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平凡な俺と非凡な彼ら   作者: 灰原 悠
第二十話 後輩と本性

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#143



 平日の昼下がり。

 夏休みに突入した学生にとっては自由な時間だが、周りはそうではない。


 今も窓の外を社会人が忙しなく歩いている姿を目にする。

 そして、その姿を眺めつつ、俺は優雅にコーヒーを啜るという、学生にのみ許された時間を過ごしていた。



 現在の居場所は駅前の喫茶店。

 一方的にだが、白石と約束を交わした場所で一人待機していた。


 店内には同じように夏休みなのか、大学生くらいの若者が数人、そして遅めの昼食を食べに来ていた会社員が一人。

 それ以外は既に店外に出てしまっている、静かな店内で待ち人をボーっと窓の外を眺めながら待つ。


 この状況、英語の新聞やリンゴマークのノートPCでも持っていてれば、完全に意識高い系男子になれる。

 高すぎて、もれなく周りに引かれるという特典が高確率で付いてくるが。



 よく、スタバとかで目にするが、あの人達は何故あのような場所で作業をしているのか謎である。

 周りからの視線や騒音で集中力が乱れ、逆に効率が悪いと思ってしまうのは、俺が意識高い系男子ではないからだろうか。


 しかし、これも偏見なのだろう。

 一種の凝り固まった考えで、本人達から言わせれば効率が良いのだ。


 一体、いつからこの手の嘲笑にも似た考えが生まれたのか、一考の余地がある。

 むしろ、これこそ自由研究のテーマになるのではないかと思ってしまう。 


 また雫達に却下されるのだろうが…… 




 話がだいぶ関係のない所にまで発展してしまったが、戻すとしよう。

 

 白石と別れた後、こっぴどく雫と綺羅坂に文句を言われた俺は、当初の予定通り翌日……つまりは今日の午前中まで夏休みの課題を終わらせる合宿に参加していた。

 おおむね順調に進んだ夏休みの課題は、自由研究を残すだけとなった。


 成果としては上々と言える。

 夏休み序盤にここまで課題を終わらせたことは、過去にはない。


 これで後は夏休みを謳歌するだけ、そう言えればどれほど楽だっただろうか。


 現実は違う。

 問題は山積みである。



 雫や綺羅坂、小泉達の生徒会に関してもそうだ。

 そして、今現在進もうとしている、白石紅葉を巡る問題もある。


 課題だけしか終わっていないのだ。

 引くことも、背を向けて逃げ出すことも出来ぬ状況にまで進んでしまった現状で望むのは、この後の話で余計な面倒ごとが増えぬことだけ。


 一杯目のコーヒーが無くなり、二杯目を頼もうと視線を店内に戻すと同時に、来客を知らせる鈴が鳴る。

 店員の不愛想な声と共に、近寄る足音。


 その足音は、迷うことなくこちらに向かって近づいていた。


「お、お待たせいたしました……先輩」


「いや、時間よりも早かったな」


 待ち合わせの十分前、予想よりも早く白石紅葉は喫茶店へと訪れた。




 二杯目と一緒に、白石の分も注文をしてから、話は始まった。

 どちらからとも言わずに、言葉は自然と紡がれた。



「昨日は悪かったな……続きを聞いてもいいか」


「いえ……私もお二人が来るとは思っていませんでしたから……続きというのは会長職に立候補した理由でしたよね?」


「あぁ……」


 話は学年委員に入った理由を聞き終え、次に何故生徒会長になりたいのかという問いで途切れていた。

 白石が口元を近づけた瞬間に、雫と綺羅坂の手刀によって遮られたのだ。



 これだけは聞いておかなければ、話は前進も後退もしない。

 白石の言葉を椅子に深く腰掛け待つと、彼女は小さな声量で話し始めた。


「あ、憧れだったんです……私の理想とする生徒会で高校生活を過ごすことが」


「憧れ、理想ね……」


 理想を語るだけで終わってしまう。

 白石が告げた言葉だ。


 そのためには、使えるものは利用する……その考えの末にたどり着いたのが雫や綺羅坂達の生徒会への加入という答えだった。


 つまり、彼女の求める完璧な生徒会を作り上げ、そして束ねるのが彼女の憧れる生徒会というものなのだろうか。



「理由はそれだけか?」


 だとしたら、会長の買い被りだ。

 そして、会長だけでなく俺も含めた全員が彼女を過大評価してしまっていたのかもしれない。


 発言は大きく、それでいて蓋を開けてみれば、よくある自己満足だけの理由。

 それだけで終わってしまう。


 しかし、それだけでないから柊茜は白石紅葉を注目していたはず。

 俺の知る限り、会長ほど間違わない人間を知らない。


 だからこそ、俺も白石という生徒が気になっているのだ。

 

「ほ、本当に笑わないで聞いてくれますか?」


 白石は頬を赤らめて昨日と同じ問いを投げかけてきた。

 当然、返す言葉も同じであった。


「内容も聞いてないのに判断できないって昨日も言っただろ」


「そ、そうでした……では」


 「こほん」と、わざとらしく咳を零すと、彼女は姿勢を正してこちらを見据える。

 瞳からは真剣さが伝わってきた。


 自然とこちらまで視線が正しくなり、若干だが緊張感がこみ上げる。


 

「美少年と美少女に囲まれる生徒会って最高じゃないですか?」


「……………………」



 真剣に、真面目に、本気で、一切の冗談を含まずに彼女は言い切った。

 それこそ、二日と満たない短い間での関係だが、今までで一番真面目な表情で彼女は言い切ったのだ。


 

 言葉が出ない、その一言に尽きる。

 多分、俺は今までの人生において最も間抜けな表情をしているに違いない。


 だが、思考が完全に停止するくらい、白石の言葉には衝撃を受けたのは否定できぬ事実だった。




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