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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十話 後輩と本性

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#147


 夏の日差しが肌を刺激する。

 もはや不健康なくらいに白い肌は、今年は幾分か焼けて夏休みを過ごした高校生らしい姿になるだろう。


 部屋に閉じこもって、自堕落に時間を消費する学生にのみ許された長期休みを過ごすはずが、一転して脳内にはスケジュールが所狭しと書き込まれいる。


 夏休みの始まりから終わりまでの日数。

 生徒会選挙が始まるであろう時期とその日数。


 それに伴って、数人の人物と話をする必要がある。

 課題を終わらせるまでの時間については、今年はほとんどが終わっていることが何よりも幸いだ。



 大半の人が、一か月近くある夏休みの予定がたったそれだけかと思うだろう。

 だが、あえて言わせてもらおう。


 当初の予定は、朝起きて、ご飯食べて、本読んで、風呂に入り、寝る。

 完全に室内系男子のはずだったのだから、大いに変化しているのだ。



 

 あれから数刻が過ぎ、会長との話を終えて自宅に帰宅すると、冷房の効いたリビングでテレビも電気も付けることなくソファーに身を投げた。

 想像以上に顔面に衝撃が強く、思わず鼻から出血するかと思った。


 むしろ、鼻水を鼻血と勘違いしたまである。


「……どうしたもんかね」


 ただの独り言で、答えを求めて発した言葉ではない。

 けれど、意図せずして返事は返ってきた。


「何がですか?」


「……楓も帰ってたのか」


 買い物袋を手に提げた楓が、リビングの入口に立ち小首をかしげて問いかけた。

 楓は少しだけ額に汗を流し、体に籠った熱気を逃がすかのように、エアコンの風向きに移動しながらこちらを見据える。


 楓からすれば不思議な状況だろう。

 課題を終わらせる合宿に行っていたはずの兄が、帰ってきてみればリビングで独り言を言っていたのだから。


「商店街に買い物に行っていただけですから。それで、兄さんは何か悩み事ですか?」


「俺の悩み事ではないがな……生徒会関連の話でちょっとな」


 隣に腰掛けた楓は、袋の中からアイスコーヒーを取り出すと、ちびちびと飲みながら話を聞いていた。

 相変わらず距離が近いので、帰ってきたばかりの楓の体に帯びている熱気が腕に伝わってきた。


 問題の根幹も、回答も分かっている。

 けれど、そこに辿り着くまでの道筋が繋がらない。


 手っ取り早く解決する方法は分かっているのだ。

 雫達三人に頭を下げて、頼んで、協力してもらうように仰げばいい。


 大口叩いて何もできませんでしたと報告するくらいなら、俺のちっぽけなプライドなんて簡単に捨てる。


 だが、その方法は彼らに頼ると言えば聞こえはいいが、押し付けにもなる。

 実行委員会の案では、俺は生徒会として活動があるので手伝いを進んで出来るわけでもない。


 俺は出来ないけど君達は頑張ってくれ!……なんて、人間性を疑われかねない。

 簡単に頼めて、尚且つ引き受けてくれるであろう交友関係だからこそ、負い目を感じてしまう。



 楓は俺の声音と表情で真面目な話なのだと察したのか、逆に明るい声音で言った。


「兄さんは昔から考えすぎな所がありますから……とりあえず雫さんに相談してみたらどうでしょう?」


 そう言って指差したのは向かいの家の一室。

 一つだけ明りの付いた、雫の部屋がある窓だった。


「…………」


「兄さんの高校の話となれば私は余計なことは言えませんし、雫さんなら今更恥ずかしがることもないでしょう」


 いや、雫さんが本題でもあるのだよ妹よ。

 むしろ、雫さんが本題なのだよ。


 学校で別れた際もどこか不機嫌そうにしていたのもあり、足が重い。


 しかし、結局のところ話をすることは変わりない。

 それが早いか遅いか、それだけだ。


 本当なら、俺の中で地固めをしてから話を持ち出したかったところだが、早めに動いたほうが良いのは確かだ。

 

「……俺のスマホから優斗と綺羅坂に連絡してもらっていいか?俺は雫を呼んでくるから」


「了解しました!」


 テーブルの上に置かれたスマホを指差して頼むと、敬礼のポーズをする楓に一度頷いてから、向かいの神崎宅に赴くことにした。


次話から展開が早くなる予定です。


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