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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十話 後輩と本性

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#148



 夕刻、普段通りの日常であれば、風呂にでも浸かって一日の疲れを癒しているであろう時間帯に真良宅に複数人の男女が集まった。


 いや、集まってもらった。

 正確には雫は俺が自宅へ赴き呼び出し、綺羅坂と優斗は楓に頼んで時間を作ってもらった。


 全員が集まったのを確認すると、楓が各々の前にコーヒーを配り、行き渡るのを確認してから話を切りだす。


「急に呼んで悪いな……」


 向かいに座る彼らに一度頭を下げてから、反応を伺う。

 優斗はいつも通り頷いて笑っている。


 綺羅坂も腕を組み瞑目して座っていた。

 だが、雫だけは不満げに頬を膨らませてこちらを睨みつけている。


「私はまだ今日のことを納得していません」


 そう告げた雫は、同意を求め隣の綺羅坂に視線を移す。


「私も同意見だけれども、こうして呼ばれたということは話してくれるという意思の表れということで猶予はあるわね」


「なんの猶予だよ……」


 相変わらず物騒な物言いに、一つ息を零してから優斗に目を向ける。

 こいつだけは何の話し合いで呼ばれているのか分からず、ただ状況に任せてこの場にいる。


「悪いな、ちょっとお前にも関係のある話が出てきてな」


「暇だったし気にすんなよ、それで俺も関係あるってのは生徒会の話か?」


 優斗も俺が今日まで生徒会の勉強合宿に参加していたことを知っている。

 必然的にその生徒会の話で自分が呼ばれているのだろうと察していたらしい。


 

 察しの良い奴だ。

 優斗の問いに頷いて答えると、本題に話を進める。


「その話ってのは生徒会長選挙のことでな……副会長の小泉以外に立候補が出たことで少し問題が出た」


 俺は優斗に一連の流れを説明した。

 小泉が生徒会長になるのだと思っていた矢先、白石が生徒会長に立候補したこと。


 そして、その生徒会には雫と綺羅坂、そして彼も参加してもらいたいと考えている白石の意見。

 それに彼女達二人は否定的な意見であること。


 最後に締めくくりとして、白石はとても不器用で、それでいて非常に秀でた頭脳から会話の流れを予想して人と話をしている。

 何より、自分の理想を強く抱き、実現することを望んでいることを。



 話せる範囲でだが、少しでも状況が分かるように細かく説明をすると、優斗は質問を投げかけた。


「それで、白石さんって子は俺達にこだわる理由は聞いたのか?」


「……」


 至極当然の質問だ。

 しかし、この質問の答えには大半が白石の私情である。


 だから、この問いには少しばかり曖昧な回答をした。


「あいつがお前たちと一から何かを作り上げたい……そう言っていた。あとは本人に直接聞いてくれ」


 どのみち近い将来、彼らは相対する。

 私情の部分に関しては、本人に言ってもらうことにしよう。


 優斗は話を整理しているのか口を閉ざす。

 その間に、他の二人に目を向けるが依然として彼女らの考えは変わらないらしい。


 雫は首を横に振り、綺羅坂は反応すら示さない。


「……やっぱり考えは変わらないか?」


「はい……私達が出る必要もないでしょう」


 確かに、雫は現生徒会のメンバーも非常に優秀であり、自分たちが加わる必要もないと断言していた。


 三人が 生徒会選挙に出れば、まず間違いなく当選するだろう。 

 そうなれば、自然と今の生徒会から誰かが抜けることになる。


 それを良しと思わない雫は、相変わらず意見は変わらない。

 綺羅坂に関しては興味すらないのか、静かにコーヒーを飲んでいた。


 

 そして自分の意見がまとまったのか、優斗は再び会話に参加する。


「うーん、湊と生徒会ってのも楽しそうだから悪くはないんだけどな……今の生徒会の人達を押しのけて参加したいとも思わないな」


「そうか……」


 優斗も似たような意見だった。

 だが、同時に安堵した。


 全員が生徒会に参加したい意思がないのであれば、話はこちらとしては進めやすい。


 三人の意見が出たところで、代案となる実行委員について話を切り出すことにした。


「じゃあ……二学期の桜祭実行委員会に参加するってのはどうだ?」


「桜祭実行委員ですか?」


 最初に反応を示したのは雫だった。

 桜祭の実行委員会については説明する必要もなく、彼らは認知している。


 どのような活動をしているのかも、去年の文化祭と体育祭を経験しているから当然だ。

 

