、電話越しで実現された。


「珍しいな、電話だなんて」


『あぁ……本来なら家に帰って話したい内容だったのだがな、夏季休暇まであと数日はあるから先に伝言だけでもと思ってな』


 相変わらず、覇気の感じない話し方と声音に親子であることを実感する。

 自分の話し方と似ていることに、嫌になる気分を抑え続く言葉を待つ。


 この人との話で余計な言葉は不要だ。

 互いに親子での会話を好まない人間同士、そこだけは似ているから。


『見合いの段取りが決まった』


「は?」


『俺が日本に戻ったらすぐにお相手と会ってもらう予定だ』


 一方的に淡々と述べる父に、苛立ちを覚え反発の言葉を口にしようとした瞬間、俺の受話器を取り上げて怒鳴る妹の姿があった。


「兄さんの話はお母さんが断ると言っていたはずです!そもそも、私も兄さんも納得していない話のはずです!」


 あ、うん、そうだね。

 確かに納得していないし、それ以前に話すら忘れかけていたまである。


 母さんも親父に見合いなど断るように伝えておくと言っていたことだし、問題もあるまいと頭の隅に置いてた問題を突き付けられ楓は表情を強張らせて珍しく低い声音で告げた。


「ともかく、電話でなんて納得できませんので、このお話はお父さんが帰ってきてからにしてください!」


 そう言って大きな音を立てて受話器を置くと、興奮したように肩で息をして楓は電話を切った。

 そしてギロリと目をこちらに向けると、無言で近づいてくる。


 何か悪いことしたわけでもないのに、その迫力に思わず後ずさっていると予想外にも楓は隣を通り過ぎてテーブルの上のスマホを手にした。

 鬼の形相で画面を操作していると思うと、すぐに耳元に当てる。

 

 誰に電話をかけているのか、静かに様子を見守っていると楓は開口一番大きな声で告げた。


「雫さん!緊急事態です!」


「あぁ…………」


 楓の一言で全て理解した。

 この後の自分の境遇も、状況も、逃げることが出来ないことも。

 

 力が無くなったようにソファーに腰掛けると、数秒でインターホンが鳴ったことで全身に緊張感が走った。



最近、更新が遅く申し訳ありません。

執筆速度を上げる努力をします。

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