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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十話 後輩と本性

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#149



 三人一緒、優斗らしい発言だ。

 咄嗟に、優斗の発言の後に何かしらの悪態をつくであろう人物に視線で牽制を入れる。


 綺羅坂は自分のことだとすぐに理解したのか、開きかけた口を閉じて押し黙る。

 絶対に何かしら言うと思った。


 「三人ではなく四人の間違いでは?」とか、上げ足を取るように優斗をからかうことを楽しみにしているようにすら思える。



 ともかく、これで事前の準備で俺が出来ることは終わった。

 あとは、白石本人と対談して、そこで生徒会ではなく実行委員の活動で眼前の三人と共にイベントを作り上げるということで納得をしてもらうだけだ。


 だが、それも容易ではない。

 白石と話をした感触では、自分の意思を簡単に曲げるタイプではない。


 意志が固い、もしくは意地にも感じる。


 説得なんて類は、俺に最も苦手な分野だ。

 人の意見を反対することや、否定的な意見を饒舌に連ねることは出来るのだが、納得させて説き伏せるのは本当に苦手なのだ。


 実際、今回も説き伏せたというよりかは、雰囲気の中でメリットが彼女達にあったから賛同してくれているだけで、俺自身が何かをしたわけではない。



 こういう時こそ、会長に頼みたいところだが……あの人は手伝ってはくれないだろう。

 選挙に関しては中立で不干渉を宣言しているからな。


 これも言ってしまえば間接的だとしても、これも生徒会選挙に関わる問題だ。


 人を納得させるという点に関して、あの人ほどの適任はいないのだが。

 

 目の前に座る三人を順に見据えて考える。

 


 綺羅坂はまず無理だろう。

 彼女は説き伏せるというよりかは、攻め落とすタイプだ。


 短い会話から相手の弱点を見極め、そこから相手を否定できないまでに攻め落とすスタイルだ。


 そして雫もこれに関しては苦手分野になる。

 彼女は優しすぎてしまう。


 相手の意見を聞いて、どちらも叶えることが出来る可能性を探してしまうだろう。

 そうなれば、今と同じ状況に逆戻りになってしまう。


 となれば、必然的に頼めるのは一人になる……


 その考えに俺が至ったと同時に、雫が聞いてきた。


「それで、この後はどうする予定になっているのですか?」


「あぁ……一応俺の連絡先を教えてあるから電話が来るまで待機だな」


「それじゃいつ連絡が来るか分からないじゃない。なんで相手の連絡先を聞いておかないのよ」


 鋭い指摘が胸を刺す。

 正論過ぎてぐうの音も出ない。


 だが言えない……思春期男子特有の女子に連絡先を自ら聞くことは、相手に気になっていますとアピールしているかのようで、下手に勘違いされたくなかったということは。

 そもそも、女子と連絡先を交換したことなんて人生で一度もないから、うまく話を進める方法が分からない。



 これが教室の端で過ごしてきた弊害か……覚えておこう。

 ただ次回に活かせるかはノーコメントで。



 女性二人からの鋭い視線が静かな空間を支配して、背中に冷たい汗が流れる中、救いの手を差し伸べたのは優斗だった。


「白石さんなら俺も連絡先知っているよ?」


「……おぉ……おぉ?」


 流石学園の女子から強い人気を誇る荻原優斗君。

 君のアドレス帳には一体何人の連絡先が保存されているのか、疑問が浮上したが今は問うまい。


「……」

「……」


 ただ、女性陣からの視線は冷たいものだった。

 いや、まあ何となく理由は分かる気がする。


 入学して間もない一年生の連絡先を知っている時点で、他学年ともそれなりのコミュニケーションをとっている証拠だ。

 軽い男と思われても致し方あるまい。

 

 女性キラーは伊達ではない……。


 だが、今回ばかりは助かった。

 代わりと言っては何だが、優斗のフォローの言葉を口にする。


「助かる……交友関係の広い奴が身近にいてよかったと初めて実感したよ」


「いやいや、そんな褒めるなよ―――」


「じゃあ電話貸してくれ」


「……お前って本当に冷たい奴だよな……もう少し褒めてくれてもいいだろうが」


 不機嫌そうにポケットの中からスマホを取り出すと、それをこちらに差し出す。

 画面には『一年生 白石さん』と写る画面で既に通話が開始されていた。


「サンキュ……後でジュースでも奢ってやるから」


 それを受け取って告げると、「よっしゃ!」と簡単に喜んでいる優斗の姿があった。


 

 一定の電話が繋がる前の機械音が鳴り、数回くらいして相手は慌てふためいたような声を上げて電話に出た。


『ははははははは、はい、こ、こちら白石紅葉です!』


「……悪いな優斗じゃないんだ」


『なんだ……その声は真良先輩ですか』


 あからさまにテンションが下がったのが分かった。

 この子本当に分かりやすい性格をしている。


 表情は見えなくとも、今どんな顔をしているのかが容易に想像できた。


 ごめんね、憧れの荻原先輩じゃなくて……


 溜息すら聞こえてきそうな低いテンションの白石に用件だけを短く伝える。


「近いうちに空いてる日はあるか?……今後の相談をしたいから前の喫茶店で話がしたい」


『相談?……ああ、今日の話ですか……そーですね明日とか時間ありますよー』



 完全に投げやりな返答だ。

 やる気の欠片も感じない声に、苦笑いを浮かべて再び問いかけた。


「……じゃあ明日の午後一時で大丈夫か?」


『はーい』


「んじゃ、明日優斗連れて行くからな」


『え!?ちょっ本当です―――』


 そこで通話は切られた。

 いや、切った。


 完全にやる気のなくなっていた白石に最後の置き土産をして、こちらから通話を切ると借りていたスマホを優斗に返す。


「助かった」


「どういたしまして。俺も明日行くことになってたのね」


 事前に承諾も得ずに決めていたことに、優斗は苦笑いを浮かべるだけで無理だとは言わなかった。

 まあ、こいつも部活に入っているわけでもないのでどうせ暇だろう。


 それに、この中で話をうまく進められそうなのは優斗だ。


 連絡先も交換していたのが最後の決め手となり、明日の話し合いは彼の手を借りることにした。

 まあ……勝手にだが。


  

 これでどうにか地固めは整った。

 あとは明日の会話次第だ。


 既に外は暗くなり、夕飯時にはちょうどいい。

 急遽時間を作ってもらったせめてもの礼として、三人に提案した。


「夕飯食べていくか?」


 その問いに、三人は当然とばかりに頷いて見せた。



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