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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十一話 提案と選択

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#150


 二人掛けの椅子にテーブルを挟んで、対面しているのは一人の少女。

 そして、彼女の向かいに座っている俺とその隣には優斗が腰掛けていた。


 

 昨日の話し合いから一夜が過ぎた。

 結局、我が家で夕飯をご馳走してから、最後の確認程度にもう一度彼らの意思を確認してから解散となった。


 優斗には話通り、今日の白石との話合いに参加してもらうべくこうして同じ席に腰掛けてもらっているわけだが……



「それにしても今日は天気が良いね」


「そうですね……快晴ですが蒸し暑くなくて良い天気だと私も思います」


「……」


 中身の無い会話。

 両者が互いにまともに会話をすること自体が初めての為、探りを入れているのか似たような質疑応答が続いていた。

 

 かれこれ十五分ほど。

 自己紹介も兼ねての会話だけに、余計な口出しをしていないが、このままでは無限ループにでも陥りそうな勢いだ。

 

 三人の中で一番このような場に適していると判断して優斗に頼んだのだが、相手が悪かった。

 優斗の話術は昔から同じで、最初に互いの情報を共有してから親しみを感じてもらえる所から深く歩み寄る。


 意図してやっているのではなく、自然体で行っているのが彼の凄いところなのだが、それを意図して行っているのが白石だ。

 事前に予想していたであろう質問の回答を淡々と答え、それに似た質問を自分も投げかける。

 

 似た者同士、意外と早く親しくなれるかと思っていたのだが、反対に距離が離れているように感じる。


「荻原先輩は休日はどのように過ごされているんですか?」


「友達と遊んだり、あとはジムで体を動かしているよ」


「お見合いかよ……」


 このままでは『ご趣味は?』なんて、お決まりのセリフが出るに違いない。

 流石に突っ込みを入れると、二人はこちらに視線を向ける。


 その瞳からは救援を求む意味を伝えてきているようだった。


「あー……二人とも紹介も終わっただろうから本題に入ろう」


 一言、苦手な進行役を請け負うと、話を切り出す。

 俺の言葉を合図に二人は真剣な表情に変える。


 白石は前のめりに、優斗はゆったりと背もたれに体を預けてる。

 しかし、瞳だけは真剣にこちらに向いていた。



「結論から言うと……優斗を含めた三人を生徒会に加入させるのは難しい」


「そうですか……」


 俺の言葉を聞き、一度だけ白石は優斗に目を移すと悲しそうに微笑みを見せる。

 大して驚きもしないのは、ある程度予想は出来ていたのだろう。


 彼女からすれば、否定的な意見をどうすれば変えることが出来るのかなのだから。


 だから、白石の待っているのは次の言葉。

 俺が告げたもう一つの可能性。

 

 白石にはまだ伝えていない実行委員という組織での活動についてだ。


「それでだが……代案として二学期の桜祭実行委員でなら期間限定ではあるが同じ組織で活動できるとは思うんだが……」


「桜祭……ですか?」


 生徒会として優斗たちと活動をしたいという白石の考えとは違う提案になってしまっているのは分かっている。

 だが、それでも全員が納得する案など俺の頭では思いつかなかった。


 これが最善で、最良。

 最低限の要望を叶えられる可能性を残した答え。


 次いで説明を述べようとするが、白石は短い言葉で意味を察したらしい。

 俺がどういう経緯でこの話を持ち掛けたのか。


「確かに実行委員でなら皆さんと一緒に活動も出来ますね……」


「そうなれば生徒会という前提条件は諦めてもらうことになる」


「私の記憶が正しければ実行委員と生徒会は協力はしても別の枠組みですからね」


 流石は委員長のあだ名は伊達ではない。

 学校行事の知識に関しては既に予習済みであった。


 まあ、委員長ってあだ名は俺が適当に付けただけだが。



 提案について考えているのか、白石はその場で黙り込む。

 願わくば、俺が一つだけ危惧している点に気が付いてほしくないところだが……彼女はおそらく気が付くだろう。


 昨日の夕食の際、雫から指摘された問い。


 それは優斗も、雫も、綺羅坂も俺から話を聞いた際にまず脳裏に浮かんだ疑問だったという。

 彼らと解散した後も、自室で何度も検討を重ねたが、俺自身ではどうにもならない問題だった。


「仮に……仮にですが実行委員に加入して、尚且つ生徒会に当選した際は問題が発生するのでは?」


「……」


 やはりと言うべきか、そこの問題点に彼女は気が付いた。

 掛け持ち、ダブルワーク。


 実行委員と生徒会役員という仕事が掛け持ちが出来るのかという問題点を、白石は指摘した。

 会長に実行委員の話を持ち掛けた時点で気が付いていれば、何ら問題もなかったのだが、こればかりは失念していた。


 いや、少々舞い上がっていたのかもしれない。

 人に頼られること自体が珍しく、そして協力すること自体も稀であることから、普段通りのしつこいくらいの自問自答を繰り返して答えを出していれば、簡単に気が付くことのできた指摘だ。


 なんと切り返して言葉を返そうかと考えていると、隣の優斗が口を開く。


「それに関してはあまり問題はないんじゃないかな?」


「と、いいますと?」


 優斗の言葉に白石が再度問いかけた。

 俺も優斗の言葉に耳を傾けて待つ。


「柊会長が湊に掛け持ちになると説明をしていない時点で、俺達が考えている問題は無いんじゃないかな?」


 優斗の言葉は、説得にはあまりにも言えない言葉だった。

 だが、桜ノ丘学園に通う生徒にとっては十分な言葉でもあった。


 柊茜は常に正しい生徒である。

 彼女の言動や行動に間違いはないとまで言われるほど、絶対的な支持と結果を残してきた。


 だからこそ、たったそれだけの言葉で白石は押し黙る。


 そこに追い打ちをかけるかのように、優斗は優しく微笑んで告げた。


「生徒会の話はあまり気乗りがしないから、正直に言うと断ると思うけれど……俺も白石さんと一緒に実行委員会でなら活動に参加したいと思っているよ」


「っ!?…………」


 決まりました。

 荻原優斗の得意技の女性キラースマイル。


 同学年だけでなく、女性であれば必ず赤面してしまうと巷で噂の必殺技が炸裂しました。

 白石も例外ではなく、少しばかり頬を赤らめ俯いてしまった。


 このスマイルを受けて無事だったのは雫と綺羅坂くらいだろう。

 ……あの二人は一般の生徒と同じと考えてはいけない。



 ともかく、優斗のスマイルを一身に受けた白石は突然席から立ち上がると、少し離れたところで立ち止まりこちらに向かい手を振る。

 俺を手招いているように見えたので、何かと近づいてみると、ひそひそと小さな声量で呟いた。


「ももも、もしかして荻原先輩って女たらしなんですか!?」


「……あれが素なんだよ」


「あ、あれが素ですか!?やべぇですね……あれは普通の私だったらときめいてました」


 普通と普通でない二つのフォルムでも持っているのかこいつは……。


 前言撤回しよう。

 一般の生徒と同じで考えてはいけないのは雫と綺羅坂の二人ではなかったらしい。


 この場にも、もう一人例外と考える生徒がいた。



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