 一見、反応から悪い印象ではないのが分かり、更に加えて言葉を繋ぐ。


「俺も生徒会としてだが参加する、実行委員なら期間限定だし優秀な生徒は多い方がいい」


「それは……そうですね、去年も忙しそうにしていたのを覚えています」


 ……これはいけるかもしれない。

 雫はあと一押し、何かしらの利点を提示すれば参加してくれる可能性が見えてきた。


 ここで否定的な意見が出て、彼女の考えが揺らぐ前に次の人物に話の矛先を変える。


「……綺羅坂もよかったら―――」


「嫌よ」


「早いよ……」


 懸念していた通り、綺羅坂は否定的だった。

 きっぱりと拒む意思を示すと、矢継ぎ早に言った。


「私はあの手の組織活動は苦手なの、それに私が参加することでメリットがあるとは思えない」


 ……確かに、こいつは団体行動とか苦手だろうな。

 そういった点では俺と似たような奴だ。


 それに教師が言う様な「活動を通して得るものがある」だなんて、言った所で効果はない。

 俺がそうだ。

 

 そんなもの、組織内で楽な位置で活動していた人間のみが得られるもので、大半は大変だった、疲れた、もうやらないなんて、マイナスな意見ばかりだ。

 

 だからこそ、彼女の説得は面倒だ。

 持ち得ている駒が少ない分、身を切るしかない。


「俺に可能な範囲であれば一つくらい要望を聞くが……それでもたかが知れているし―――」


「やりましょう」


「……切り替えも早いな」


 あまりの切り替えの早さに唖然としていると、綺羅坂はニヤリと口元を歪ませる。

 その表情は、何か企んでいるときの彼女の表情だ。


「もう言質は取ったから、これから取り消すことは出来ないわよ」


「……何企んでるんだ」


 そう問うと、彼女は意味深に微笑むだけで内容は話ことはなかった。

 何を言われるか分からないのが、一層警戒心を強める。


「私が嫌だと言ったら、あなたの性格上何かしらのメリットを提示してくるのは容易に想像できること……あとは、あなたが提示してくるか。人の手を借りるのが嫌いなあなたは自分の出来る範囲で願いを聞くというと予想できたわ」


「まるで悪者みたいな発言だな……」


 自信満々にソファーに深く腰掛けた綺羅坂は、それ以上は話すことはなかった。

 自分の予想通りに事が運んだことで納得したらしい。


 でも、これで面倒な相手は解決した。

 今一度雫に問うため視線を移すと、雫の表情に迷いはなかった。


「私は……活動後に一緒に帰ってくれれば満足です」


「そうか……それくらいなら別に構わない」


「ただ一つだけ聞かせてください」



 雫はそう告げると、一度視線を下に落とす。

 そして、少し不安が混ざったような声音で聞いてきた。


「なんで……そこまで湊君が白石さんを手伝うんですか?」


 雫は俺のことを誰よりも近くで見てきた。

 彼女からすれば、俺が特定の人物のためにここまで協力的に動くことは不自然なのだろう。


 雫の言葉に、いままで静かに会話を見守っていた優斗も同様に問うた。


「それは俺も聞いておきたいと思っていた……湊らしくはないよな」


「俺らしくないか……」


 周りとは必要以上に接することなく、楽に生きることを第一としてきた。

 面倒な事は避け、たとえ一人になるとしても自分の考えに反するのであれば構わない。


 それは今でも変わらない。

 でも、今はその信条に反した行動をしているのだろう。


 これは自己満足なのだ。

 以前に二人からの願いを断り、勝手に憶測を立てて間違った判断をしていた自分への戒め。



「白石に頼まれた時の姿がな……春休みのお前達と似ていたからかな」



 短く、そう答えた。

 これで雫と優斗から嫌味を言われたとしても仕方がない。


 前回は断って、今回は受けたのだから。

 特に、優斗と今までとは少し距離が空いてしまったのも、あの一件が発端になっている。


 都合の良いことを言っているのは重々承知している上で、そう告げると二人からの反応を待つ。



「じゃあ……今度は三人一緒だな」


 優斗はそう言うと、いつものようにあどけなく笑って見せた。


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