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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十話 後輩と本性

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#145


 白石をなぜ手伝うのか。

 義理も親しくもない間柄の相手に協力をするのは、むしろ不信感しか抱かれないはずだ。


 それでも、彼女を手伝う理由を述べるのであれば、脳裏に二人の友の顔がちらついたからだ。


 過去の失敗から、学んだと断言することはできない。

 だから、ただの気まぐれ。


 白石を手伝うことに、個人的な想いがあるわけではない。

 今は、そういうことにしておこう。




「ほほほ、本当ですか!?」


「落ち着け……可能性の話だ」


 生徒会以外の方法で、協力できることはあると告げると、白石は瞳を輝かせて前のめりに会話を進めようとした。

 それを左手を前に出して制す。

 この話を進める前に、一度確認しておきたいことがあった。


 それをはっきりとさせない限り、この方法は彼女に期待を抱かせて終わってしまうことになりかねない。


 今は夏休み序盤。

 まだ、約一月も登校日までは時間がある。


 生徒会選挙は、二学期からが本番となるので俺が考えている方法であれば、今すぐに行動しなくとも問題は無い。


「今日は一旦解散しよう……俺も少し調べたいことがあるから」


「で、でも、まだ具体的に話を聞いてませんし……」


「確証がない案を話すのは期待だけ持たせることになるかもしれない……とりあえず今日はここまでだ」


 不満げに納得いかないように渋っていた白石を何とか説得して、俺達は別れた。

 白石は自宅へ、俺はもう一度、桜ノ丘学園の生徒会室に向け歩き出す。


 別れ際に、俺の電話番号だけ伝えて、後日彼女が暇な時間に電話をしてくれと頼んでおいたので、連絡手段で気には問題はなかろう。

 いや、お互いに連絡先を交換するのも考えたのだが、何故だか女子の連絡先を聞くことに抵抗があり、こちらの電話番号だけ伝えるという非効率極まりない結果となったのは言うまでもなかろう。



 夏の一日は長い。

 太陽も頭上を少し過ぎた程度で、まだ子供たちも走り回っている時間だ。


 おそらく、あの人はまだあの部屋にいる。

 部屋の主のように、そこに居座っていることだろう。


 確証はないが、確信はある。


 噂にすぎないと思っていたが、学園に通う生徒の全員の名前と顔が一致しているという会長が、俺が気付く程度のことを知らないに気が付かないものなのかという疑問に至ったのは、つい先ほどの事だった。

 それこそ、白石と喫茶店で会話をしている時に気が付いたことだった。


 過剰な期待かと思ったが、それでも考えてしまう。


 急かす心境とは裏腹に、進む歩はゆっくりとしていた。

 走って生徒会室にたどり着いて、冷静な判断が出来なければ意味がない。


 ゆっくりと、だが確実に進む足取りで歩くと二十分ほどで学園に戻ることが出来た。


 依然として、静かな校内。

 視線の中には生徒の姿はない。


 来た道を戻り、目的の部屋の前にたどり着く。


 そして、重苦しい鉄の扉をノックして甲高い音を鳴らせると、返答を待たず戸を開けた。

 蒸し暑い夏の気温から、ひんやりとした室内の空気が心地よい。


 暖気を室内に入れぬよう、素早く戸を閉めると、視線を部屋の主が座る場所へと向ける。

 やはり、彼女はそこにいた。


「やあ真良、意外と早い戻りだな」


「俺が戻って来るなんて言った覚えないですけどね……まあ会長からすれば戻ってくる計算だったってことですか」


 生徒会の主である柊茜は、俺を送り出した時と変わらぬ笑みを浮かべて椅子に腰かけていた。

 さながらラスボスのように、鎮座していた。


 会長以外、無人の生徒会室にある自分の席に腰掛けると、会長と視線を交わせる。


「それで、話はどのように進んだのかな?」


「そうですね……」


 話と言うのは、俺と白石の会話のことを指していることは、言われずとも分かった。

 説明をする上で、会長がどこまで把握しているのかを確かめなくては、先に進まない。


「会長はどこまで知っているんですかね」


「どこまで……そうだな、少なくとも白石と真良が今日話をしていた内容は知らないな」


 つまりは、それ以外は知っていることになる。

 白石の本当の性格を、会長は知っていることになる。


「あいつが昨日生徒会室に来た時、見せていた様子も演技ってことですか」


 驚いた表情、少し怒気の含んだ声音、その全てが演技だとすれば、それは迫真の演技だ。

 まるで見抜けなかった。


「これでも君達より、少しは世渡りが上手いと自負している……」

  

 苦笑を浮かべた表情から、会長も本意ではなかったのだろう。

 立場は時として、本心とは違う言葉や姿を見せなくてはならない時がある。


 それに、見抜けなかった時点で、俺達にも原因はある。

 会長なりの考えがあっての行動だ、何も言うまい。


「白石がどのような生徒なのか、それに生活態度や学業はもちろんだが、それなりに私も調べている……普段とは違う様子なのもすぐに分かった」


「じゃあ、あいつが立候補した動機も?」


「いや、それについては先ほども言った通り、昨日聞いたところまでしか知らない」


 だから、そう続けた会長は繰り返し問いかけた。

 今日、俺達が何を話したのかを。


 どこまで話したらいいものなのか。

 情報を整理して、必要な言葉を探す。


「少し……長くなりますよ」


「構わない、時間は充分にある」


 会長は微笑んでそう言った。

 

 前置きを長々しく話しても、分からいづらくなる。

 だから、まず最初に俺の考えた手を貸す方法を述べた。


「白石には、桜祭の実行委員長に立候補させようかと思っています」


 その言葉に、会長は楽しそうに頷いて見せた。



桜祭については次のページで説明があります。


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